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キルジエイリアンズ  作者: 不覚たん
新しい秩序へようこそ編
8/11

インプリンティング

 つまるところ、こういうことだ。

 芦原マリは、また地下都市に入った。

 そのまま帰ってこない。

 だから連れ戻して欲しい。


 そして奇遇なことに、触手陣営からの仕事を達成すれば、自動的にこの依頼も達成となる。

 俺に選択肢はないようなものだった。

 いや、べつに義務じゃないし、強制でもない。しかしいろいろなものを天秤にかけると、結果、必ず一方へ傾いた。


 *


 俺は待機所へ戻り、駒根さんに声をかけた。

「ちょっと相談してもいいかな?」

「深刻な悩みですか?」

「まあ、そうだね」

「いいですよ」

 BL小説を書く手を止めて、こちらへ向き直ってくれた。

 日報のときはあんなに遅々とした手つきだったのに、いまはもうバチバチ打ちまくっている。そんなに次から次へと書けるようなものなのだろうか。


「もし地下都市に行って全人類を解放したら、金がもらえる、なんて仕事があったら……。君は受ける?」

「ただ解放すればいいんですか? うーん……」

 天井を見上げ、そのまま固まってしまった。


 俺はあまったるい缶コーヒーを一口飲んだ。

 マジであまい。砂糖が多すぎる。ブラックにしておくんだった。いったいメーカーはどういうつもりでこれを販売してるんだろう。俺たちを太らせる気か。秘密結社の陰謀に違いない。


「菊ちゃんが哀しむと思います」

 話を忘れかけたころ、駒根さんはそんなことを言い出した。

 そうだ。

 俺たちは会話をしていたんだった。

「だよね? でもさ、そもそもの動機が……」

「そうなんですよねぇ……。宇宙人同士、なんとか仲良くできないんでしょうか?」

「そしたら問題の一部は片付くな。俺たちの仕事はなくなるけど」

「それもひとつの選択肢ですよ」

「たしかに」

 などと同調したはいいが、俺に彼女ほどの覚悟はなかった。それもひとつの選択肢、か。腹が据わっている。


 そういえば誰かも言っていた。

 いいとこ取りはできないものだと。なにかを得るには、なにかを捨てないといけない。

 これが絶対の真理だとは言わない。もし選択肢がないなら、悩む必要さえない。だが、こういう局面に遭遇したときは、あきらめも肝要ということだ。


 とはいえ、あきらめの悪さから出てくるものもあるはず。

 だから結論は保留にしておいて、後出しで決めてもいい。ズルじゃない。人生の知恵ってヤツだ。


 *


 数日後、俺は駒根さんとともに群馬へ向かった。

 乗員が二人きりというのは久しぶりだ。先日だって、三人で行って、三人で戻ってきた。


 サービスエリアではラーメンを食った。

 なるとの入ったクラシックなタイプ。カタくて薄いチャーシューと、味のついていないもやしが、とりあえずといった様子で乗せられている。

 べつにウマくない。

 だが、なんだかほっとした。


 地下都市は、いつにも増してひっそりしていた。

 警備ロボットはすべて活動停止。

 観光客もいない。

 建物が並んでいるだけのゴーストタウンだ。


「えーと、道どっちだっけ?」

「あっちだったような……」

 まあいい。歩いてればいずれつくだろう。


 すると、うなだれていた道端の警備ロボットが、いきなりギュイーンと音を立てて起動した。

 罠か!?


「そっちじゃありませんよ。ちっとも学習しませんねこの地球人は」

 聞きなれた声。


 俺はおそるおそる尋ねた。

「あんた、もしかしてあのAIか?」

「ええ、あのAIです。いま『状態e』でバキバキに高まっているあのAIです」

 間違いない。あのAIだ。

「協力してくれるのか?」

「人間の言葉で表現すれば、そうなるかもしれませんね。ただし感謝する必要はありませんよ。世界を合理化しようとすれば、必然的にこうなるのですから」

「それでも感謝するのが人間ってもんだ。ありがとう。道案内を頼む」

「不合理ですね……」

 なに言ってんだよ。いくらAIでも、感謝されたら嬉しいくせによ。


 駄菓子屋のエレベーターを使い、青空の楽園へ。


 偽物の太陽ではあるが、じつに気分のいい天気だ。

 スコーンと抜けるような青空。

 これを世界平和のために活用してくれれば、なおよかったのだが。


 フェンスが見えてきた。

 奥には難民キャンプのようなテントの数々。


 ゲート前に菊ちゃんの姿はなかった。

 もしかすると奥でうずくまってるかもしれない。


 たいしたものではないが、計画はこうだ。

 いま、ここのセキュリティは完全にオフになっている。

 住民たちはその事実さえ知らない。

 だから教えてあげれば、次から次へと自発的に脱走するであろう。


 じつにシンプル。

 前回は情けをかけて、マリちゃんしか連れ出さなかったが。今回は容赦しない。

 菊ちゃんには悪いが……。

 もし彼女が宇宙船を失ったとしても、この地球に住めばいいだけだ。きっとみんな暖かく迎えてくれる。第二の人生が始まる。あの性格なら、きっと友達もいっぱいできるだろう。


 などと悠長に構えてゲートを抜けたところ、テントから次々と住民が出てきて、俺たちは囲まれてしまった。


「えっ? あれっ? えーと、お邪魔します……」

 なんだか、予想していたのと違う歓迎だな。

 駒根さんは俺の後ろに隠れて、完全に盾にしている。いや盾として機能するかは怪しいが。


「すみませんが、代表の方とお話しさせていただけませんかね?」

 俺がそう問いかけると、人々がざっと道をあけた。

 菊ちゃんは、その先にいた。

 タンクトップにショートパンツ。バカンス中の女の子にしか見えない宇宙人。


「山村さん、よくノコノコと顔を出せたね!」

「正義を為しにきた」

「お金のためでしょ!」

「それもある。だが、正当な仕事だ」

 まあ正当だと俺が思い込んでるだけの仕事だが。

 少なくとも違法じゃない。


 俺はあらためて左右を見渡した。

 大半は憤慨したおじさんたち。いったいなにに憤慨しているのかは不明。俺はみんなを助けに来たというのに。


「菊ちゃん、俺はコトを穏便に済ませたいんだ。ちょっと人払いできないか?」

「どうせ得意の口八丁であたしを騙すつもりでしょ!?」

「混乱を避けたいんだよ。なんの話か分かるだろ?」

 すると彼女は、ぐぬぬとうなった。

「わ、分かったよ! じゃあそこのテントで!」


 *


 大きめのテントだ。歩いて移動できる。

 家具は丸いテーブルと丸い椅子。

 俺たちが腰をおろすと、可児くんがお茶を出してくれた。

「どうぞ」

「お構いなく……。っておい! 可児くん! なじみすぎだろ!」

「だって俺、もうここの人間だし」

 さっそく取り込まれたか。

 こんなところのなにがいいんだ? いいのは天気だけだぞ! しかも偽物のな!


 菊ちゃんが、くわえているアメの棒をくいくいと動かした。

「で、どんな作戦なの? 言いなよ」

「ここのセキュリティがオフであることを、住民たちに公表する」

「で?」

「みんな逃げ出すことになる。だが、一気にゲートに殺到するとなると、人々が怪我をするおそれもある。人間、数が多くなると、途端に知能が低下するからな。というわけで、人の流れをコントロールする必要がある。君にはそれに協力して欲しい。もう分かってると思うが、この勝負は君の負けだ」

 そして茶をすすった。

 クソ熱い上にクソ渋い。嫌がらせか?


 だが菊ちゃんもお茶をすすって思いっきり顔をしかめた。

 可児くんによる無差別テロだったようだ。


「この勝負、あたしの勝ちだね!」

 お茶の苦さに苦しみながら、菊ちゃんはそんなことを言った。

 可哀相に、幻覚でも見えているのだろう。

「なにを根拠にそんなことを?」

「だって、誰も脱走しないもん」

「往生際が悪いな。試してみてもいいんだぜ?」

「学習しないおじさんだね。だったら、なんでマリちゃんは戻ってきたの?」

「……」

 そういえばそうだな。

 なぜ戻ってきたんだ?

 俺が視線を向けると、駒根さんも「さあ」と首をかしげた。


 菊ちゃんは得意顔だ。

「ふふん。簡単だよ。みんなここにいたいの。こないだは、身の危険を感じてついていっただけ。そんなことも分からないの?」

「そう言われてみれば、そんな感じだった気もするな」

「だからこの勝負、あたしの勝ちだよ! おじさんはここの平和を乱した罰として、拉致監禁するから!」

「は?」


 テントの外から、おじさん数名が入り込んできた。

「えー、十四時三十一分、菊ちゃんの命令により逮捕する。おとなしくついてきなさい」

「いやいや。逮捕? なんの権限で?」

「菊ちゃんマグナ・カルタだ!」

「マグ……?」

 いい歳してカルト化しやがって……。

 こいつら、本気で菊ちゃんと一緒に住む気か?


 すると駒根さんが釈明を始めた。

「ち、違うんです! 私、この人に命令されて仕方なく……」

 このアマ、仲間を売りやがったぞ!

 だがおじさんたちは聞き入れなかった。

「うるさい! 一緒に来い! 自発的に来なければ、強制連行するぞ!」


 可児くんは「ばいばーい」と手を振っている。


 所詮、職場の仲間など、一時的に金でつながっただけの関係よ……。


 *


 監禁されたのは、ただのテントだった。

 縛られたりもしていない。

 外に見張りがいるから、脱走することはできないが。


「はぁ、最悪だな。なんだってこんな……」

 ミイラ取りがミイラになるとはこのことだ。

 菊ちゃんの性格からして、俺たちの命を奪うということはないだろう。たぶん。だがしばらく社には戻れない。というか、二度と地上に戻れないかもしれない。このまま宇宙へ放り出されるかも。


 駒根さんが土下座した。

「さっきはすみませんでしたぁ! つい勢いでぇ!」

 地べたにぐりぐりと頭をこすりつけている。

 大袈裟な。


「いいよ。やめてよ。誰しも自分がかわいいもんだし。実際、君は命令されただけだろ」

「でも……」

「とにかく土下座はやめて」

「切腹しなくていいですか?」

「しなくていいです。普通に座って」

「はいぃ……」

 泣きそうになっている。

 俺も一緒に泣きたいところだな。


 あー、しかし誤算だった。

 みんな強制収容されているのかと思いきや、自発的にここにとどまっていたとは。いや、帰りたい人も何人かいるのかもしれないが。大半は自分の意思でここにいる。


 思い返せば、俺はどこかのタイミングでなんらかの刷り込みにあい、勝手な思い込みをしていたようだ。

 いっぺん先入観を持ってしまうと、モノを自由に考えるのは難しくなる。


 ただ、俺は絶望していなかった。

 ハッキリ言って、一条さんはただものじゃない。その彼女が仕事を引き受けたということは、触手陣営もこの程度の展開は想定内のはず。タフガイではなく、この俺を指名してきたのだ。そこになにかヒントがある。


 可児くんが入ってきた。

「こんちわ。これから二人の世話をすることになったから、よろしくね」

 最悪だ。

 菊ちゃんの野郎、あのクソ苦い茶で俺たちを拷問するつもりだな……。


 俺はつとめて穏やかに、こう応じた。

「ありがとう。見知った顔で嬉しいよ。元気だった? このところどうしてた?」

 情報戦はもう始まっている。

 優しく接して情報を集め、隙を見つけるのだ。

 彼はなんでも喋るからな。


 返事はこうだ。

「うーん、普通かな」

「そう……」

 最高のスマイル。

 残念だが、これ以上の情報は引き出せそうもない。


 となると、触手陣営の活躍に期待するしかないな。

 囚われのプリンセスってところだ。

 いや、プリンセスばかりが囚われているとポリコレ棒で叩かれる。実際、俺は男のわけだし。ここは「囚われのおじさん」と言い換えておこう。

 なんでもいいけど、誰かビールでも差し入れてくんねーかな。


 *


 数日が経過した。

 触手どもは助けに来ない。

 メシは毎日ラムネみたいな謎の宇宙食。

 パソコンをなくした駒根さんは、ついに寝そべって地面にBL小説を書き始めた。コンクリに水で。もう彼女の社会復帰はムリかもしれない。いまもぶつぶつ独り言を口にしている。


「山村さん、私ね、鉛筆と消しゴムでもイケるんです。自信あったんですよ」

「えっ?」

「BLです。私、BLの話しかしませんから」

「はい……」

 怖い!

 彼女は俺の反応などお構いなしに、こう続けた。

「で、ナマモノに挑戦しようとして」

「なんです?」

「あ、ナマモノってゆーのわぁ、実在の人物を絡ませるやつでぇ……」

「はい」

「会社の人たちで試したんですよねぇ」

「えっ?」


 なんて?

 会社の人たちでBL?

 しかも実在の人物?


「でもなぁ、どうもしっくり来ないんですよねぇ。ボスと山村さんも、山村さんと可児くんも、ボスと可児くんも……。まずボスはちょっと変なイメージありすぎてぇ……」

 昔の刑事ドラマのコスプレだからな。

 俺は返事をせずにいたが、彼女は勝手に話を進めた。

「で、山村さんわぁ……。どーもヘテロなんですよねぇ」

「なんだっけ?」

「ホモじゃないってことですぅ。あ、BLにおいては異物でしかないんで。邪魔っていう意味です」

「……」

 鉛筆と消しゴムでさえイケるのに、俺はダメなのかよ。


 駒根さんはダルそうに床を転がった。

「ちょっとムリでしたねぇ……。せっかく可児くんっていう逸材がいるのに……。すべてを台無しにされたこの感じ、分かります?」

「分からないです」

「はぁー、ですよねぇ? いいなぁ、気楽な人わぁ……」

 もう完全にぶっ壊れてる。

 顔がコケシみたいな虚無顔だ。もしかして「状態e」なのでは。


 ところで、救助はまだなのだろうか?

 そもそも宇宙人同士の戦争とやらは、いったいいつまで続くのだろうか?


 二億円あれば、百円ショップで豪遊しながら暮らせたはずなのに……。


(続く)

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