【短編】やっとの思いで夢のカフェを開いたものの、店は美少女JKたちのたまり場になるようです。
「やっと……やっと完成した…………!!」
俺は1人建物の前で汗を拭う。
目の前にはさっき置いたメニュー表と、それを象徴するように見事な建物が鎮座していた。
茶色を基調とした、新築同然の喫茶店。
窓は小さめに取り、土地もかなり奥まったところに作ったもの。更に内装も隠れ家のように暖色のランプで照らされた静かで、落ち着く、まさに俺理想の城だ。
カフェといってもただのカフェではない。まさしく利益度外視、連日人が来ないことには絶対に赤字になるように設定した。
ただでさえチェーン店に押されて廃れ気味になっているカフェという店、その上地元の人たちですらなかなかたどり着けないような小道を更に奥に行った行き止まりを選んだ。
もちろんネットにも何一つ情報を出していないし、CMどころかチラシすら配っていない。もはや人を呼び込む気なんて完全にゼロ。
まさしく俺の夢。俺の城。理想を叶えたまさしく箱庭だ。
ここまで来るのにかなりの時間を費やした。
漠然とそういう仕事がしたいと思ったのは小学の頃。そのことを親に打ち明けたら「じゃあいっぱいお金を用意しないといけないね」と笑顔で諭された。
そうして具体的に道筋を立てたのは中学の頃。この時必死にお金の勉強をして、どれだけのお金がいるかを計算した。
更に、同時進行で工面も始めた。親に土下座してまで証券口座を開き、新聞配達をはじめとした毎日のバイト代を全てつぎ込んだ。
きっと運が俺の味方をしたのだろう。
ちょっとずつ……けれど確実にお金は増えていき、20を越えてからはレバレッジ25倍が最低ラインだった。
本当に、本当に運が良かったと言っていいだろう。そうして始めた運用が、1年も経つ頃には今流行りのFIREに加えてカフェ開店の資金までも稼ぐことに成功した。
それからは、早かった。
親のコネさえもフルに借り、着々と工事が進むのを見届けながら気付いたときには全ての準備が終わっているという状態。
俺は大慌てで仕上げの内装を終え、最後の工程であるメニュー表作りも終わった。
後は開店である明日を待つだけだ。全てをやり遂げた俺は最高の気持ちでこれからの日々を夢想しながら店内へと入っていく。
カランカラーン、と――――
ホールを過ぎてキッチンへと向かったその時だった。
ふと鳴るは扉に設置したベルの音。誰か来た…………?まだ開店すらしてないのに…………?
「あのぉ…………ここ、やってますか?」
聞こえてくるのはソプラノのように高い、可愛らしい声。
女の人か……。まさか来てくれるとは思わなかったが、今日のところは帰ってもらおう。今は材料が何一つとしてない。
「すみません。 開店は明日なんですよ。 ですのでまた次回――――」
木珠ののれんをくぐりながら女性に説明しようとして――――口が止まった。
それは2つの意味で。
1つは、その子が制服を着た女の子だったからだ。
言っちゃなんだが俺の店は普通の人が入ってくるような値段設定をしていない。それはさっき外に設置したメニューを見れば一目瞭然だろう。少なくとも学生が気軽に入ってこれるような店ではない。
けれど彼女は入ってきた。それは値段が見えなかったのか、はたまた余裕で払えると思ったのか。
もうひとつは、その子がかなり可愛かったからだ。
茶色の髪を一つにまとめて肩から前に垂らすという、シンプルな髪型。
そしてクリクリッとした大きい茶色の瞳。更にこの子くらいの学生ならチャラチャラと、少なくともどこかしらファッション性に目覚めると思うのだが彼女はそれが無かった。なのにこの人目を引くほどの可愛らしさ。
少なくとも俺が高校在学時には見ないタイプ、そして記憶の誰よりも可愛らしい少女だった。そんな彼女が俺を見てパァッと花咲く笑顔を見せてくる。
「あ……明日なんですか!? 丁度よかったですっ!!」
「えぇ、っと……。なので今日のところは、すみませんがお引取りを……」
俺は内心の思いをひた隠しにしながら平常心を持って事務的に語りかける。
いかんいかん。俺はそういう目的で店を開いたんじゃないんだ。そもそも女の人なんて…………いや、いい。ともかく目の前の事に集中しないと。
「いえっ! 違うんです……そうじゃなくって…………」
「違う? じゃあ、何でしょう?」
彼女は胸の前でキュッと手を組みながら顔を落とす。
そして数秒逡巡したかと思いきやキッと何かを決心したような瞳をこちらに向けて――――
「あのっ……私を……私をここで雇ってくださいっ!!!!」
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「マスター!! チョコパフェ1つ~!」」
「あいよ~!」
俺はキッチンで冷蔵庫の開け閉めを繰り返し必要な物を取り出していく。
用意した大きめのカップに次々と入れていくスイーツの数々。最後にチョコソースを絞り出してっと……
「チョコパフェおまちっ! 伶実ちゃん持ってって!」
「はいっ! ありがとうございますっ!!」
棚に置いたパフェを持っていくのは茶色のスカートに白いエプロンを身にまとった少女。
俺はその後も少し身構えたものの続く注文が無いことを判断してホールへと足を動かす。
「あっ! マスター待ってたよぉ~!ここ教えて~!」
「あのなぁ……ここは塾じゃ無いんだぞ…………遥」
「えっへっへ~! だってマスター教えるの上手いんだも~んっ!」
そう言って横にパフェを置きながらノートと向き合ってる制服姿の少女。
パフェ頼んだのは誰かと思ったら……
「マスター。私にも教えて~」
「いや、灯は俺よりも頭いいだろ」
「え~。 ちょっとくらい教えてくれたっていいじゃん。大学生なんだしさ~」
「そうだそうだ~! オーボーだぞオーボー!」
「遥まで…………あとでちょっとだけな」
「やったぁ! マスターのツンデレェ!!」
誰がツンデレだ誰が!!
ったく…………せっかく静かな我が城を作ったというのに……隅に居るあの子を見習ってほしいよ。
「よっ。今日は何見てんだ? 奈々未」
「えっ……マスターでしたか。 ……えっと……これ……です」
「……『進化論』? 面白い?」
「はい……! 見ます……か? 一緒に……」
「いや、俺は仕事中だから。 ごめんね。ゆっくりしてって」
「……むぅ」
椅子を隣に動かしてくれているところ悪いが、今の俺は仕事中だ。
相変わらず色々と読むものが変わる面白い子だな。昨日は……なんだっけ……そうだ、『深海の不思議』だったか。
でも隅で読んでくれるから俺もありがたい。 ああいう子がカフェを楽しんでるって言えるんだろう。
「マスター! はやくぅ~!」
「マスター……駆け足っ!」
「もうちょっとだから待ってろっ!!」
俺は反対側でギャーギャー騒いでいる二人組に一喝してからカウンターへと向かう。
さてと、俺用の珈琲を淹れてっと……
「はい、マスター。 珈琲ですよね?できてますよ」
「お、ありがとう。 助かるよ」
「いえいえ。 たった一人の従業員ですので……マスターのお役に立たないと……!」
俺はその場で少しすすって味を確かめる。
うん、伶実ちゃんも随分と淹れるのが上手になった。最初はホント酷いものだったのに……
「む~……」
「ん? どしたん?伶実ちゃん」
「マスター……昔のこと考えてましたね……?」
やっべバレてる!?なんて言い訳しよ……。
「いや……そんなこと無いよ…………」
「嘘ですっ! マスターが私の方見ながら懐かしい顔するのってそれくらいしかないですもんっ!」
「お……俺、2人に呼ばれてるからっ! じゃっ!」
「あっ……マスター! 終わったら大事なお話がありますからねっ!!」
その言葉に俺は足を止める。
大事なお話……?なんだ……?
はっ!まさか告白とか!?
…………なんてないか。この子にとって俺はただのマスターだし、そもそも年が離れている。
「それって……?」
「決まってるじゃないですか。 …………先週の赤字分についてのお話……ですよ」
「っ――――!! 勉強教えてくるっ!!」
「あっ! もうっ!!」
脱兎のごとく俺は奥のテーブルに向かって逃げ出す。
随分と当初の計画から離れてしまったが、これはこれで面白いからいい。
伶実ちゃんに小言を言われながら仕事を手伝ってもらい、遥と灯に場を盛り上げてもらい、遠くで見守ってくれている奈々未がクスッと小さく笑う、そんな日常が。
俺は明日も珈琲を淹れ続ける。
これが俺が夢にまで見たカフェ、『夢見楼』の日常なのだから――――。
要望が多ければ現在執筆している『目が覚めたら記憶が消えた上に、銀髪双子美少女姉妹が彼女になっていたんだが』の後に連載致します。
なおまだまだ終わる見積もりすらついていない模様。