メインシナリオ#38 二人目の☆5キャラ
柳ハウスのリビング。一人ソファに座った未果から「☆5が出た」という報告を受けて、食卓の椅子に座っていた黎太は反射的に立ち上がった。
「うそだろ!?」
ほら、と未果が画面を向けてくるので、黎太は急いで駆け寄った。
画面いっぱいに映し出されているのは、今未果が引き当てたばかりの☆5キャラ――本条冥菜のイラストだ。
神社前の石段で、右脇に竹箒を置いて座る巫女装束のイラストである。右膝に頬杖をついて座る彼女の横顔は、いじらしげに唇を尖らせていて……なにより、淡い朝焼けの空と清らかな朝の日差しが、彼女を幻想的に照らしている。
こうして十一連ガチャで手に入れたカードの一覧が表示された後、カードイラストから背景の部分だけを切り取った冥菜のイラストが画面いっぱいに表示され、画面下部にテキストボックスが表示された。
『(【神様の悪戯】本条冥菜)
どうも、本条冥菜です
あたしはどうやら
木属性のレンジャーになったようね』
『(【神様の悪戯】本条冥菜)
レンジャーねぇ…一番忙しいクラスじゃないの
いいわ。あたしがあなたの冒険を手助けしてあげる
だから戦闘は任せたわよ。しっかりやんなさいよね』
『(【神様の悪戯】本条冥菜)
…はい? なにか悩み事でもあるのかって?
あたし、ここの神主の娘で、巫女でもあるから
色々あるのよ。ま、これからよろしく』
『(空埜未果)
やったね! この調子で次も頑張ろうっと!』
画面が戻って、未果が――画面の中にいるキャラクターとしての未果が――そう言い、十一連ガチャが終了した。
リザルト画面には、他十枚のカードが一覧となって並んでいるが、そのいずれもが☆3だ。三枚ほどは男子のカードもある。
「未果、おまえすげーな」
「いや…うん。それより、どうすればいいの?」
まさか☆5が引けるとは思ってもみなかったのだろう、未果は少し戸惑っている様子だ。
とりあえず、黎太は☆5冥菜のステータスを確認してみた。
『☆5/木/【神様の悪戯】本条冥菜/レンジャー
LV.1 HP:82 MP:38 ATK:27 DEF:26 MAT:28 MDF:27 SPD:39 LUC:24 スタミナ:35
天恵スキル「神託のお導き」LV.1/視界内の魔力の流れを感知する
スキルA_「まったくもう、今日は散々だわ」LV.1/敵全体に高確率でかなしばり付与
スキルB_「……お気遣いどうも」LV.1/味方一人のチャージタイムを短縮しMPを小回復』
「…西川先輩の時は
引いた瞬間天恵スキルも発現してたけど…
既に本条さんはシャドウリストにこれがあったよな」
「言われてみれば、見たことある気がする」
ラビリンスに挑む時、ユニットレベル以下のシャドウを同行させることができ、その際に見ることができるリストの中に、既に木属性☆5冥菜はいたはずだ。
つまり、とっくに冥菜は自身の☆5クラスライセンスを持っていることになる。
「薄々感じてはいたんだけど、もしかすると
このソシャゲの状態が、ある程度現実に影響を
与えているのかもしれないな」
「というと?」
「ガチャで手に入れたカードのキャラとしか
ユニットを組めないとか」
「そういえば、西川先輩の☆3は
黎太がこっちに来る前に既に引いていたって
言っていたっけ」
「ああ…。でも、だとすると疑問が出てくるんだよ
俺の☆1と未果の☆1はどこから来たんだ?」
「そもそも、出現キャラクター一覧にあるのは
☆3からだよ。なんなら私と黎太の名前
☆4☆5どころか☆3にも書かれてないし」
「…答えを出すためには、まだ手がかりが少ないか?
もう少し色々試して知ってから考えるべきことだな」
ラビリンスの創造主のことといい、謎は増えていくばかりだ。しかし一方で、一つ手がかりが増えたのも事実。
今し方未果が引き当ててくれた本条冥菜には、唯一無二の能力があることを思い出したのだ。
「それにしても、そうか、本条さんがいたんだ…!」
「黎太? おーい、だいじょぶー?」
目の前を未果の手がぶんぶんと動き、黎太はハッと顔を上げる。黎太としては長考していたつもりはないのだが、この一瞬で深く考え込んでしまったようだ。
「なあ、未果
俺たちが最初に本条さんと知りあった時のこと
憶えてるか?」
「え? うん。フレンド交換した時のでしょ」
「あの時、本条さんはどういうわけか
俺の身体と魂が別人であることを
察しかけていたよな」
「そんなこともあったね
たしか、霊が視えるんだっけ?」
いつのまにやら、未果はソシャゲのキャラクター一覧に目を通していたらしい。冥菜のプロフィールを読めば、彼女が霊的なものを視ることができるのはだいたい察せる。
「まあなんでわかるのかはともかくとして…
もし本条さんに協力をお願いすれば、もしかしたら
俺と同じ境遇の人を探してもらえるかもしれない」
「協力って……」
「未果も前に言ってただろ
頼れる人に心当たりないかってさ」
「そうだけど、いくら幽霊が視れる人でも
この世界をゲームとして遊べる世界だなんて
そう簡単には信じられないんじゃ…」
「まあ、俺の事情を全部打ち明けるかどうかは
状況によりきりで決めればいいだろ」
「取り返しのつかない事態にならなければいいけど…
それで、いつ会いに行くの?」
「そうと決まれば早いほうがいいけど
土日は西川先輩とラビリンス攻略の予定もあるし…
それこそ先輩が文芸部のある月曜とか」
「うん、わかった
じゃあ週明けの放課後、冬渡神社だね」
* * *
冬渡神社は、独特な石垣の擁壁が目印だ。あとは道沿いにある少し上りにくい石の階段を上ればいい。
この間引いた☆5冥菜のイラストの背景が、まさにその石段の頂上だったことを思い出す。普段は朝からそこで黄昏れているのだろうか、と想像しながら横断歩道を渡り、階段の方を向く……と、まさに想像していた石段の入口に、一組の男女がいた。
すかさず、未果が目を細める。
「ねえ黎太、なんかあれやばくない?」
制服の女子と、ラフなシャツとチノパン姿の大人の男性。
男性の方は、三十代くらいだろうか。髪はスポーツ刈り。細身ながら鍛えられた肉体はよく引き締まっている。
女子高生の方はこちらに背を向けているが、チェック柄の目立つブレザーの制服と緑色の髪は、間違えようもなく本条冥菜だろう。
「ですから、何度も断っているじゃないですか!」
「君にしか頼めないことなんだ!」
どうやら男の方が冥菜になにかを懇願し、しかし冥菜はそれを嫌がっているという構図だろう。
そうわかるや否や、黎太は駆け寄るように急ぎ足になった。
「本条さん!」
声をかけると、二人してびくりと肩を震わせ、黎太の方に目をやる。
それでもすぐに冥菜がチラリと男に目をやると、男の方は渋々といった様子で踵を返して去って行った。
「あなたたちは、このあいだの」
「小路黎太です。それより、大丈夫ですか?
なんだか揉めているみたいでしたけど」
「もしかして、ストーカーとか」
未果が不安そうに尋ねると、冥菜はどこか疲れたように溜息をついて、首を横に振った。
「いいえ…たしかにめんどくさい人ではありますけど
別に危ない人じゃないんです
とにかく、お二人のおかげで助かりました」
そう黎太たちにお礼を告げてくる冥菜は、カード入手時のセリフに比べると他人行儀感がする。
少しやりづらいな、と感じつつ、黎太たちは社務所に案内されるのであった。




