第四話 アルハラ王
「すっげぇ…こんな広々とした建物見たことない…」
アルハラ城のエントランスは吹き抜けになっており、とても広々とした空間だった。天井からは大きなシャンデリアがぶら下がっており、入り口の正面には赤い絨毯の敷かれた左右対称の階段が聳えていた。
「なかなかの広さだよね、このお城。でも、僕はあんまり好きじゃなくってね…どっちかっていうと、普通の家とかの方が好きなんだ。ま、王家の一員として生まれたからにはここに住まなきゃいけないから仕方ないけどさ」
リアス王子はそう言うと、ため息をついた。
(意外と庶民的な人なんだな…王子様は…)
その様子を見て、レオンはそう心の中で思っていた。
「ん?あれは…」
左右に聳える階段の真ん中には、剣を上に掲げた鎧の男の銅像と、9枚の古びた肖像画が飾られていた。
「あぁ、あれは過去にいたとされる"光の勇者"を模して作られた銅像だよ。で、奥の絵は歴代のアルハラ王の肖像画さ」
「光の…勇者?」
「あぁ、詳しくは資料が見つかってないから分からないけど、僕たちアルハラ王家に伝わる伝説の主人公さ。遠い昔に世界が闇に飲まれそうになった時、颯爽と現れて王達と共に闇を打ち払った…らしい」
「そうなんですか…かっこいいですね…」
「うん、僕も彼に憧れているよ。彼のような勇気のある男になりたいってね。…さ、話が長くなってしまったね。父上のところへ行こう」
レオンはリアス王子に案内され、階段を登る。
2階へ上がり赤い絨毯の廊下を進んでいくと、廊下の先に鉄でできた大きな扉が見えて来た。
扉には、まるで蛇のような細長い体の龍が大きく描かれていた。
「さ、あそこが父上と母上のいる王室だ」
扉の前に立ち王子が敬礼すると、扉の横にいた兵士達はゆっくりと扉を開いていく。
「ご苦労様。さ、入ってくれ」
「は、はい」
レオンは緊張しながら、王室へと足を踏み入れた。
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「父上、少年を連れて参りました」
レオンはリアス王子の後に続き王室に入る。
「ほう…そうかそうか。ご苦労じゃった」
レオンは顔を上げ声のした方を見る。
すると、そこは白い壁に覆われたどこか神聖な空間で、部屋の奥には二つの大きな椅子が並んでいた。
その椅子には白い髭を生やし王冠を身につけた老人と、美しい紫色のドレスを見に纏った女性が座っていた。
「お、お通し頂きありがとうございます。俺…私はザイホンの息子のレオンと申します。本日はザイホンについて話が…」
「ははは、そんなに畏まらんでも良い。それより、こちらへ来て顔をよく見せておくれ、レオン」
アルハラ王にそう言われ、レオンは恐る恐る王の座る椅子の方へ歩いて行く。
そして、王の椅子の前で立ち止まった。
「ほぉ…やはり似ておるな…お主の父にも母にも…。逞しくなったものじゃ。ワシは嬉しいぞ…」
そう言うと、アルハラ王は立ち上がりレオンの手を握る。
「ワシはな、レオン。赤子の頃お主を抱いたことがあるんじゃ。妻のレベッカもな」
「え?お、俺を…ですか?」
「えぇ、そうよ。昔から私たち王家とザイホンさん一家は仲良くさせて頂いてたの。お子さんが産まれたこともわざわざ報告に来てくださってね…。その時に抱かせてもらったのよ」
「そうだったんですか…。そうだ、ひとつお聞きしたいんですけど、母は…俺の母には会ったとこはあるんですか?」
「あぁ、あるとも。…しかし、君の母上は君を産んだ1年後に亡くなってしまったのじゃ」
「そうだったんですか…」
「うむ…とてもいい女性じゃった…穏やかで、笑顔の眩しいな」
「そうですか。母には会ったことなくて、親父も母の話はあまりしなかったものですから…お話が聞けてとても光栄です」
「そうか、それならよかった。きっと、母上もお主の成長を天国から見守ってくれておるじゃろう。…さ、それでは本題に移ろうか」
「はい!」
そう言うと、アルハラ王は椅子に戻りレオンの方を見る。
「お主の父、ザイホンはグレイモアにおける諜報任務中、何故かは分からぬが国を裏切りグレイモラン側についた。それを知らせるためにお主の住むマシロ村へ使いを送ろうと思っておったが…自ら来てもらって助かった」
「王様が俺に使いを…」
「うむ。しかし、お主の父親が裏切ったと聞いて驚かないのか?」
「あ、えっと…新聞記者のアッサムって人から聞いたんです。王様に会いに行けって言ってくれたのもその人で…」
「ほう、アッサムと会ったのか…。彼はよくこの城に来て王家の伝説について取材にくるのじゃ。その仲で、彼には少し情報を伝えていたのじゃよ」
「なるほど…それでよく知ってたんですね」
「あぁ。しかし、これはまだ世間には公表していない情報なんじゃが…実はな、グレイモランの軍がアルハラの北側を占拠しておる」
「え!?アルハラの北を占拠!?それって…!!」
「うむ、グレイモランはアルハラへ侵略を始めたのじゃ。北側を守っていた部隊は全滅、拠点は抑えられてしまった…」
「か、かなりまずい状況なんですね…」
「うむ。じゃが、奴らの狙いはどうやら侵略ではなさそうなのじゃ」
「侵略じゃない…?とすると、狙いは…?」
「おそらくじゃが…奴らの狙いはアルハラの各地に安置されておる3つの精霊石…」
「3つの…精霊石…?」
「あぁ。お主には説明しておこう。3つの精霊石の伝説を…」
続く。
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