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機械仕掛けの獣

「行ったぞジン!」

「任せてください!」


 気合と共に横薙ぎに剣を振り抜く。


 狙う先には緑の皮膚に子供のような体躯の魔物、ゴブリンが。


 ゴブリンは持っていた棍棒で剣閃を防ぐが、その衝撃で地面に転ぶ。


 慌てて立ち上がろうとするが、すぐさまその脳天を矢で射抜かれる。


「次、来るぞ!」


 矢を放った師の言う通り、続けざまに別のゴブリンがジンに向かって攻撃を仕掛けてくる。


 手には槍が握られている。木を削っただけのそれは、粗末ではあるが人間を突き殺すには十分な殺傷力を秘めている。


 突き出して来たそれを体を捻ってかわすと、左手で握り思いっきり引っ張る。


 体重差で容易にバランスを崩すことができたゴブリンを、右手の剣で突き殺す。


 短い呻き声と共に絶命したゴブリンから剣を引き抜き、構える。


 まだ終わりじゃない。ゴブリンは群れをなし、こちらを狡猾な目で見つめている。


「さて、行こうか」


 数では圧倒的に不利な中、少年は驚くほど冷静だった。




「これで終わりだな」


 ふう、と一息つく。群れは一掃した、一匹一匹は弱いがこの数を相手するのは流石に骨が折れる。


「じゃあ魔石をとるぞ」

「……マジっすか」


 あたり一面ゴブリンの死骸だらけだ。命のやり取りをした後にこの作業はなかなかの重労働だ。


「こんなんでも金になるんだ、文句言ってないでさっさとやりな」

「へーい」


 ナイフを使い死骸の胸を捌く。


 魔物の魔石は基本的に心臓のすぐ横にある。


 ヌメリとした嫌な感触を忘れるために、無心で作業を続けていく。


 全ての魔石を回収し終えるまで、かなりの時間がかかった。





 先日仕留めた大猪のおかげで村の蓄えにはかなり余裕ができた。


 にも関わらずユノとジン、2人が双子山に遠出して狩りを行っているのは、最近村まで降りて来て作物を荒らすようになったゴブリンを駆除するためだ。


「本来なら、こいつらは山のもっと高い所を縄張りにしてるんだがな」


 と師匠が訝しげに呟く。


 今戦った場所は山の中腹、この辺りは野生動物も多く、餌には困らない。わざわざ村まで降りて来る必要などないはず。


 その時、ガサリという音が聞こえる。

 

 森の影にゴブリンの生き残りがいて、こちらの様子を伺っていた。


 見つかったことに気づいたゴブリンは2人の狩人から全力で逃げ出す。


「追うぞ」

「一匹くらい見逃してやってもいいじゃないですか」

「ダメだ、あいつらは執念深い。下手に情けをかけると痛い目を見るぞ」


 そのまま師匠は駆ける。


 慌てて追いかけるが、速い。


 ゴブリンも小柄な体格を活かし、木々の隙間を器用に抜けるが、師匠の速さはそれ以上だった。


 ジンも全力で走るが師の背中を追うので精一杯だ。


 やがて師の背中が見えなくなる程突き放された頃に森を抜け、山頂へと続く道に出る。


「うわ、深いな相変わらず」


 崖沿いのその道から見下ろす渓谷は、底が見えないほど深い。


 万が一足を滑らせ落ちようものならひとたまりもないだろう。


「さて、師匠はどこ行ったかな?」


 随分と離されてしまった。


 ひとまず山頂を目指そうと歩みを進めようとした時、腕を引っ張られ岩の陰に引きずり込まれる。


「うわ、なっ……へ? 師匠?」

「声を出すな!」


 今まで聞いたことのないほど緊迫した、師匠の声。


 その顔をよく見ると、額に冷や汗を滲ませている。


 師の尋常ならざる様子を見て、緊張が走る。

 

 その時、近くからゴブリンの悲鳴が聞こえた。


 岩陰の少し向こう。そこに、その獣はいた。



 その魔物を一言で言い表すなら、機械仕掛けの獣だ。


 狼に似た化け物は、赤錆まみれの装甲で全身を覆われている。


 その隙間から見える内部はいくつもの歯車が複雑に絡み合っており、その駆動音がここまで聞こえてくる。

 

 以前仕留めた大猪よりも巨大な体躯からは何本も排気管が飛び出ており、まるで呼吸するかのように白い蒸気を吐き出している。


 そして何よりその巨大な顎。体とのバランスを考えても明らかに大きすぎる顎は、機械にも関わらず喰らうことのみに特化した形状をしているように見える。


 生物を模しているはずなのに、生物としてあまりにも不自然なフォルム。


 悪夢から飛び出たかのような捕食者は今、ゴブリンをその巨大な顎で丸かじりしていた。


「っ!!」


 声をあげなかったことは奇跡に近かった。いや、あまりの恐怖に悲鳴すら出なかったのだ。


 骨を砕く湿り気のある咀嚼音と、金属同士がすれ合う摩擦音があたりに木霊する。


 今、あの獣に見つかれば二人とも殺される。


 逃げ出すことも敵わない、ましてや戦って勝てるビジョンが思いつかない。


 絶望的な予感がする中、見つからないようただ祈ることしかできなかった。


 そして幸運にも、獣は二人に気づくことなく山頂へと去っていく。


「……はっ! ふっふぐっ!……」


 呼吸がうまくできない。


 命の危機がさってなお、少年の体は震えが止まらなかった。



 

明日また更新します。

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