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武人

「お疲れ様です、ジンさん」


 ギルドに戻り依頼達成の報告を行うと、美人受付嬢の魅力的な微笑みで迎えてくれた。


 ああ、これだよ。俺がハンターの仕事終わりに求めていたものはこれだったんだ。と少年は思う。




 クリムゾンオーガの討伐を終えたその帰りの道中で、ジン達一行は奇妙な男に出会った。


 その男は危険極まりないクリムゾンオーガのつがいに、斧一本で戦いを挑むという側から見ればイカれてるとしか思えない行動をとっていた。


 もしや、彼はとてつもない強者で、二体のクリムゾンオーガなど斧の一振りで屠れる実力の持ち主かと思いきやそんなことはなく、つがいに蹂躙される形で打ちのめされていた。


 しかし彼はその度に立ち上がり、ズタボロになりながらもクリムゾンオーガに立ち向かっていった。


 そして、ついに彼は勝利した。


 そんな一連の流れを目撃していたジン達は、半死半生の状態で倒れ伏した男を担いで街に戻り、慌てて治癒院に連れ込んだ。


 治癒院の癒し手の話によれば、全身ボロボロだが命に別状はないとのこと。


 少年はそのことに安堵するとともに癒し手の、またかこいつ、といった視線が気になった。


 そしてそのままの流れでギルドに戻るといった運びとなる。



「はい、クリムゾンオーガの硬皮、確かに受け取りました。ギルドを通してリバーテイルにしっかりと納品させていただきます」

「お願いします」

「報酬の防具ですが、完成までしばらくかかるそうです。ですが性能については間違いないとのこと。楽しみにしていてくださいね」


 少年の大剣がまともに通らなかった硬い皮で作られる防具だ、その性能には期待がもてるというものだ。


「それと、ボルデンさんを助けてくださったそうですね?」

「ボルデンって、斧使いの人のことですか?」

「ええ、その斧使いのボルデンさんのことです。彼を助けたことでギルドから報酬が支払われます」

「え? ギルドから報酬がもらえるんですか? ……うわ、しかもこんなに!?」

「ボルデンさんはギルドの所属するハンターで、ハンターはギルドにとって大切な資産、その資産を守ったことに対して対価が支払われるのは当然です」

「…………あのおっさん、ハンターだったのか」


 まあ、ハンターでなければクリムゾンオーガのつがいに挑まないか。…………いやいや、ハンターであってもわざわざつがいに喧嘩を売るような真似はしない。


 少年は頭を振ってバカな考えを追い出し、シンシアに尋ねる。


「受付さん、武人ってなんなんですか?」


 ボルデンは自らを武人と称していた。


 そして以前、シンシアは少年のことを武人ではないかと疑っていた。そのことがずっと気になっていた。


「えーーと、その、どうしましょう?」


 彼女はなぜか横にいるウィルにちらりと、何か確認するような視線を送った。


「……説明してあげてください。変に興味を持って中途半端な知識をつけられても困りますし」

「そうですね、あーあ、まいったな……」


 そして、観念したように少年へと顔を向けた。


「以前、クラスについて説明したことを覚えていますか?」

「ええ、確か俺を大剣使いとして登録したあれですよね?」

「そう、そのクラスです。武人とはそのクラスの一つです」


 そして、武人というクラスは特別な存在らしい。


「なぜ特別なのかと言いますと、武人は自らがそう名乗らなければ武人ではなく、自ら名乗れば、剣士も、槍使いも、斧使いも、全て武人になるのです」

「……えーと、それって」

「ぶっちゃけて言いますと、武人というのは全て自称なのです。だから正確にはギルドが定めるクラスのカテゴリからは外れています」


 それでも、武人という存在をギルドは黙認しているそうだ。


「ハンターに限らず、武人というものは世界中に存在します。では、武人とは何か? それは……」

「それは?」

「基礎強化魔法のみで戦う変人のことです」


 身も蓋もない物言いだった。


「へ、変人って……」


 自らも基礎強化魔法しか使えないジンは少し傷ついた。


「ああ、すみません言葉足らずでした。正確には基礎強化魔法のみで戦うことを選択し、それを極めようとする変人のことです」


 ……何が違うんだろうか、と思う。


「いいですか、普通基礎強化魔法を極めようとする人はいません。ある程度基礎強化を施した後は、属性強化魔法でさらに強化するのが常識ですから」

「属性強化?」

「はい。火の魔力によって筋肉を活性化させたり、水の魔力の鎮静作用によって肉体のリミッターを外しつつその負荷を和らげたり、土の魔力で表皮を硬化させたり、そう言った魔法体系です」

「はー、すごいですね」

「ですが、その属性強化には一長一短があります。筋肉を活性化させても得られるものは怪力だけであったり、肉体のリミッターを外してもその上昇率はそこまで高くない、表皮を硬化させてしまうとスピードが落ちたりとね」

「その点、ジンも使う基礎強化魔法というのは本当にバランスがいい……いえ、むしろ万能と言えるでしょう。極めていけば単純な筋力だけでなく、反射神経や動体視力、肉体的な打たれ強さや回復力まで上昇し、毒に対する抵抗力まで持つようになりますから」


 途中ウィルの補足が入る。


「なんだ、基礎強化魔法っていいことだらけじゃねえか」

「ですが、基礎強化魔法には致命的な欠点があります」


 みんな極めればいいのに、というジンの考えをシンシアは否定する。


「基礎強化魔法は極めれば極めるほど、魔法が使えなくなっていくんです」

「え、え? なんで?」

「ジン、以前僕が教えたこと覚えていますか? 基礎強化のコツは体内の魔力を早く、精密に循環させること。基礎強化魔法を極めるということは、その二つを両立させるとんでもなく精細な魔力コントロールを身につけるということなんです。一方で魔法は体内の魔力を外に出す必要があります。針の穴を通すような魔力コントロールをしている最中に、全く別の方向に魔力の流れを持っていくなんて不可能です」


 もしできる存在がいるとすれば、それはもはや人間ではないと言う。


「このことが、先ほど言った普通の人は基礎強化魔法を極めようとしない理由です。魔法の恩恵は大きい、それを捨てようとするなんて普通の人間は考えません」


 そう、普通の人間は。


「その恩恵を捨て去り、基礎強化魔法と己の肉体のみで戦うことを選んだ人間が、武人を名乗るのです」

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