メインシナリオ#36 豪華なイベント報酬
「今の私たちに、すぐに解決できることはない、かぁ
もどかしいね」
黎太の部屋のベッドで、未果が吐息を漏らす。しかしその顔は穏やかだ。
「でも、焦ったってしょうがない。だろ?」
「うん
それに、ラビリンスを攻略していくことはできるし
やれることがあるだけいいよね」
未果はついこの間まで、ラビリンスに挑戦したいのに天恵スキルが発現していないためなにもできない日々に堪えていた。それに比べれば、目的のためにやれることがあるこの現状は、なんら嘆くことではないのだ。
「それより、黎太の事情を理解できる立場の人で
頼れる人に心当たりないの? 例えば千代さんとか
…まあ、信じてもらえるかは微妙だけど」
「んー。今さら言い出しづらいってのもあるけど
混乱させるのも忍びないし…」
実際、千代とうららに打ち明けるべきかどうかという問題は、タイムアタックイベント開催期間中からずっと心の片隅に淀むようにあったのだ。そのあたりも、そろそろしっかりとスタンスを決めていきたい――そう思った矢先、ふとある人物が脳裏を過った。
「あ、そうだ
逆に知られたらまずい人はいるんだった」
それだけは伝えておかなければ、と黎太は未果に真剣な眼差しを送る。
「俺たちの学校の校長先生、いるだろ」
「校長先生?」
「ああ。こっちの世界に飲み込まれる直前
俺はアニメ第一話だけ見てきたんだけど…
そのCパートで、不穏な様子を見せていたんだ」
「不穏な様子、ねー…
でもそれアニメの話でしょ?」
未果が呆れた顔で返した。
実際、この世界は〝雲海のラビリンス〟という作品の世界だが、さらに厳密にいえば黎太のアカウントのソシャゲ世界だ。
仮にこれがアニメの世界線なのだとしたら、既にこの柳ハウスには他にも四人の美少女たちが一緒に暮らしていることになる。
「そうだけど…用心しておいた方がいい気はする
そういう意味では、西川先輩に伝えるかどうかは
よく考えた方が良さそうだな」
「私たちと同じ学校に通っているもんね
でもだからこそ、教えておいた方がよくない?
…いや、それもそれで危ないのかな」
「ああ。校長先生からまずいアクションを起こして
それが西川先輩に被害を及ぼす構図を想定するなら
あらかじめ教えておいた方がいいことになる。けど」
黎太がそこで言葉を句切ると、未果が繋ぐように黎太の思考をなぞった。
「逆に西川先輩が校長先生とばったり出会った時に
変なリアクションをしちゃったら
教えたせいで先輩が校長先生に怪しまれることに…」
「そういうことになるな。そうなると、同じこの家で
暮らしている千代さんにも、相談するかどうかは
慎重になるべき…って話にもなるからなぁ」
「千代さんの口から西川先輩に伝わっちゃう可能性も
あるもんね…千代さんと三人で話しているところを
聞かれちゃうのも困るし」
「ああ…。やっぱり当面、このことは
二人だけの秘密にしてくれ…」
そう結論づけたのはいいが、それでいいのだろうか。どうにも自信がなく、黎太の語気が弱まっていく。
対して、未果はベッドシーツを強く握って頷いた。
「二人だけの、秘密…う、うん。わかったっ」
「いや、そんな重く受け止めなくても」
「ぬぁっ…!? べ、べつにそんなんじゃないしっ」
ならいいけど、と黎太は立ち上がり、洋服ダンスが入っているクローゼットを開いた。
未果はどこか不満そうに唸ったものの、短く息を吐くと立ち上がった。
「じゃ、俺は風呂入ってくるから」
「ん。私も宿題やっちゃわないと。じゃあまた明日ね
おやすみ」
「おう。おやすみ」
* * *
「――ハイ! というわけで、改めまして~…!
うららちゃん、未果ちゃん、黎太君!
タイムアタック第一層第一位! おっめでと~!」
翌日のリビング。
千代が、昼間受け取っておいてくれた荷物を、じゃん! と出してくれた。
平たい直方体の段ボール箱で、なにより黎太の気を引いたのはロゴマーク。段ボール製造会社のロゴか運送会社のロゴかの問題ではない。ソシャゲ〝雲海のラビリンス〟ホーム画面のプレゼントボックスのアイコンそっくりなのだ!
「こんなところにメタメタしさが…!」
「ど、どしたの? 黎太君」
「いや、なんでもないっす…」
「そう? とにかく、早く開けてみてよ」
未果もホーム画面を見たことはあるはずだが、さすがに元々こちらの世界の住人で、おまけにアプリをいじったことすら数回しかないとなれば、気づかないのも当然だ。
誰が開けるかで譲り合って、年長者であるうららが開けることに。
ガムテープを剥がすのを見守る。開かれた箱の中には、中には想像以上にいろいろなものが入っていた。
一番上にプリントの入ったクリアファイルがあり、それを手に取ったうららが目を通す。
「賞状、レコード達成報酬、ランキング報酬…
どうやら、今回のイベントで貰えるものが全部
ひとまとめにされているみたいですね」
「へぇ~。天結晶にラビリンスコイン、うはあ大量だ
で? 記念品として賞状と楯に称号が刻まれてる…
さすが一位取っただけあって、豪華だね!」
「天結晶やコインはみんなで分ければいいですけど
一個ずつしかないものもあるみたいですね」
特に賞状と盾は華々しさがあり、サイズも大きい。
自分たちは三人いるのに、と黎太が未果とうららの様子をうかがうと、二人とも遠慮がちに微笑みを浮かべていた。
そんな空気の中、最初に口を開いたのは未果だ。
「じゃあ、もしみなさんがよければ、ですが
私は、千代さんにあげたいです」
「なんであたしなの!?
いいよお、変な気遣わなくてもー」
「でも私、私に天恵スキルが目覚めたのは
千代さんのおかげかなって思うんです」
未果の真剣な説得に、黎太も加わった。
「それに俺たち、ここで暮らしてるんですよ
誰のものかはともかく、みんなで見られる位置に
置いて貰えたら嬉しいです」
千代は改めて黎太たちの意思を確認してきて、異存がないとわかると、嬉しそうに引き取ってくれた。
「そう? じゃ、明日は額縁買ってこないとだね!
楯は玄関の下駄箱の上に飾るとして…
賞状はどこがいっかな~?」
さっそく楯を持って玄関へと向かう千代を見送り、黎太たちは天結晶などの分配を始める。
「EXP結晶石は、日頃〝絆の恩恵〟のお礼として
すべて小路君に差し上げるとして…
天結晶五千個。三等分はできませんね」
うららが眼鏡を光らせる。
黎太は苦笑しながら言った。
「まあまあ、そこまで厳密に分けなくても…そうだ
四等分にして、牧園先輩にも渡しません?
シャドウとはいえ、協力して貰ったんですし」
「それはいい考えですね
空埜さんはそれでもいいですか?」
「もちろんです!」
「ところで、このキーコードは?」
黎太が示したのは、『キーコード』と書かれたQRコード。これはどういうものなんでしょうか、という意味で聞いたのだが、言葉足らずだったようだ。うららはベクトルのずれた回答をしてきた。
「お二人でご相談して決めてください
わたしはもう☆5ですし。☆1のお二人なら
レベル六十まで上げれば使えますから」
しかし、その回答のおかげでだいたい察せた。
これはクラスランク――ガチャでいうところのレアリティを上げるために必要なものなのだろう。そして、これを使うにはそれなりにレベルを上げないといけないようだ。もしかすると、☆1のレベル上限は六十という意味なのかもしれないが。
「わかりました。じゃあこれは取っておくとして…
牧園先輩のところへはいつ行きますか?」
「明日もわたし、文芸部があるので
明後日の放課後とかどうです?」
「わたしはお料理研がなければ大丈夫です」
――こうして順調に話はまとまり、黎太は色々と有用なものを手に入れることができたのだった。




