メインシナリオ#48 息の詰まるようなデート
「本条さんって高校生ですよね。何年生なんですか?」
映画館は二階にあるらしい。エスカレーターに運ばれながら黎太が訊いた。
「二年ですよ」
「いや、俺一年なんで、その、敬語…」
うららは常にそうだからか気にならないのだが、冥菜はシャドウで一緒だった時はため口だったので、どうにも気になってしまうのだ。
「そう? わかったわ」
なお、黎太は元の世界では高校二年生だったから、冥菜とは同い年ということになる。もっとも、こちらの世界の黎太は高校一年生だから、この場では後輩だ。気をつけないといけない。
「それで、本条先輩は
なに見るつもりだったんですか?」
「さあ。来た時にやっているやつを適当にって感じ」
「なんか、すごい楽しみ方するんですね」
たとえドリンクを我慢したとしても千三百円。安くはないはずだが、巫女の手伝いはそんなに稼げるのだろうか。
なんとなく不思議に思いながらもラインナップを眺めていると、冥菜が難しそうに唸った。
「うーん…イーストの方も覗かない?」
いきなりそんなことを言われて一瞬首を傾げた黎太だが、ここがウェスト館だということに気づきなんとなく察する。映画館が二つ、というのは、西と東で建物が分かれているということだろう。
「いいですよ?」
こうしてイースト館へ。それはなんと、再び線路の下を潜り、すぐの建物の中にあった。さきほど確実に目にしていたビルの一つである。
看板には〝映画〟の文字も〝MOVIE〟の文字もなかったので気づきようがなかったとはいえ、あらかじめ映画館の場所と名前くらい調べておくべきだったと今さらながらに思いつつ、観る映画を相談する。
ソシャゲ内の世界にも、どうやら毎年上映され続け、もう何十作を越える長寿アニメ映画があるらしい。
タイトルは微妙に違ったが、副題まで黎太が今年も見ようと思っていたシリーズそっくりのものである。
「ポップコーンとか食べる派ですか?」
「もちろん。なにも食べないとお腹空くし
チュロスとかでもいいんだけど
結局ポップコーンセットが一番安いのよね」
冥菜は迷うことなくキャラメル味のポップコーンセットを購入。黎太はあまり空腹感がなくて、炭酸ジュースだけにしておいた。
こうして映画を見終えて、シアターから移動する。タイトルからキャラクターまで、元ネタがわかっている割に一文字違いだったり似たようなデザインだったりするものだから、うまく没入できなかった。
元の世界の劇場で本物を観るためにも、こっちの世界にいる間、元の世界の時間が進んでいないことを祈るばかりである。
「ところで、どうしていきなり俺を誘ったんですか?」
「……え?
普通、映画の感想から話し始めるところじゃない?」
黎太はつい苦笑を浮かべる。ろくに憶えていない上に、そもそもどうして冥菜と映画を見ることになったのかが謎すぎて、適当な感想の一つも出てこない。
「まあいいけど。小路君を誘ったのは
ちょっとした気まぐれよ」
きまぐれで二度くらいしか会ったことのない男子を映画に誘う女子高生がいるのだろうか。
冥菜の立ち居振る舞いからはどこか素っ気ないというか、距離を感じさせてきて、たまたま会った知り合いを映画に誘う人柄とは思えない……と言いがかりをつけるのは失礼か――
どうにも調子を崩され気味なことに気づいて、黎太はかぶりを振った。そういう些細な仕草も、横を歩く冥菜が目端で捉えてくる。
「どうしたの?」
「あ、いえ…お腹空いちゃって。映画館でなにか
食べておけばよかったな、と
そんなわけで、どこか寄ってもいいですか」
言うと、途端に冥菜が目を丸くした。そして神社で見た、いかにもな愛想笑いを浮かべる。
「あら、奢ってくれるの?」
「え、と、まあ」
冥菜がしらけたと言わんばかりに表情を消して、「冗談よ」とつまらなそうに返された。
……もしかして、からかわれているだけなのでは? と気づきつつ、黎太は勘ぐるように冥菜を観察する。
視線に気づいたのか、冥菜は少し距離を取った。
「――今度はなに?」
ここまで敏感に反応されると、まるでなにか探られているような気さえする。
咄嗟になにか話題は、と考えて、肝心な行き先を決めていないことに気づいた。
「いえ、どこ食べに行きます?」
「いいわよ、いきたいとこ決めて
映画に付き合わせちゃったんだし」
「そうですか? じゃあ…
そこの、ファミレスで、どうです?」
ちょうどスクラブル交差点が見えてきて、そのすぐそばのビル最上階がまさにそうなのだ。
安いところだし、懐にも優しいならばと、おそるおそる提案してみる。
なにか言われたら今度は強気に「もしかしてデートのつもりなんですか」とからかい返す心持ちでいたのだが、冥菜のリアクションはもう生返事に近かった。
「ええ」
これでは黎太の完全な独り相撲ではないか、とどこか自虐に似た気持ちになって、ようやく黎太も落ち着きを取り戻していった。
ピーク終盤の賑やかさを見せるファミレスでは、しかし待たされることなくドリンクバー付近の二人席に通して貰い、手早く注文を済ませた。映画館でなにも食べていなかった黎太はともかく、冥菜はポップコーンを丸々一人で食べてなお、スパゲッティが入るらしい。
「本条先輩はドリンクバー頼まないんですか?」
「あたしは水でいいわ。長居する気なら頼むけど」
――まさにお冷やな態度だな――というくだらない感想を、なんとか飲み込む。冥菜もタイミング良く笑い飛ばすように鼻を鳴らした。
「なにかくだらないことでも思いついたんでしょう」
「俺今口に出してませんよね!?
幽霊どころか人の心まで見えるんですか!?」
「む…幽霊どころか…?」
やばい、と反射的に背筋が凍りついた。そそくさと席を立ち、冥菜の分の水まで汲んでくると言い残してドリンクバーへ。
ただ、たいした時間稼ぎにもならない上に、すぐそばにあったため、黎太が自分の分のジュースと冥菜の飲み水を注いでいる間も、ずっと責めるような眼差しが黎太に向けられていた。
「取ってきてくれてありがと
で、幽霊ってなんの話よ?」
「い、いや…このあいだラビリンスに挑戦した時
本条先輩のシャドウをお借りしまして…
その時にそんな話が合ったようななかったような」
嘘である。緊張している時に冷たいジュースを飲むと、意外といい方便を思いつくものだ。
「シャドウのあたしが? ――ふうん」
信じていない顔だ……しかし、追求してこない以上、こちらから話を続けてやる必要はないだろう。黎太は咄嗟に話題を変えた。
「そ、そんなことより
本条先輩って山藤に通ってるんですよね
勉強とか大変ですか?」
「そうね。まあ楽じゃないけど――」
ちょっとした雑談でさえも、やたらギクシャクしてしまう。
それでも料理が来るまでなんとか凌いで、結局ビルの外で解散、という形で収まった。
なんだかやたらギクシャクした映画デートだったな、と、妙な疲労感を憶えながら、黎太はそのまま帰路に着く。




