お買い物
「はあーー、すっげえ品揃えだな」
店内を見渡して出てきたのは頭の悪そうな感想だった。
並べられた鎧の数々、その全てがピカピカに磨き上げられ高級感を漂わせている。
少年の語彙力が低下するのも仕方ないというものだ。
「しかしなんというか、防具を売ってる店の雰囲気じゃねえよな」
「それは当然。言ったでしょう? 王国一の百貨店だって」
今ジン達がいるのは防具売り場、店内には他にも紳士服売り場や婦人服売り場、挙句に子供のおもちゃコーナーまであった。
少年のイメージでは防具なんて売ってる店は裏通りにあり剣呑な雰囲気が漂うようなものだと思っていたのだが、この店は全く違う。置かれた鎧などちょっとおしゃれなインテリアにしか見えない。
「リバーテイルは国中はおろか、近年では国外にまで支店を持つような一大企業です。その本店ですからね、多種多様な服飾店に生活雑貨屋に魔導具専門店、なんでも揃ってますよ」
「…………鎧って服飾扱い?」
なんにせよすごい規模だ。
「ね、ねえジン。下の階からものすごく芳醇で芳しい甘い匂いがするんだけど……い、行っていい? ジンが防具選んでる間ちょっと見てきていい!?」
「後にしろ後に」
一緒に行動しないとこの妖精は目のついたもの手当たり次第貪りかねない。
「さて、何を買います?」
「つってもなあ、俺防具のことなんてなんもわかんねえぞ?」
攻撃は全部避けろ! の精神でここまでやってきた無鉄砲さは伊達じゃない。その上品揃えが良すぎて何を選べば良いのやらさっぱりだ。
うんうん唸りながらどうやって着るのかすらわからない鎧をあれこれ眺めていると声をかけられた。
「何かお探しでしょうか?」
声をかけてきたのは髪型をオールバックにバッチリ決めた黒い装いの男性。
「えっと……あなたは?」
「この店の者でございます。突然のお声がけ失礼しました、お困りのように見えましたので」
「はあ、店員さん」
あまりに畏まった態度、ここまで丁寧な接し方をされてしまうとドギマギしてしまう。
「えっと、自分はハンターでして。今日は防具を探しにきたんです」
「おや! ハンターでしたか、お若いのに素晴らしい」
そう言うと店員は少年をじっと見つめる。
「背中に担がれたそれは……剣ですかな?」
「ええ、一応」
言い淀むのも無理はない、一見するとただの鉄の塊にしか見えない。
「ということはお客様は剣士、ならばこちらなどどうでしょう?」
そう言って勧められたのはフルプレートの全身鎧。
「全身余すことなく守ることができる鋼鉄の鎧です。ちょっとやそっとの攻撃じゃびくともしませんよ。ささ、どうぞご試着を」
やや強引に試着室へと連れてかれる。
そして試着を終えとーー
「ぷっ、似合ってるよジン」
「笑っちゃってんじゃねえか」
なんとも不愉快な反応が帰ってきた。
本人も着ている途中で気づいた、これは俺にあってない。そもそもこの鎧は明らかにがっしりとした体型の成人男性用、そこまで上背のある方ではないジンには持て余す代物だ。
「おや、サイズが合っていませんでしたな」
店員の声が白々しく聞こえるのは気のせいだろうか?
「ではこちらはどうでしょう」
次に着させられたのは先ほどよりはシャープな作りの鎧、流線型を描くそれは少年の体にピッタリとフィットしている。
「軽いでしょう? 最高級の魔鉄を職人の手で薄くしなやかに鍛え上げて作られ鎧です。軽量性と頑丈さを兼ね備えた逸品ですよ」
「あれ? 良いんじゃない?」
「でしょう! よくお似合いですよ」
「最高級の魔鉄でできた鎧なんて結構値が張るはずですが…………これから長く使うことを考えたら多少無茶して買っても良いと思いますよ」
周囲の反応はなかなか良い。防具に関しては素人である少年から見てもこの鎧はかなり良い代物だと言うことはわかる。
だが…………
「…………重い」
「おや?」
少年はこの鎧を買おうという気になれなかった。
「お気に召しませんでしたか?」
「確かにさっきの鎧と比べたら軽いですよ、それでもまだ重い」
軽いとは言ってもそれはあくまで鎧というカテゴリーの中での話だ。今までそんなものを身につけずに戦ってきた少年にはどうしても違和感が残る。
軽装に慣れすぎてしまったのだ。戦闘スタイルを確立しつつある今、その違和感は致命的になってしまうことが少年にはわかった。
「もっと軽い、それこそ普段から着ていて違和感のない鎧ってありませんか?」
「……難しい注文ですね。当店でそれよりも軽い鎧となるとこれぐらいしか」
そうして案内されたのは店内の中央にあるショーケースに飾られた鎧。
要所要所を鳥の羽で飾られたエスニックな雰囲気の鎧だ。
「風切の鎧。鳥類系の魔物の素材を使った鎧で、あの剛槍のレイノルズが使用している物のレプリカモデルです」
その鎧には見覚えがあった。かつてジンをハンターへと導いた恩人が装備しているのと同じもの。
「あー、そういやこんなん着てたなあの人」
「良いじゃんジン、これにすれば?」
「勘弁してくれ、いくら尊敬してる人でもお揃いはごめんだ」
からかうような口調の妖精。
そんなことをしたらいい笑いものだ。
「…………失礼ですが、一級ハンターであるレイノルズ様とお知り合いなのですか?」
「ええ、と言うか俺をハンターに推薦してくれたのがあの人なんですよ」
なんとなしに答えたつもりだったが、その反応は劇的だった。
「あのレイノルズが……推薦?」
営業スマイルを絶やさなかった男性が驚きを隠さず目を見開いている。
それからふと口元に手を当てて無言で何か考え込んだ。
「…………お客様、当店の依頼を受ける気はありませんか?」
「へ?」
「実はですね、ある新製品を考えていまして。その製品のコンセプトは鉄の鎧よりも頑丈でありながら、軽量で普段使いもできる。そう、先ほどお客様が求めていた物と合致するんですよ」
「は、はあ……」
「しかしそのためにはある魔物の素材が必要不可欠、これの入手をどうするか悩んでいたところなんです」
先程までとはまるで違う、商売人特有の鋭い光を宿した目でハンターの少年を見据える。
「その新製品を報酬に、魔物の素材を手に入れていただけませんか?」




