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どう生きるのか

「ただし、ここで注意していただきたいのは、魔法を使わない戦い方を選んだからと言ってその人が武人であるとは限らないことです」


 魔法にも得て不得手が存在する。魔法を使っても大して強くなれない、そんな人が基礎強化魔法を極めようとすることはなんらおかしくない。


 だが、それだけでは武人とは言えない。


「武人とは戦い方ではなく、生き方なんです」


 生き様とでも言うべきか。


「彼らには生涯をかけて成し遂げようとする目標があります。それは……」

「それは?」

「武の極み、つまり世界最強です」

「…………それ笑うとこ?」

「笑えないんですよ。あの人たち本気で目指してるんですから」


 重いため息をつかれる。


「ボルデンさん。あの人が強い魔物に挑んで、ズタボロになって治癒院に担ぎ込まれるのは今日が初めてじゃないんです。武人の方々は強敵を見れば見境無しに突っ込んでいく習性がありますから」


 自らの武を極める。そのために命を投げ出すような戦いを挑む武人が後をたたないそうだ。


「タチが悪いことに、ギルド側は武人という存在をある程度歓迎してるんです。なにせ武人を名乗る人で弱い人は基本的にいませんので」

「強いんですか? 武人って」

「強いですよー。弱い人が武人を名乗るとすぐ死んじゃいますからね」


 弱い武人は淘汰され、強い武人だけが生き残る。そんな世界らしい。


「…………なんか、野生動物みたいな生き方ですね」

「野生動物の方がマシですよ。少なくとも野生動物は自分の命を優先させますから」


 生存本能よりも、闘争本能を優先させるのが武人という生き物であるとのこと。


「マーガレット」


 話し込んでいると、年配のギルド職員がやってきてシンシアに何か耳打ちをする。


「わかりました。……ジンさん、ボルデンさんが目覚めました。あなた達にお礼が言いたいそうです」




 先ほどボルデンという男を担ぎ込んだ治癒院を再び訪れる。


「随分と早いお目覚めだな」

「ボロボロだったもんね、生きてるのが不思議なくらい」


 治癒院の中は清潔な白さで彩られ、微かに消毒液の匂いが漂っている。


 案内され病室を訪れると、中には包帯でぐるぐるの状態でベットに横たわる男がいた。


「お? おー、来てくれたか!」


 ボルデンが陽気にこちらに手を振ってきた。


「……随分元気そうだな」


 包帯を巻いていなければ怪我人と思えないほどだ。


「いやはや、こう見えてなかなか重症でな。全治2ヶ月だそうだ。見ろ、あの治癒師め治療の邪魔だと言って髭を剃りおった! これでは俺の威厳が半減するというもの、とんだ痛手だ」

「…………そんな戯言はけるんなら上等だよ」


 違いない! と豪快に笑う。


「それも全てお主達のおかげだ! お主達がいなければ、街に戻ることができず今頃まだ荒野を這いつくばっていたところだ!」

「…………多分その前に死んでたと思うけど」


 あの程度じゃ死なないという自信の現れだろうか。


「それともう一つ、感謝していることがある。よくあの戦いに手を出さず、俺を戦わせてくれた」


 そう言って頭を下げられる。


「……なあ、あんたに聞きたいことがあるんだ」


 ギルドで武人の話を聞いてから……いや、彼の戦いをこの目にした時から、ずっと聞きたかったことがあった。


「あんたとつがいとの戦い、正直言って勝てたのは奇跡的だった。勝ち目の薄い戦いだってのはあんたにもわかってただろ? なのにどうしてわざわざつがいに戦いを挑んだんだ?」


 あれは誰が見てもボルデンにとって分の悪い戦い、ジン達が偶然あの場を通りかかったのも含めて、この男が生きていることが奇跡に近い。


「はっきり言わせてもらうが、あんたのことはイカれてると思ってる。なんであんな簡単に命を投げ出す様な真似ができるんだ? あんな意味のない戦いに」

「……ちょっと、ジン」


 ウィルが制止しようとするが止まらなかった。どうしてもこの男の話が聞きたかった。


 自ら死地に飛び込む様な行為、少年にも経験はある。それには明確な目的と意思が必要だった。自らを奮い立たせ、一歩踏み出すに値する理由が必要なのだ。


 だがこの男の行動にはなんの意味も見いだせなかった。少なくともジンにはあの戦いに命をかけるだけの理由がある様には見えなかった。


 挙げ句の果てに戦わせてくれてありがとうだって? とても正気とは思えない。


 しかし……しかしだ、この男の行動がただ愚かなだけのものとも思えなかった。


 あの戦い、なんの意味もない様なあの戦いに少年は魅せられた。


 なぜ自分はあの戦いが頭から離れないのか? その理由が知りたかった。


「なんであんたは、あんたら武人ってのはそこまで強さを求めるんだ?」

「…………」


 ほんの一瞬考え込み、すぐさま口を開いた。

 

「決まっている」


 穏やかな口ぶり。なんの気負いもなく、ただ当たり前のように告げる。


「己が武人であるからだ」


 あまりに堂々たる答え。


「……答えになってねえよ」

「いや、すまん。言葉で説明するのはなかなか難儀でな。ただ、これが俺の生き方なのだ」


 包帯を巻かれたその顔が笑う。


「これ以外の生き方を知らない、とは言わん。こう見えて俺は宿屋の長男坊でな、家業を継ぐ生き方もあった。だが俺は武人としての生き方を選んだ」


 家業は弟に押し付けてきた。と苦笑いしながら言った。


「意味のない戦いと言ったな、側から見ればそう思われるのも仕方ないだろう。だが己にとっては違う、武人の道を生きる俺には全ての戦いに意味がある」


 強くなりたい。どこまでも純粋な思い。


「武の極みを……俺はどんな相手であってであっても背を向けることはできんのだ」


 こちらをじっと見つめる男の言葉には見栄や、誇張などは一切なかった。


「…………訳わかんねえよ」


 ジンはその視線から逃れるように顔を背ける。


 嘘偽りない男の考えは、少年にとって理解できないものだった。


 だが、なぜだろう? ただ真っ直ぐに己の生きる道を進む男の姿は、どうしようもなく眩しく見えた。

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