メインシナリオ#39 新システム、ラビリンスクエスト
冬渡神社、社務所にある和室の客間。
大きくて風格のある座布団の上で、黎太と未果は並んで正座していた。二人と三角形を描くように、冥菜も座布団の上で正座している。
「どうぞ楽になさってください
コーラとかサイダーとか、もっと気の利いたものが
あればよかったんですけど」
手元にはわびさびのある受け皿と湯飲みで淹れ立てのお茶が出されていた。黎太たちはなんだか一口飲まないといけない気がして口をつけ、緊張のままに思いついた話題で切り出す。
「あ、あの。さっきの方って、いったい…?」
「ああ…警察の方です。ここ、警察官立ち寄り所で」
「け、警察…? でも
とてもそういう空気には見えませんでしたけど…」
冥菜はぎこちない笑みを浮かべるも、誤魔化す気が失せたのか、お茶を一口飲んで声のトーンを落とした。
「まあ知り合いなわけでして…どこからか
あたしがラビリンスに挑戦していることを知って
クエストの依頼を受けるよう言ってきたんです」
「く、クエスト?」
突然飛び出した予想外な単語に目を丸くすると、冥菜もきょとんとして尋ね返してきた。
「まだご存じではありませんでしたか?
ラビリンスクエスト。まだ導入されて数日ですが
てっきり耳に届いているものかと」
「ラビリンスクエスト…?」
「あ、そういえば〝お知らせ〟にそんなことが
書かれていたような?」
未果の言葉を聞いて、冥菜はこくりと頷く。
「日本ILA協会が新たに導入した魔法システム…
ゲームでよく聞くそれと同じように、依頼人がいて
それをこなす挑戦者がいる…要はそういうことです」
ざっくりとした説明に対して曖昧に相槌を打つと、冥菜はもう少し細かく説明してくれた。
「たとえば、ラビリンスで手に入る魔法アイテム
これを欲しがる人がいたとして、しかしその人は
クラスライセンスのレベルが低いとしましょう」
冥菜が左手の人差し指を立てる。
「その人が依頼人となって、クエストを申請します
報酬と欲しいものなどを設定し、自分の代わりに
目的を達成してくれる人を募るのです」
今度は右手人差し指を立てる。
「一方挑戦者ユニットは、自分たちの力で達成できる
クエストを選択。これをこなすことができれば
報酬を貰えます」
冥菜の両手が膝の上に下ろされた。
「この運用を始めたのが日本ILA協会であり
事実上の、各ラビリンスポート受付スタッフですね」
「それが、ラビリンスクエストですか」
「はい。つまり、クエストを誰が受けるのか
依頼人には指定できないのですが…先ほどの刑事は
それを指定するべく、押しかけてきたのです」
「なるほど、それでさっきのいざこざに…」
黎太は納得したと唸った。
あらかじめ「これこれこういうクエストを申請しておくから受けてくれ」と話を通しておけば、クエストを受ける人を依頼人側が選ぶこともたしかに可能だ。
しかしよりによってなんで刑事が女子高生にクエストの指名を……? という疑問が浮かんだところで、冥菜が話を終わらせた。
「そういうわけです
本当にお見苦しいところをお見せしてしまいました
それより、お二人にもあたしに用があるんですよね」
冥菜から話を促され、そうだった、と黎太が本題に入る。
「あの、以前お会いした時
俺のことを視て〝妙な気配〟とかなんとか
言っていましたよね」
瞬間、冥菜の表情がぎこちなくなる。
「うっ、その節は失礼なことを…
気にされていたならすみません」
「い、いえ! 責めるつもりで来たわけじゃなくて
その件でお願いがあってきたんです!」
「…………はい?」
「変なことを言っているのはわかっているんですけど
とにかく、俺と同じ〝妙な気配〟ってのを感じる人
他に知りませんか?」
未果がぼそりと「飛ばしすぎ」とブレーキをかけてきて、黎太はこほんと咳払い。
冥菜は黎太と未果を交互に見つめて、黎太に視線を定めた。
「どういうことです?」
「わけあって、そういう人を探す事情ができまして…
という説明じゃ、説明になってない…ですよね」
あはは、と黎太が空笑いを浮かべ、未果が必死に溜息をかみ殺している。きっともう冥菜の不信感はマックスで、追い出されても仕方ないか……と居心地の悪さに耐えられなくなったその時。
冥菜が、首を縦に振った。
「まあ、いいでしょう
いったいどんな事情があるのか知りませんが
人捜しなら興信所へ行くことをお勧めしますよ」
こうしんじょ? と言葉の意味がわからなくて首を傾げる。
「探偵ということです。浮気とか、家出とか
たまにウチをそういうのと勘違いする人がいて
困るんですよね。祈る分には歓迎なんですけど」
一瞬だけ、冥菜の目つきがキツくなった。どうやら自分たちはその手のタイプだと勘違いされたらしい。
咄嗟に否定しようとする黎太よりも先に、冥菜が呆れを二割増しにした口調で続けてくる。
「高校生がいったいどうしたら
意味深な人捜しなんて始めるのか知らないですけど
ちゃんとした人を頼ってくださいね」
「う…はい。お邪魔しました…」
これは完全に聞く耳を持ってくれそうにないだろう。黎太は未果とアイコンタクトをして、しずしずと冬渡神社を立ち去った。
「やはり、事情を説明しないで協力を仰ごうってのは
いくらなんでもわがままが過ぎるよな…」
「そりゃあねぇ…おまけに事情を説明してもなお
その内容が突拍子もないんだから」
わざとらしく溜息をつく未果に、黎太はそれでもと拳を握った。
「まあ、切り替えていこうぜ
本条さんの協力は取り付けられなかったけど
西川先輩とラビリンス攻略をしていけばいいんだし」
「そういえば、クエストが導入されたって言ってたね
今はとにかく、登っていくしかない、か」
見上げれば、雲海のラビリンスはいつも千葉中央駅の上空に佇んでいる。




