キャラシナリオ#西川うらら 秘密の隠し味 後編
「――という感じで
もちろん、さっきまでのと同じく
分量はしっかりと守ってくださいね?」
うららに逐一お手本を見せてもらいながら、黎太は着々とお菓子作りに励んでいた。といっても、十分かかってようやく、今日使う材料を一通り揃えたところだ。
「これから混ぜる工程に入ります
まずはバターと塩と粉砂糖を入れてください」
「はい」
「そして、この泡立て器か電動ハンドミキサーで
白くなるまでしっかりとすり混ぜ…るんですが
どうしましょう、ハンドミキサーがありません」
戸棚をパタパタと開けては閉めて、うららが困ったようにそう言った。黎太としては、針金を数本マラカス状に形作った器具に『泡立て器』という名前があったことに驚いていたのだが、それどころではないようだ。
「この泡立て器――
カシャカシャじゃダメなんですか」
「時間かかりますよ?」
「はあ…じゃあ先輩の分まで俺がやりますよ」
「え、あの」
まだ昼過ぎとはいえ、準備をするだけでも十分かかっている。このままだと黎太のせいで夕飯に間に合わない懸念がある以上、時短できるところはしていくべきだ。そんな焦りが、黎太を少し強引にさせた。
「いいですから。ちょっと貸してください」
「あっ、は、はいっ」
なぜかうららは緊張したようにボウルから手を離し、黎太を凝視してくる。しまった、うららからすればお菓子作り初心者に混ぜさせるのは不安なのだろう――と黎太も緊張しながら、泡立て器を握った。
手つきをじっと見つめる熱い視線を、厳しいチェックと思いつつ、黎太はミスがないよう丁寧に、それでいて力強く混ぜる。
「それで先輩。白っぽくって、どれくらいですか?」
「えあ、あ、はい! そのくらいで大丈夫ですっ」
まだ余裕はあるが、これで二人分混ぜ続けるのは過酷だぞ……と後悔しつつ、しかし一度言い出した以上、もう疲れてできませんなどとはかっこ悪くて言えるわけがない。かといって、やたらじっと見つめてくるうららの前で力を抜くわけにもいかず、黎太は意地を張り続けた。
「ぜぇ、ぜぇ…
あの、なんで材料
全部まとめて混ぜちゃいけないんすか…」
うららの指示はスパルタだった。溶き卵なんて、わざわざ三回に分割して入れるなんて言い出したのだ。それだけで黎太の混ぜる回数は六回。しかもバターと卵が初期の方に入っているから、粉が追加される度に重くなる。
「分けて入れた方が美味しくなるって気づいた人が
そうレシピに残したんです
一度に混ぜても同じ味なら、最初から分けません」
「なるほど、一理ありますね…!」
「レシピとは、研究レポートなんですよ」
瞬間、黎太の全身が雷に打たれたように震えた。
「わ、どうしました…?
わたし変なこと言いまし…たよねたしかに
あの、忘れてください…!」
確かにセリフが問題で震えたのだが、視点が違う。水属性☆5ヒーラーうららのスキルA。そのスキル名こそ――『レシピとは、研究レポートなんですよ』である。まさかあのいかにもセリフっぽいスキル名が、まさか本当にセリフとしてうららの口から出てくることになろうとは。
「いえ、メタメタしすぎて…じゃなくて
とてもいい言葉だと思って…すごく響きました」
☆5イラストの格好をしている今、そのカードのスキル名を口にするのもまた必然なのか……と思ったその刹那、当然、連鎖的に思い出すのはスキルB。となれば、まさかそのセリフすらも再現が……と思えば、ごくりと喉が鳴るのも仕方のないことだ。
「と、とにかく、混ぜるのはこれでOKです
あとは生地を広げてラップで包んで
冷蔵庫で寝かせましょう」
「寝かせる…続きはいつですか?」
「明日、ですかね」
「え」
ひとまずお疲れ様でした、と丁寧に締めるうららに対し、黎太は呆然と応じるほかなかった。
あれ、俺なんでこんなに頑張って急いで混ぜてたんだっけ……? というか、スキルBのセリフちょっとだけ期待してたのにもう着替えるんですか……? ――思うところは多々あれど、終わりなものは終わりである。
* * *
翌朝。日曜日は酷い日だと昼飯時まで起きない黎太だったが、この日は珍しく早起きすることができた。というよりも、カーテンの向こう、昨夜開けっぱなしにしていた窓の外から、温かくて甘い香りを感じて、自然と目を覚ましたのだった。スマホの示す時刻は朝の五時半。――五時半!? と早すぎる時間に驚いて、黎太はいよいよ覚醒した。
もはや二度寝はできそうにない。甘い香りの正体はどこから、と、導かれるように部屋を出て、階段を降りて、リビングへ。キッチンはすでに、昨日の昼間と同じ、制服にエプロン姿のうららがいた。明るいオレンジの光を放つオーブンの扉を、中腰になって真剣に見つめている。
「おふぁようございます…」
「ほわぁ!? お、おはようございます…小路君」
両手にミトンをつけたままびくりと震えたうららが、最上級の羞恥の表情になって、勝手口まで後ずさった。黎太がぎこちなくも朝の挨拶を返すと、うららは咄嗟に眼鏡の位置を直す。
「小路君、いつもなら日曜は遅いのに…
今日に限ってなんでまた」
「ふぁわ…なんか
外から甘い匂いがしてきて目が覚めたんです
ところで、こんな早くからなんで制服に?」
「文芸部で朝から出かける予定なんです
実を言うと、小路君にあげる分以外は
最初から文芸部に持っていくためでした」
なるほど、と納得していると、うららが申し訳なさそうな顔で黎太に謝ってきた。
「あの、型抜きや焼き方がわからないだろうと思って
小路君の生地も一緒に焼いてしまいました
勝手にやってしまってごめんなさい」
「そんな。俺一人じゃどうしようもなかったですし
むしろ助かりました。ありがとうございます」
なんて言っているうちに、クッキーが焼けたようだ。うららは手慣れた動作でオーブンからクッキーを取り出す。右手のミトンを外して、クッキングシートに並んだ一つをつまみ上げると、顔の横に掲げてはにかんだ。
「じゃじゃーんっ。完成です!」
そのポーズと背景は、まさに☆5うららのカードイラストそのもの。立ち位置、構図、そのすべてが今の黎太の視界と完全に一致している。
「なぁーんて。アハハ…あの、小路君っ?」
うららのはにかんだ笑顔が、どんどん恥じらいで真っ赤になっていく。
まだ寝起きで頭脳が鈍っている黎太は、☆5イラストの背景まで完全に再現された現実に驚いて、じっと見つめてしまっていたのだ。
「あ、いや、似合ってます。本当に」
「や、やめてくださいちょっとした出来心なので!」
朝からテンションの高いうららが可愛らしく、黎太はついつい笑ってしまう。そんな黎太に対し、うららはふてくされたような顔をして呟いた。
「おもえば、小路君には昨日からずっと
からかわれてばかりなような気がします」
昨日から!? と、心当たりが思い浮かばず説明を求めるも、うららは余計に不満そうに唸るだけ。やがてなにを思ったのか、面白いことでも思いついたように意味深な笑みを浮かべると、クッキーをつまんだ手を黎太の口元に寄せてきたではないか。
「あ、あ~ん……」
「へっ、え……!?」
いきなりのことに冷静さを失い、頭の中でめまぐるしく言い訳のようにこの状況を受け入れる理屈をひねり出そうとする……も、つん、とうららの指が唇に触れて、思考が飛んだ。
「これでおあいこですからね?」
クッキーを口に咥えたまま動かない黎太を見て、うららは大変満足したのだろう。達成感に満ちた表情で、指に残ったクッキーの粉をちろりと舐めた。……それが、つまりどういうことなのかも気づかずに。
さくり。口の中に、とことん甘い香りが広がっていく。
* TIPS! *
西川うららとの親密度が上がった!
『西川うらら、ニシカワウララ
身長:163cm
体重:48kg
スリーサイズ:B77(Aカップ)・W58・H84
誕生日:3/20(17歳)魚座
血液型:A型
特技:将棋
趣味:占い・お菓子作り
好きなもの:噂話・妹
苦手なもの:雷・男の人
嫌いなもの:アイドル
夢や目標:学校の先生
とても美人な文学少女。穏やかで礼儀正しいが怒らせると怖い。真剣にラビリンス攻略に取り組んでいるが、それほどのモチベーションの源は、彼女が真面目だからというだけではなさそうだ』




