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挑む者

 つがいとの戦闘は絶対に避けろ。そうギルドから厳命されていた。


 単体であっても驚異的な強さを誇るクリムゾンオーガが連携をとって襲いかかってくるのだ、その戦力は単純に2倍というわけにはいかない。


 その上、種を残しそれを守ろうとする生命としての防衛本能が加わり、手がつけられないような暴れっぷりを見せてくる。


 しかしながらこの魔物がつがいを作ることは稀。種族そのものが強靭であるが故に繁殖能力は高くなく、気に入らなければ同種族であっても殺し合いをするような気性の荒さを持つクリムゾンオーガのつがいなど、そうそうお目にかかれるものではない。


 もし出会ってしまったとしても、つがいのクリムゾンオーガとわざわざ戦うメリットなんてないのだ。


「……何やってんだ、あいつ?」


 だからこそ、ジンは目の前の光景が信じられなかった。


「うおおおおおおおお!!!」


 雄叫びをあげ、つがいのクリムゾンオーガに立ち向かう男。


 その手には戦闘用の大型の斧……戦斧が握られていた。



 妖精の感知能力でつがいのクリムゾンオーガの近くに人間がいるとわかったジン達一行は、人がつがいに襲われている可能性を考え、慎重にその場に近づいた。


 誤って虎の尾を踏んでしまった人間がいるのならば救助するつもりだった。


 だが、いざ近づいてみればそこには予想だにしない光景が広がっていた。


 戦斧を振り回しクリムゾンオーガと真正面から対峙する男。

 

 脳天を砕こうとする棍棒の一撃を懐に入ることでかわし、反撃を返す。


 硬い皮膚によって跳ね返されるがそれに構わず何度も、何度も攻撃を繰り返す。


 その戦いぶりは魔物を追い払おうとか、逃げ出す隙を作り出そうとしているものではなかった。


 不幸にもつがいと出会い、巻き込まれてしまったようには見えない。

 

 明らかに自らの意思で戦いを挑み、勝とうとしている。


「な、何考えてんのあの人!?」


 つがいのクリムゾンオーガと戦うメリットなんてない。


 まさかそんなこともわからず戦っているのだろうか。


「あの人バカなの!?」

「わ、わからんぞ。もしかしたらめちゃくちゃ強くて、1匹1匹倒すなんてちまちましたことやってられねえ! って人の可能性も……」


 直後、棍棒の一撃が男の顔面に炸裂した。


「バカかあいつは!!」


 吹き飛んだ男めがけて走り出す。


 今の当たり方はまずい。死んでいてもおかしくない一撃だった。


 なんとかして男を連れて逃げなくては、そんな使命感を抱き男に駆け寄ろうとする。


 しかしーー


「来るなっ!!」


 響くような大声に少年の足が止まる。


「手を出すな!」

「はあ!?」


 血を吐きながら立ち上がる男の足は小刻みに震えている。


 明らかにまともに戦える状態ではない、だがその目には強い光が宿っていた。


「助太刀無用。これは武人の戦、己の力以外で勝って命を拾うては武人の名折れよ!」

「な、何言ってんだあんた……?」

「武人ボルデン! 参る!!」


 男は雄叫びをあげながら再び特攻する。


「…………どうするんです?」

「……どうもできねえよ、手を出すなって言われちまったんだ」


 獲物の横取りはマナー違反だ。下手に助けようものなら恨まれかねない。


「とりあえず、いよいよやばくなったら助けるぞ。ウィル、魔術の準備はしておけよ」

「……わかりました」


 今はただ静観することしかできない。



 正直に言って、男が勝てるようには見えなかった。


 勇猛果敢に突撃を繰り返すが、その攻撃のほとんどはかわされ、当たっても致命的なものにはなり得なかった。


 反対に魔物の攻撃はよく当たる。棍棒の横なぎ、突き飛ばし、蹴り、拳がことごとく男に突き刺さる。


 その度に吹き飛び傷を負う男、しかしその勢いは衰えなかった。


 不思議だった。


 少年の目から見て、男はそれほど強く見えなかった。


 異様なタフさを持っているものの、その攻撃には精細さが欠けて、足運びや身のこなしも思わず顔を顰めてしまうほど稚拙なものだった。


 だが、不思議と惹きつけられる。


 どうしようもないほど不器用な男の戦いから目が離せない。


 気がつけば、手に汗が滲むほど拳を握りしめ、その戦いに見入っていた。


 最初は優勢だったクリムゾンオーガのつがいも、何度倒れてもその度に立ち上がる男に押され始めてきた。

 

 どれほど時間が経っただろう、やがて魔物は戦斧と男の執念によって地面に倒れ伏した。


 最後の最後まで立ち上がっていた男は、勝利の雄叫びを挙げた。


「……まじかよ、勝ちやがった」


 すげえ、信じられねえ。


 そんな思いで男を見つめる。


 男は全身が鮮血にまみれ、満身創痍だった。


 そして案の定、そのままバタリと地面に崩れ落ちた。


「あれ? 倒れちゃった……どうする?」

「いやどうするって、やべえだろ。このままだと死ぬぞこのおっさん」


 あの怪力を誇る魔物の攻撃を、愚直なまでに正面から受け続けたのだ。生きている方がおかしいくらいだった。


「街に連れて帰って治癒院に運びましょう」


 こうして、王都初の依頼は奇妙な男との遭遇という波乱はあったものの、無事に終了した。

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