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おいでませ王都へ

「いやー、これぞ王都って感じがするね」

「適当なこと言いやがって、まあ気持ちはわかるが」


 眼前に広がる人、人、人の群れ。


 まだ日が登ってそれほど時間の経っていない早朝だというのにすごい数だ。


 これでも王都全体から見ればほんの一部だと思うとため息しか出ない。


 ギルドに登録を済ませた翌日、ジンとアリアは2人で王都の観光を楽しんでいた。


「ウィルも来れれば良かったのにねー」

「あいつにとっちゃ地元みたいなもんだろ、この景色ももう見飽きてんじゃねえの?」


 ちなみに彼は1人魔術学院に戻っている。なんでも魔術師の手の更なる改良を目論んでいるらしい。


「しっかしさすが王都、美味しいものでいっぱいだね!」

「……甘味を楽しむのはいいけどよ、人の肩に腰掛けながら食うのはどうかと思うんだが?」

「何言ってるのジン、飛びながら食べるなんてお行儀が悪いんだよ!」

「…………そのせいで俺の服が食べかすまみれなんだが、それはお行儀の良い行為とでも?」


 軽く服を叩くとパラパラとパンくずが落ちる、せめてもう少し綺麗に食えないものか。


「それでジン、これからどうするの?」

「ん? ああ午後からギルドの規定についての講習だよ。全くめんどくせぇ」

「じゃなくて、記憶のことだよ」

「……ああ、それか」


 ぽりぽりと額を掻く。


「一応ギルドに人相書きを作ってもらって俺の顔に心当たりのある人間を探してもらってる。あとはガロックでもやってたアクセサリー屋巡りだな。だけどな……」

「だけど?」

「なんとなくだけど、この街にも手がかりはない気がするんだ」

「えー、なんで? まだこの街来て二日目じゃん!」


 行き交う人々、木組の家の街並、そして街の中央にそびえ立つ巨大な王城。


「……この街の景色全部、全く見覚えがないんだ」


 その全ての光景があまりにも目新しいのだ。


「もしさ、俺がこの街に住んでたり一回でも来たことがあるなら少しは懐かしい気持ちになるかなって思ってたんだ。だけど……そんな感じ全然しない」

「……忘れちゃってるだけじゃないの? なんかの拍子にひょっこり思い出すかもしれないよ」

「……ああ、だといいんだけど」


 そうは言いつつどこかで諦めたような気持ちになっていることに気づいた。


 これだけ大きな街であれば……と期待をしていた。何かがきっかけになって全部思い出すんじゃないかと願望にも似た期待があった。


 だけど実際には記憶が戻る気配はなく、ただただ虚無感のようななんとも言えない気持ちだけが残った。


「全く、そんな簡単に諦めないでよ。初めて会った時の諦めの悪さどこ行ったの?」

「わかってるけどよ……」

「わかってない! ジンの良いところなんてそれぐらいしかないんだから、それがなきゃ怪力と口の悪さくらいしか残らないじゃん!」

「……もうちょい他にもあるだろう」


 ただの悪口にしか聞こえないが、多分妖精なりに慰め発破をかけようとしてくれているんだろう。


「ほらほら、そんなネガティブになってるのはお腹が空いてるからだよ。というわけであそこの焼き饅頭なるものを買ってくるんだよ!」

「まだ食うつもりかよ、ったく」


 少年は苦笑いしながら屋台へと足を運ぶ。


 2人きりの騒がしい王都観光は面白おかしく過ぎて行った。





「では講習を始めさせていただきます。ジンさん昨日渡した資料は読んできましたか?」

「………………」

「目を逸らさないでください、読んでないんですね」


 呆れたようにため息をつかれる。

 

 いやよく考えて欲しい、あんな分厚い資料を昨日今日で読むことなんてできない。


 ましてや自分はまだ読み書きに慣れてないのだ。と、資料を開くことなく王都観光を楽しんでいた少年は心の中で言い訳をする。


「まあ、あまり期待してませんでした。あれを読んでくれる新人さんなかなかいませんし。そのための講習ですから」

「……ホントすんません」


 頭を下げることしかできない。


「では今日はハンターの規定の中でも特に重要な二つの規定について話します」

「今日はって、この講習今日で終わりじゃないんですか?

「当然です、資料に書いてあること全部覚えてもらいますから」

「……はい」


 ギアビーストを相手取った時よりも、視界を埋め尽くす魔物の群れに立ち向かった時よりも絶望的な気持ちになった。


「まず一つ、依頼者からの報酬の受け取りについてです。これは特に指名依頼でよくあるケースなのですが、依頼者からの報酬は必ずギルドを通した上で受け取ってください」

「……ん? それはどういう?」

「すみません、もう少し詳しく説明しますね。指名依頼においての依頼者との直説交渉では報酬についての規定はありません、報酬がとんでも無く高額であっても、あり得ないほどの低賃金であっても、それはハンターの腕次第。双方納得した上での依頼締結であればギルドは文句を言いません、ですがその取り決め内容はしっかりとギルドに報告する必要があります。そして依頼者はその報酬をギルドに払い、ギルドがハンターに報酬を渡すといった形を取る必要がるのです」

「……なんでそんなめんどくさいことを」

「単純な話です、金銭トラブルの防止のためです。この規定がないと報酬を払った払ってないの水かけ論になる危険性がある上、悪用してくる人間まで出てきますからね。しかも依頼者とハンターの双方から」


 彼女が言うには昔報酬を払ったと言い張ったまま雲隠れをかました依頼者や、当初取り決めた報酬では足りないと依頼者を脅すハンターなんてのがいたそうだ。


 ギルドという大きな組織を間に挟むことでそういったトラブルを未然に防ぐことができるのだと。


「この規則を破ると特に重い罰則がかさられるので注意してください」

「はーー、碌でもないのがいるんすね」

「……ジンさん、今自分は関係ないと思ってますね?」

「へ?」

「ダメですよ、たとえ悪用する気はなくともうっかり違反してしまうケースが非常に多い規定なんです。例えばちっちゃい子供からお花を受け取って、報酬はこれで充分だ。なんてカッコつけるハンターめちゃくちゃ多いですからね」

「それアウトなんですか?」

「アウトです。たとえ報酬がお花だろうが、綺麗な小石だろうが、子供の笑顔だろうがきっちりギルド通してください」


 多分だが、言われていなければ同じことしてそうだったなと少年は思った。


「次に、ハンターを辞めた時についての規則です」

「…………なったばかりなんですけど?」

「それでもこれは重要なんです。ハンターの引退時期は人によって様々、体の衰えを理由に一線を退く人、結婚という幸せを掴んだ人、お金が溜まって新たに商売を始める人、自分の限界を思い知り早期にリタイアする人、……まあ中には生涯現役なんて人もいますが……とにかく、ハンターを引退した人全てにある制限が課せられます」

「なんです?」

「引退してから10年間の国仕え禁止です」


 国仕えという言葉が少年にはピンと来なかった。


「例えば騎士になったり、軍に入ったり、貴族お抱えのボディーガードになったり。国に直接雇われるような仕事は全て禁止となります」

「そりゃまた、なんで?」

「引き抜き防止、優秀なハンターを国が独占するのを防ぐためです」


 この規定はバルトロン王国だけでなく、この世界の全ての国家が対象であるらしい。


「ところで、実は全てのハンターズギルドに酒場が併設されているんですけど、その理由はご存知ですか?」

「……ハンターには飲兵衛が多いからじゃないですか?」

「否定はしませんが、不正解です。正解は世界最初のハンターズギルドは元々酒場だったからです」


 ハンターは酒場から生まれたのだと言った。


「今よりも魔物による被害が大きかった時代、軍や騎士が対処できない魔物の討伐を人々は酒場にいる腕自慢に依頼しました。そしてその規模はだんだんと大きくなり組織化されていきました」

「……それがギルド」

「そう、ハンターは元々大衆のために存在するもの。国家などという小さな枠組みに縛られてはならない、そのための規定なんです」


 ここまで言うと一度言葉を止め、ジンをじっと見据えた。


「ジンさん、我々はあなたが国家の垣根を超えた活躍ができるハンターになることを期待しています」

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