第二話 裏切り
レオンは男に連れられ、人気のない路地にあるバーに入った。
「よぉ、マスター。ちょっと秘密の話があるんだ、貸し切れるか?」
「おぉ、アッサム、今ちょうど客もいねぇしいいぜ。奥の席を使いな」
バーのマスターはそう言うと、店の扉にかけてあった看板をcloseの方へ裏返し店の奥へ歩いて行った。
「ここは俺の行きつけのバーでな、よくここで取材なんかをさせてもらってる。さ、奥の席に行こうぜ」
レオンとアッサムは店の一番奥の席に座った。
「さぁ…まずは俺の自己紹介だな。俺はアルハラ新聞の記者をやってるアッサムだ。よろしく」
「よ、よろしくお願いします…」
レオンは軽く会釈し、続けて口を開く。
「俺はレオン。マシロ村の出身で、ザイホンの息子です」
「レオンか…まさかザイホンに息子がいたとは驚いたぜ…」
「ザイホン…親父とは知り合いなんですか?」
「あぁ、俺がガキの頃に世話になったことがあってな。新聞社に入ってからは俺が志願してずっとザイホンの取材を続けてきた」
「そーだったんですか…そうだ、それで親父が裏切ったていうのはどういうことなんですか!?」
「…お前も知ってると思うが、ザイホンはここ数年ずっと行方不明だった。しかしそれは、ライバル国であるグレイモアで調査活動をしていたからだったのさ」
「調査活動…?」
「あぁ。グレイモアで、"デビルゲート"が開かれたって言う噂があってな。それの調査に行ってたのさ」
「デビルゲートって…あの、魔物たちを呼び寄せるって言われてる…?」
「あぁ、そうだ。過去に一度開かれたことがあってな…その時はこの世界が魔物で溢れかえったらしい。そんなものが本当に開かれたとすりゃあ大事件だな」
「デビルゲートか…ってことは、親父はその調査に行ったまま裏切ったってことですか…?」
「今の状況だけで言えばそういうことだ。調査をしてるうちに心境の変化があったのか、それともグレイモアの連中に何かをされたか…。ま、俺は後者だと思ってるがな」
「親父…」
レオンは俯き、ギュッと手を強く握る。
そんなレオンを見て、アッサムは口を開いた。
「なぁ、親父さんと会いたいか?」
「え?」
突然の問いに、レオンは思わず声を上げる。
「そ、そりゃ会えるなら…」
「そうか…なら、今からアルハラ城へ行ってみろ」
「え?アルハラ城へ…?」
「あぁ。ザイホンは調査隊になるまでは近衛の騎士として王家の直属の護衛をやっていた。アルハラ王ならこの事件について何か知ってるかもしれない」
「アルハラ王か…」
「ザイホンの息子だって言えば話してくれるだろうよ。ま、俺が言った時はそこまで詳しくは話してくれなかったがな」
「…分かりました、俺アルハラ城へ行ってみます!王様に聞けば何か手がかりを掴めるかもしれないし」
「あぁ、それがいいと思うぜ。アルハラ城はこの街をでて平原をまっすぐ行けば着く。意外と距離はあるから行くなら早く行ったほうがいいぜ」
「分かりました。いろいろと親切にありがとうございました」
「いいってことよ。俺もザイホンさんには助けてもらったことがあるしな…ただし!」
「?」
「何か情報を掴んだら、今度教えてくれよ」
「…はい、今度会ったときに」
「よし、それじゃあ行ってこい!…もし会えたら、親父さんによろしく言っといてくれ」
「はい、それじゃあ!」
レオンは頭を下げると、駆け足で店を飛び出していった。
「ザイホンの息子…か。今頃何してるんだザイホンさん…」
アッサムは懐から取り出したタバコを口に咥え、火をつけた。
続く。
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