メインシナリオ#32 挑戦 タイムアタック 中編
「ギョオオオオオオオウン!」
南の入口から突入した黎太は足を止めた。
うららが東側へ、未果が西側へと迷いなく駆けだし、その間にも一番SPDの高い琴音が部屋の中央を突っ切り、北側へ陣取った。
これで四人で四方を囲う陣形を作ったことになる。
部屋の中央に、天井から降りてくるボスクリーチャー、タンコブザメ。
五メートルはある全身が見える時にはもう、黎太の凜々しい声が轟いていた。
「集中砲火ッ!」
魔力弾の速度は、個人の魔力技術のうまさと、SPDに左右される。
やはり☆5のうららと琴音は頭一つ分抜けていて、それぞれ水色と赤色の魔力弾を盛大にタンコブザメに当てていた。
ワンテンポ遅れて、黎太の白い魔力弾と、未果の黒い魔力弾がタンコブザメに着弾し爆ぜる。
「ギョオオオオオオオオアアアァァァッ!」
全身を覆う鱗の色は紫色だが、その属性は金属性。火属性の琴音と、陰属性の未果の攻撃は一際ダメージを与えているようで、着弾するたびにタンコブザメは身体を捩った。
タンコブザメが最初に脅威と認識したのは――琴音だ。
「へっ、最初はオレ様が狙いか!
いいぜ、受けて立つッ!」
宙を泳ぎ、その大きく硬そうな頭のコブで琴音を潰さんと突撃するタンコブザメ。
三倍も体格差があるその相手に、琴音は真正面から立ち向かう。
すると、タンコブザメの口元が、黄金色に輝いた。前回の戦闘を踏まえれば、あの兆候は。
「牧園先輩!」
「わぁーってるよォ!」
琴音は突っ込む勢いを緩めることなく、拳を開いて魔力を放った。
真っ赤な魔力弾が今まさに開かんとしたタンコブザメの口に直撃し、金と赤が混ざったような爆炎をド派手に広げる!
「ギョアアアアア!」
琴音の方に突っ込みながらも、タンコブザメが激痛に悶える。
爆炎を突っ切った先――そこにもう琴音の姿はない。
「マウントもーらいッ! ――らぁ!」
真上にジャンプしていた琴音がタンコブザメの背ビレに着地して、気合いのこもった拳を一発、紫色の鱗が広がる背中に叩き込む。もしかするとスキルAを使ったのだろうか、インパクトの瞬間の爆炎がやたら激しい。
暴れるタンコブザメ。しがみつきながらも攻撃を重ねる琴音。
危なっかしいなと思いながらも、黎太たちはとにかく魔力弾を撃ち込みダメージを重ねていく。
特に、未果は攻撃スキルを織り交ぜる分、魔力の消費が激しい。しかしそこは大量に買い込んだ唐揚げを食べて強引に回復、チャージタイムが終わると共に、再び強力な攻撃スキルを浴びせる。
「黎太、スキル一発撃った時の消費カロリーって
どう計算するのかな!?
てかこの唐揚げってなんカロリーあるの!?」
「言ってる場合か! とにかく食え! そして撃て!」
「女の子に対してひどい指示ですね…
っと、タンコブザメに予備動作あり!
警戒してくださいっ」
タンコブザメが天井に向かって一直線に飛んでいく。
バランスを崩して落下した琴音は、上手く着地して距離を取る。MPよりもスタミナの消費が激しいようで、タンコブザメを見上げながらポテトを口に放り込んでいた。
「鼻先から落ちてくるやつです! 回避専念!」
とか言いつつ、魔力弾を放って少しでもダメージ稼ぎを忘れない黎太である。
そんな黎太を標的に定めたらしく、タンコブザメが迫ってきた。
逃げようと動いた黎太に合わせ、タンコブザメも落下の軌道を変えてくる。
嘘だろ、と目を見開いた刹那、タンコブザメが砲弾の如き魔力を放つ予備動作。
すかさず二度目の魔力弾で砲撃を打ち消し、もう一度逃げる。
今度は追ってこなかった。
前回も落下中に魔力砲を撃ってきたはずだ。もしかすると、魔力砲を撃ってからは追尾がなくなるのかもしれない。
落ち着いて距離を取った黎太は、落下と同時に攻撃を仕掛けるべく手を向ける。
タンコブザメが床に激突。そこは部屋の壁際だったが、ボス部屋全体が激しく揺れて、ビリビリと空気までもが強く震える。
そのあまりの衝撃に、黎太たちは全員が尻餅をついた。前回と同じ轍は踏むまいと、しっかり距離を稼いだ上で踏ん張っていたのにもかかわらず、誰もがもれなく転倒している。
さすがにおかしいと顔を歪めると、いち早く未果が教えてくれた。
「黎太! これきっとスタン効果のあるスキルだよ!
範囲は全体! おそらく必中で確定スタン!」
「スタン!? これがか…っ
くそ、一層から初見殺しスキルかよ…!」
戸惑っている間にも、タンコブザメの目が凶悪に嗤い、その身体を跳ね上げた。
スタンは数秒で自動回復するとはいえ、その数秒間は移動不能、スキル発動不能な上に、強制的に受けるダメージがクリティカル判定になる……とは、先週学校の魔力の授業で習ったことだ。よもや学校で真面目に状態異常の単元を学ぶと知った時の衝撃と言ったら……などと過去を振り返っている場合ではない。
もしも前回の戦闘と同じことが起こるなら、尻尾で上から叩き潰す攻撃が放たれるはず。
実際、タンコブザメが身体を倒しながら向かう先は――琴音だ。
「牧園さん! 次の一撃は強烈です!
なんとかして逃げてくださいッ!
スタンじゃわたしの状態異常回復スキルも――」
「西川だって動けねーのわかってんだろ!
ちっ、くそぉッ! 後は任せるぞおまえら!」
琴音は耐えきることすら諦めたようで、やけっぱちに魔力弾を撃ちまくった。
通常攻撃はできるらしい――刹那、黎太の機転が利いた。
「牧園先輩、こっちなら耐えてくれますよね!?」
黎太が琴音に手を伸ばす。
瞬間、黎太の考えを察知したのか、琴音は狂気の笑みを貼り付けた。
「面白ぇッ! 全力でやってくれ、後輩ッ!」
黎太は鋭く返事をすると共に、白い魔力弾を琴音に向かって発射した!
その少しの間にも、タンコブザメの尾ヒレが迫る!
放った魔力弾と琴音の姿がタンコブザメの向こうに隠れて見えなくなり――ボス部屋、激震。
どうだ、と苦虫を噛みしめるような表情で見つめる先、タンコブザメの上に琴音が跳び上がった!
「残念だったなタンコブ野郎!
恨むんなら、自分の鈍さを恨みやがれ! おらぁ!」
やったぁ! と未果とうららがハイタッチ。上手く凌げた興奮が、黎太たちの追い風になる!
「西川先輩は牧園先輩の回復お願いします!
未果は攻撃続行! 牧園先輩、すみません!」
「ヘッ、サガること言ってんじゃねーよ!
頼りにしてるぜッ!」
お褒めの言葉に元気よく礼を告げ、黎太も攻撃に参加しながら、しかし冷静に振り返る。
今の乱暴な救出劇は、☆5の琴音に☆1の黎太が攻撃し、吹っ飛ばしたから実現できたのだ。
スタン中は確定クリティカル。もし狙われていたのが未果だったら、黎太の魔力弾でも未果のHPを一撃で削りきってしまうだろう。弾き飛ばすわけにはいかない。
懸念を抱きながらも攻め続けることしばらく。
タンコブザメが部屋の中央の床に滑り込む。
弱ったか、と総攻撃の指示を出そうとして、タンコブザメの目が怒りに充血していることに気がついた。背筋に冷たいものが走る。
「よっしゃあ攻め込むぜぇ!」
「待ってください敵のブラフです!」
「ハァ!?」
飛びかかろうとする琴音を引き留める。
人間の言葉がわかるのか、それとも動きを止めた琴音から察したのか、タンコブザメの怒りの視線が黎太を捉えた。
ひっ、と脅えたその刹那、なんとタンコブザメを覆っていた紫色の鱗が、全方位に針のように飛び散った!
黎太は咄嗟に腕を顔の前で交差する。
容赦なく手足に胴体に、鱗が刺さり、かすめていった。
「ぐあっ…!
いってーな、ハリセンボンかよテメーは!」
「サメです!」
「知ってんよ!
律儀に突っ込んでんじゃねーよ西川!」
高校三年生二人が早口でアホなことをのたまいている一方、黎太は未果に声をかけていた。陰属性の未果にとっては、あらゆる攻撃が弱点属性となってしまうのだ。
「大丈夫か!?」
「うん、なんとか…っ
私でも耐えられるってことは、威力は低いみたい?」
健気な笑みを浮かべる未果に駆け寄ろうとしたところで、黎太はどこか足が重いことに気づく。
周りを見れば、鱗は壁や天井にまで届いており、障害物がない立方体のこの空間で回避することはほぼ不可能。
攻撃範囲が広い分威力が低く設定されているのか、おかげで未果が一撃で倒れずに済んだのだろう。
「オイおめーら! サメが動かなくなったぞ!
ってなんかオレ足が重くなったんだけど!?」
「やはり気のせいではないみたいですね
この鱗攻撃、SPDデバフ効果があるみたいです!
SPDバフがあれば打ち消せますが…」
黎太がタンコブザメを睨みながら推理を伝える。
タンコブザメに動く気配はない。どうやら新しい紫の鱗を生やしているせいだろう。
そう気づく間にも、尾ビレの方からみるみると次の鱗が覆っていく。
「デバフ回復スキルねーのかよ!」
「さっきわたしのライセンス見せましたよね!?
ヒーラーだってみんながみんな
デバフ解除できるわけじゃないんです!」
「二人とも! 今は攻撃チャンスです!
西川先輩は全体回復! SPDデバフは治せません
無視して攻めますよ!」
黎太たちのスキルの中で、SPDを上げるバフスキルは一つもない。強制スタンといいSPDデバフといい、なんで行動阻害ばかりなんだ――と心の中で嘆いた瞬間、その理由にピンときた。




