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ソシャゲログイン! ~雲海のラビリンス~  作者: 千馬
メインシナリオ#第二章_ラビリンスクエスト編
53/70

メインシナリオ#43 お花畑は油断禁物

 黎太たちは現在、開けた土のエリアに腰を下ろし、クリーチャーの奇襲を警戒しつつも小休止を取っていた。

 かれこれ数回の戦闘をこなし、倒したクリーチャーの数はその三倍ほど。なかなかのハードさだ。


「プチラビリンスっていいますけど

 全然プチってレベルじゃないですよ、この広さ…

 花ばっかりで目が回ってくるー…」


 花園のプチラビリンス中央にそびえる核樹。それがあるからまだなんとかなるものの、前後左右がパステルカラーの花畑で、円形の迷路のような道を進んでいると方向感覚が狂ってくる。

 ただでさえ、ラビリンスには特殊な魔力が満ちていて、普通の運動とは違う魔力的な負担を強いられることになるのに、視覚的にも負担を強いられるのだから楽じゃない。

 愚痴のように呟きながらフライドポテトを頬張る黎太に、うららが微笑みを向ける。


「プチといってもやはりラビリンスですから

 一筋縄ではいかないですよ

 …それにしても花畑にポテトって似合いませんね」


 今黎太が食べているのは、棒状に切ってから油で揚げて塩を振って〝調理〟されたフライドポテトではない。

 触媒となるジャガイモと術式用の塩を、魔法陣が書き込まれた専用の鍋に入れて『ポテト錬成術式』という魔法で〝錬成〟されたフライドポテトなのだ。

 これを食べることによって、スタミナの最大値の半分を回復することができる。

 はっきり言って、味はまったく美味しくない。柔らかい食感なのだが、鼻につんと抜けていくお芋の香りには刺激感があって、口の中にはスースーとした爽快感が残る。まるでガムを噛んだ後のような感覚が残るのだ。


「ははは…それより、マップの調子はどうですか」


 ポテトを食べきり、うららの手元を覗き込む。

 うららは手元のタブレットを黎太と未果の方に向け、スタイラペンで視線を誘導した。


「スタートが南のこの地点、ここから東に向かって

 内側に外側に揺れつつ移動して、今いるのは北側の

 この辺りですね」


「うわっ、ややこしい! すごいです西川先輩

 私が書いたらぐちゃぐちゃになりそう」


 円形の地図の中には、黎太が思っていた以上に複雑な迷路が描かれていた。

 分岐点は数多いが、行き止まりとなって引き返したり、別の分岐点に行き着いて危うく同じ場所をぐるぐる巡りそうになったりするルートがほとんどだ。


「いやぁ、慣れればみんな書けるようになりますよ

 それより地図を描いているわたしとしては

 小路君の分かれ道の選び方が気になりますね」


「へ? 別に、適当ですけど」


「それでこうなりますか」


 うららがマップに目を落とした。序盤の分岐はだいたい埋まっている。これは行き止まりの道を選びまくった結果、マッピングが細かくできたと言えよう。

 逆に進むにつれて未踏破の分岐ルートが増える傾向に出て、その先の部分は空欄になっている。これは行き止まりのルートを選ばなかったからこそできる隙間だ。


「うわ、ほんとだ…マップの埋まり具合から

 黎太の勘がどんどん鋭くなってるのがわかる…」


 むしろ褒められるべきことだろうに、なぜか引くような声音で未果に言われて、黎太は咄嗟に手を振った。


「でもほら、別に後半全部正解ってワケじゃないだろ

 それになんだ、ある程度慣れれば傾向がわかる…

 みたいな、そんな感覚ないか?」


 黎太自身、言葉で説明しにくい感覚だった。

 情報を集めて解析するというほど理屈的ではなく、適当に明後日な発想から雑にコレと決めるほど直感的でもなく、それらを足して割ったような――と、それでも説明を頑張った黎太だったが、結局理解してもらえそうになかった。

 歯がゆそうにこめかみにスタイラペンを押し当てたうららが、理解することを諦めて話を戻す。


「小路君の直感のメカニズムは置いておくとして…

 それにしても入り組んでいますよね。このあとは

 どうします?」


 ここでさっそく、再び、黎太の直感が閃いた。

 仮に今いる地点が正解のルートだとして、スタート地点から最短距離を辿ってみると、なんとなく今後の正解ルートも見えてくる。


「もしかすると外側から渦巻き状に内側へ進む感じで

 道が繋がっているのかもしれませんよ?」


 うららの顔が、ずい、と迫ってきて、黎太は思わず息を呑んだ。黎太の眼前で未果とうららがマップを覗き込んでいるので、耳の形の違いがよくわかる。


「…おお、言われてみればそんな気もします

 さすが小路君、本当によく気づきますね」


「で、黎太としては核樹に行ってみたいわけ?

 道順に進むとなると時間かかりそうだよ」


「行ってみたい気はするが、それはともかく

 問題のクエスト的に考えれば、依頼人と同じ状況を

 作りたいところだけど」


「趣味でお花を摘んでいたら奇襲された

 としか書かれてないもんね…」


「そうなんだよなぁ…とりあえず一通り回ってみて

 こまめに花を摘みながら回ってみるしかないか…

 西川先輩はどう思います?」


「それでいいと思います

 ただ、数日に分けた方がいいかもしれませんね

 魔力とスタミナもけっこう減っていますから…」


「それじゃあ、今日はどこまで行くんですか?」


「西側の外周を埋めつつポートへ戻りましょう

 敵のレベルが雲海のラビリンスより若干高めです

 レベリングしつつのんびり攻略した方がいいかと」


 うららの慎重な意見に同意して、黎太たちは探索を再開するべく荷物をまとめた。


 それから西側を回って南下していく。

 しばらくしたところでうららが不安げに声を上げた。


「もしかするとこの土の道、ラビリンスポートまで

 繋がっていないかもしれません

 来た道を戻るか、花畑を突っ切るかしないと…」


 それを聞いて、未果が嫌そうな顔をした。

 この花園のラビリンスの特徴の一つに、花を摘んだらクリーチャー戦というのがある。

 花を摘まずに道なりに進む分には、クリーチャーとの遭遇はほとんどないのだが、花のエリアに足を踏み込んだり、一輪でも花を摘めば最後、高確率で敵クリーチャーが沸いてくるようなのだ。レベル設定が高いのも、そのせいかもしれない。しかしその甲斐あって、黎太たちのレベルもぐんと上がっている。特にレベル十三だった黎太は、なんと一七まで上がっているのだ。


「どうする、黎太? 来た道戻る?」


「いや無理だろ、魔力とスタミナの残量的に考えて

 …ちなみに西川先輩、無理矢理突っ切るとして

 距離はどれくらいになりそうですか?」


「一番短そうなところで…そうですね

 ここから少し戻った先の西側の道の行き止まりから

 南東方角に二百メートルくらいはありそうですね…」


「一輪摘んだら即感知される花畑で二百メートル走か

 例の熊、二、三頭は出てきそうだな…」


「ハチカイコグマが二頭も出たら取り巻きの蜂の数が

 とんでもないことになりますからね

 空埜さんの魔力が心許ない以上、無理は禁物…ん?」


「手持ちの回復揚げ物もないしなぁ…唐揚げがあれば

 未果のスキルAでごり押しができるのに」


「あってもいやだよ、美味しくないし…

 それに……太るし」


 拗ねるように言ってくる未果に、しかし黎太はデリカシーを度外視した思考で考え直して、同じ結論に至る。

 来た道をゆっくり戻って発生する戦闘回数と消費スタミナから考えれば、途中で力尽きるのは確実。二百メートルを全力疾走しつつ目の前に出現したクリーチャーを未果の広範囲スキルでひねり潰した方がまだ生還できる目処が立つ。


「それくらい我慢してほしいところなんだが…って

 西川先輩? どうかしたんですか」


 なにやら手元のタブレットと周囲の景色を何度も何度も見比べているらしいうららに声をかけると、うららは可愛らしいうなり声を上げながらタブレットを差し出してきた。そして、花畑を挟んで前方五十メートルほど先にある、土の道を指す。


「いえ、あそこの道、たぶんマップだとこの辺だと

 思うんですが…わたしが書き漏らしたんでしょうか」


 うららの見つけた道の方角は、ちょうどラビリンスポートがある方向だ。となれば二百メートル走を五十メートル走まで縮めることができるかもしれない。


「未果、スキルB一発分くらい残ってるよな?

 敵単体に超高火力を出す方」


「え? うん…でも、本当に一発までだよ?

 どっちにしろ、スキルAもだけどさ…」


「西川先輩、突っ切る方針でいいですかね」


 普通に戻ったのでは途中で力尽きる。ならばリスクを撥ね除けながら強行突破をするしかない。ではどのルートで……おそらくは黎太と同じような考えに至ったのか、うららは神妙な顔で頷いた。


「あの道へ、行ってみましょう」


 黎太たちは息を呑んで覚悟を決めると、いっせーの! の合図で駆けだした。

 正面に出現したクリーチャーだけを倒す作戦の都合上、先頭は未果だ。真ん中に回復のできるうららを置き、黎太は最後尾で出現クリーチャーの種類を伝える役割である。


 未果が一歩踏み出した瞬間、右手側前方五メートルもないくらいから突如飛び出すオオミツバチ。

 これをうららと黎太の魔力弾で倒しつつ、三人は一列縦隊で花畑を荒らしていく。

 時間にしてわずか十秒ちょっとの――これで荷物がなく足場が良好な新体力測定ならば、一番足の遅いうららでももう少し速く走れるのだが――疾走で、辺りにはクリーチャーの気配が強烈に充満していた。


「空埜さんはこの道をまっすぐ!

 小路君、敵の数は!?」


「左後ろから熊一体、蜂二匹!

 前方は見ての通りです! 前の三匹だけ倒して

 後は無視して駆け抜けましょう!」


「ちょ、西川先輩!?

 この道、ポートから遠ざかってません!?

 あそこですよね、ラビリンスポート!」


 未果が左側に指さした先に、小さく見える半透明な白く光る場所、そこがラビリンスポートである。

 一方、未果たちが駆け抜けている土の道は、緩やかにカーブして、ラビリンスポートから遠ざかるように伸びていく。そして、その先は――行き止まり。

 この道の真相に気づいて、うららが大きな声で嘆く。


「そんなっ! この道

 どことも繋がってなかったじゃないですかぁ!

 そりゃマッピングできませんってばぁ!」


 クリーチャーたちの追い立てる足音が、羽音が、まるで嘲笑うかのように黎太たちの背後から響く。


「未果、もうこうなったら花畑突っ切れ!

 強引にラビリンスポートに飛び込む!」


「う、うん!」


 もはや隊列など意味を成さない。黎太たちはとにかく進行方向にいるクリーチャーだけを攻撃し、左右後方から迫るクリーチャーへ魔力弾の威嚇射撃を行いながら、花畑をドタドタと突っ走る。


 突如前方に、花畑の地面を盛り上げて、巨大な影が現れた!

 黎太の持っていたスマホに、そのクリーチャーの情報が表示される。


「ハチカイオヤグマ! レベル二十五ッ!?」


 その体躯は二メートルにも及び、なにより大きい。凶暴な犬のような顔にはギラリと光る犬歯が覗き、その極太の四肢が宙を薙ぐと、重たい音が風となる。


「絶対勝てるわけないじゃん!」


 ラビリンスに出現するクリーチャーのレベルは、少なくとも同レベルの黎太では一対一で戦うと勝てない相手だ。黎太の予想では、クラスランク☆5で同レベルなら一対一で勝てる、という具合だろうと推測している。

 今このユニットの最高レベルは、☆1未果の二十二だ。万全の体勢を整えていればともかく、HPもMPもスタミナも限界が迫っているこの状況で、レベル二十五相手に敵うわけがない。


 ハチカイオヤグマが、吼える――!

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