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王都ラヴァナ

 バルトロン王国の首都ラヴァナ。


 王都と呼ばれるこの都は当然この国で最も栄えている場所となる。


 巨大な城壁の、これまた巨大な門を通り抜けてまず目に入ったのは、今まで見たことがないほどの人の山。


 記憶のない少年だけでなく、生まれてからずっと閑散とした森で過ごしてきた妖精も、あまりの人の多さに酔いそうになった。


 ガロックの街がいかに小さな田舎街であったかを思い知らされた。


 道ゆく人の波に戸惑い、首が痛くなるほど高い建物に驚きながら、都会慣れしていないおのぼりさん丸出しの少年は目的地へと辿り着く。


「……でっけえ」


 ガロックの街なんかとは比べ物にならないほど大きなハンターズギルド。


 ここから少年のハンターとしての生活が始まる。



 

 中の賑わいもガロックの街とは比べ物にならなかった。


 まず驚いたのはギルドにいるハンターの数。ガロックでは常に閑古鳥が鳴いていて五人もいれば多いなと感じるくらいだった。


 だがこのギルドは違う、絶えず掲示板の前に人の山ができていて今日の仕事の品定めを行っている。


 併設された酒場ではパーティメンバーと何やら真剣な顔で打ち合わせをしている者達、ひと仕事終えたのか豪勢な食事にありついている者達と様々な賑わいを見せている。


 そしてその誰もが一般人とは明らかにかけ離れた気配、戦う者としての強者の気配を纏っている。


 その圧に少し尻込みしながらもなんとかギルドに入り、受付に座っていたギルド職員に要件を話すと別室へと案内された。


 必要以上にフカフカなソファに三人でドギマギしながら待つこと少し、軽いノックとともに扉が開かれる。


「お待たせしました、ハンター登録に関してですね」


 現れたのはギルド職員の若い女性。


 ややずり落ちたメガネにぴっちりと着こなしたスーツ。


 その姿を見たジンはソファから勢いよく立ち上がる。


「……美人、受付嬢……!!」


 思わず拳を握りしめる。


 求めていた受付嬢の理想像がそこにあった。


「ええっと……正確にはハンター担当ギルド職員という肩書きなんですが……」

「すみません、彼のことは無視してください」

「都会に出てきたばかりで浮かれてる田舎者なんだよ」


 好き勝手言われるが構いやしない、依頼をこなす上でモチベーションを保つことは死活問題なのだ。


 今までは酷かった。命がけの仕事を終えてギルドに戻っても、出迎えてくれるのはヤニくさいおっさんの黄ばんだ笑顔。


 あれでは疲労が倍になるというものだ。


「改めまして……、今日のご予定はハンター登録で間違いないですね?」

「ええ、これを」


 ガロックのギルドで持たされた書類を渡す。


「…………はい確認しました。ハンターズギルドガロック支部で3ヶ月見習いとしての活動した後昇級試験に合格。なるほど、やはり貴方が妖精連れのジンでしたか」


 その目はジンにではなく、その肩に座る妖精に向けられている。


「本当に妖精っているんですね! 私ちょっとドキドキしています! 握手してくれませんか?」

「えへへ! いいよ、私そよ風のアリア!」

「初めまして、シンシア・マーガレットと言います。うわあっ手ちっちゃ! 羽綺麗!」

「…………あっれえ?」


 ハンターである自分そっちのけで盛り上がる女性2人、それを見て少年は首を傾げる。


 おかしい、今日は自分が主役のはずなのに。


「あの……受付さんいいですか?」

「ああすいません! 私ったらついはしゃいじゃって!」


 ずり落ちたメガネを慌てて直す。


「ええと登録ですよね! 提出された書類に問題はありません。いくつかの説明終え次第ジンさんを正式にハンターとして登録させていただきます」

「……わかりました」


 佇まいを直しながら改めてこちらを向く。


「登録が終わればジンさんは3級ハンターとして活動をスタートしていただきます」

「3級?」

「はい、ハンターの実力を示すランクとして上から1級、2級、3級といった形で格付けされています。ハンターとして依頼をこなし、その実力が認められれば上のランクへと上がることができます。ですのでジンさんは当分2級ハンターになれるように頑張っていただくことになりますね」

「なるほど」


 かつてガロックのギルドで少年を推薦してくれたレイノルズが1級ハンターを名乗っていた。


 その時はよく理解できていなかったが、彼がハンターとして最高位の称号を持っていたことに驚愕する。


「そしてハンターが受ける依頼には三種類あります。一つは常設依頼、魔物の討伐や魔石の納品などギルド内の掲示板に張り出されている依頼です。受ける受けないは個人の判断で構いませんが、当然多く受けた方がギルドの覚えは良くなりますね」


 ここに来る前の掲示板前でできていた人だかりを思い出す。この街では仕事に困ることはなさそうだ。


「次に指定依頼、ギルド側がハンターを指定し割り振る依頼です。こちらの依頼は特段の事情がない限り断ることはできません、理由なく拒否した場合重いペナルティがあるものと思ってください。とは言っても、ギルド側がハンターの力量を見極めた上で適正のあるハンターに依頼する訳ですから、そこまで危険なことはありませんけどね」


 まあそこまで無茶な依頼を振られることはないだろう、下手なハンターに仕事を任せて失敗しましたなんてことになったらギルドの沽券に関わる。


「そして最後に指名依頼、依頼者がハンターを名指しで、あるいは直接交渉で依頼するケースです。こちらに関しては依頼内容と報酬を依頼者との直接交渉で決定するため受ける受けないもハンターの裁量に委ねられます。ですが、指名依頼を受けるということは当然かなり大きな仕事になります。富と名声を得ることのできるチャンス、それをどうするかはよく考えてくださいね」


 富と名声、その言葉を聞いてジンは少しワクワクしてしまった。


 彼にとっての第一目標は自身の記憶を取り戻すことだが、そうだとしてもやはり男の子。言葉の響きにどうしても魅了させられる。


「次にギルドの規定について……と言いたいところなのですが、口頭で説明できるような内容ではないので後日講習会を開かせていただきます。それまでに……よいしょっと」


 ドンッ! と重たい音と共に机の上に分厚い冊子がいくつも置かれる。


「その資料、全て目を通しておいてください」

「…………アリア」

「手伝わないからね」

「……ちくしょう」


 即答だった、目も合わせてくれなかった。


「次にジンさんのクラスについて確認させてください」

「クラス?」


 聞き覚えのない単語だった。


「クラスというのはジンさんの資質を鑑みてギルド側が設定する肩書きのようなものです。たとえば剣士とか、魔法使いとか」

「なるほど、そういう」

「クラスを把握することでギルド側も仕事の割り振りがしやすくなります。ですのでご自身の得意なことを正直に教えていただけますか?」

「ジン、わかってると思うけどここで変な見栄張っちゃダメだよ」

「……わかってるよ」


 ここで嘘をつくメリットなど一切ない。


「得意なことか、まず魔物狩りが得意です」

「なるほど、では武器は何をお使いに?」

「えっと、大剣です。あとはサブにナイフを使います」

「ほう、では得意な魔法は?」

「基礎強化魔法ですかね」

「はいはい、他に使える魔法はありますか?」

「いえ、これだけです」

「これだけ……? 基礎強化魔法だけですか?」

「はい」


 とたん彼女の顔が怪訝そうなものに変わる。こちらに向けられる視線も一気に鋭くなった気がした。


「もしかしてジンさんって…………武人ですか?」

「ブジン?」


 先程までとは違う警戒するような雰囲気に戸惑う。


「……マーガレットさん、彼は違いますよ」


 状況が掴めずおろおろする少年をフォローするようにウィルが声をかける。


「違うんですか?」

「はい、彼はそもそも武人がなんなのかを理解してません」

「本当に?」

「本当です」


 疑わしげな目で青年を見据えるシンシアは、これでもかと念押しする。


 そして安心したようにため息を吐いた。


「あーーよかった、私の担当するハンターが武人だったどうしようかと」

「あの受付さん、ブジンって……?」

「いやー本当によかった、なら無難に大剣使いってところですね。こちらで登録しておきます」

「あのー……」


 少年の疑問を無視して手元の書類にさらさらと何かを書き込む。答えるつもりはないようだ。


「はい、これでジンさんのハンター登録は終了です」

「……はい、ありがとうございます」


 ブジンとやらが何か気になるがこれ以上聞いても意味はなさそうだ。仕事をしてくれたギルド職員に素直に礼を言う。


「ではジンさん、改めまして……ようこそハンターズギルド、バルトロン王国本部へ」

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