第3章プロローグ
毎日夢を見る。
その夢を見ると、これが夢であると不思議なくらいすぐに気づく。
夢の内容はいつも同じ、誰かと一緒に他愛もない話で盛り上がり、どこかに出かけて買い物をして、何か甘いものを食べる。
彼女が誰なのかはわからない。夢の中の彼女は目の前にいるにもかかわらず顔が霞みがかったようにぼやけてよく見えない。
でもいつも楽しそうに笑顔でいるのだけはわかった。俺のくだらない軽口に笑ってくれるのがたまらなく嬉しかった。
これは多分俺のなくした記憶なんだと思う。
記憶を失う以前の俺にとってとても大切な思い出。
この夢を見るたびにとても幸福な気持ちに包まれる。
だけど同時にこれを失ってしまった喪失感で、胸が締め付けられる。
夢の終わりはいつも突然だ。
彼女の声が遠くなっていき、視界が光に包まれ何も見えなくなっていく。
そして目が覚めるとーー
夢の内容も、夢を見ていたことさえ忘れてしまう。
「ーーン、ジン起きて!」
頬をペチペチ叩く感触で意識が覚醒していく。
「……ん。お、おう」
寝ぼけ眼を開くと、人形のように整った顔立ちの小さな妖精アリアがこちらを覗き込んでいた。
「そろそろ着くって」
「おう、そうか……」
軽く伸びをする。すると全身からポキポキと子気味の良い音が出る。
この1週間で馬車の旅にもすっかり慣れた。最初の頃はガタガタと揺れる座席に辟易したものだが、今ではそんなこと気にせずぐっすりだ。
ウィルのアドバイス通り分厚いクッションを買っていおいてよかったと心から思う。
「何か夢でも見てた?」
「え? あーいやどうだろう?」
自分でもよくわからない。
見ていたような気はするが、その内容を思い出せない。
「何か寝言でも言ってたか?」
「ううん、なんかにやけてて気持ち悪かったから」
「……思ってても言うなよ」
妖精の言葉に少しだけ傷つく。
「2人とも、ほら見えましたよ」
魔術師の青年ウィリアムに促されて窓から外を眺めると、そこには見たこともないほど巨大な壁が並んでいた。
「すげえな……」
まだかなり距離があるにもかかわらず圧倒される大きさ。スケール感が狂いそうだ。
「でしょう? 建国以来一度も破られたことのない城壁です」
確かにどんな魔物が来てもびくともしなさそうだ。
「……これが王都か」
王都ラヴァナ
少年の新たな活動の拠点だ。
本日もう1話更新します。




