異世界の月面探査
「ハムサンドをくれ。」
「どうぞ。宇宙食も進歩しました。」
私たち数名の探査隊員は、船外活動服のヘルメットだけ外して月面車内で昼食を取る。窓から見える灰色の岩地の荒涼たる風景。
「我々はこんなところまで来て何をやってるんだろうな。」
「魔石、魔石、魔石!科学の粋を尽くして魔法のかけらを探す山師か。」
地球上では消費されつくした魔石。魔法ももう終わりかと思いきや、高度医療や暗号作成に不可欠の戦略的資源であり続けているのである。月面探査隊を派遣するくらいに。
「どうして月面なんぞに魔石なんかあるんだ?大気のない荒れ果てた土地に?」
私はあまり期待しないでそんな疑問を口にした。
「いろいろな説明はあるんだが、俺の好みは古代の異星人の宇宙船の燃料だったという説だ。」
「なんだって?!」
「おっ、と」
同僚は熱いコーヒーの入ったボトルを落としそうになったので私は危うく受け止めた。
「おい驚かすなよ。」
「すまん。興味深い話だったのでね。」
「うん、魔石の話だが、古代の異星人の宇宙船が大破して宇宙船の燃料が地球と月にばらまかれたという話があるんだ。突拍子もない説だが一応地球と月に魔石鉱脈が分布する説明にはなる。魔石はとにかく高エネルギーの集積だし、量子力学的効果があるからな。高度なテクノロジーは魔法と変わりない、と言う奴だよ。」
「少し忌々しい話だな。まだ我々の科学は魔法だか古代宇宙人の高度技術だかに太刀打ちできないという事になる。」
「まったくだ。だが、いつか我々も魔石を生成できるかもしれないし、是非そうしたいものだ。他の恒星系へ旅するには今の推進システムでは足りない。魔法のような技術が必要だよ。」
宇宙探査するのにも目当てのお宝が欲しい。
恒星間飛行には原子力エンジンよりも更にとんでもないシステムが必要なのではないか。
科学と魔法のコンビネーションによるショック効果を狙いましたが、ラリー・ニーブンの小説の影響は明らかですね。