第2章エピローグ 新たな仲間
「い、イオナへ。元気で、やっていますか?……お、俺は元気、です」
「……ねえそろそろ最初の挨拶のバリエーション増やさない?」
賑やかなギルドの酒場、そこで少年と妖精はいつもの騒がしいやりとりを繰り広げいていた。
「き、今日はイオナに大事な報告があ、あります。なんと、昇級試験に合格し、ハンター見習いを卒業しました。つまり正式なハンターになれたのです」
「相変わらず文面がぎこちないなー、そろそろ慣れてよ」
パフェを口いっぱいに頬張った妖精に文句を言われる。
「……うるせえな。えーっと、昇級試験ではウィルというま、魔術師の実験のお手伝いをしていました。このお仕事はとても大変で、魔術をぶつけるためのたくさんの魔物と戦わなければなりませんでした」
「そこちょっとだけ違う。それだと、魔術をぶつけられながらたくさんの魔物と戦ったって表現になるよ」
「おおそうか、間違っ…………間違ってないよな?」
「ん?…………間違ってないね」
この依頼で受けた負傷の原因の大半はウィルの魔術だった気がする。
「……まあいい。えっと、それだけではなく、ウィルは毒蛇のヴェンデッタというわ、悪い人たちに命を狙われていたのでその人達とも戦わなければ、なりませんでした」
「…………ジン、この文面だとウィルに命を狙われたって意味になるんだけど」
「間違ってないよな?」
「流石に命は狙ってなかったと思うよ!?」
本当だろうか? 少年はいまだにあの青年が自分の命を取りに来た可能性を捨てきれていなかった。
「さてと。色々ありましたが、その悪い人たちはみんなやっつけて、依頼を達成することができました」
「毒蛇の人には逃げられたけどね」
「さ、さらにその悪い人たちを魔物から守ったことで、あ、悪党どもを、改心させることができました」
「改心させたのはウィルでしょ! ジンなんかあの人たちボコボコにした上、囮にして逃げようとしたからむしろ恨まれてたじゃん!!」
「うるせえ!! 最後は助けてやったんだ、恨まれる筋合いはねえ!!」
今思い出しても腹が立つ。
ウィルの言うことは素直に聞いて衛兵に自首したくせに、ジンには憎々しげな視線を向けてきたのだ。
「まあこんなところか、あとはこの前買ったアクセサリーを同封して送るだけだな」
「……もう毎回毎回このやり取り疲れるんだけど」
うんざりした視線を向けてくる妖精を無視して筆を置く。
するとそこにここ数週間で随分と聞きなれた声がした。
「あ、いたいた。お二人ともお久しぶりです」
見慣れたくしゃくしゃ頭の青年、ウィルがこちらにやってきた。
「よお、と言っても二日振りくらいだろ?」
「そうでしたっけ? いやーレポートをまとめるのに夢中で日にちの感覚が曖昧でして」
頭をかいて笑うその目元はひどい隈に覆われていた。
「……お前ちゃんと寝ろよ」
「ははは、寝る間も惜しいとはまさにこのことですね」
ほんと相変わらずだな。
すると、急に姿勢を正しまじめくさった顔をこちらに向けてきた。
「ジン、アリア。ありがとうございます。あなた達の協力のおかげで究極の魔術への道のりが開けました」
「……よせよ、なんだよ今さら」
「そうだよ、私たちの仲じゃん」
「いえ、本当に感謝してるんです。僕1人じゃ何もできなかった、正直言って本当は無理なんじゃないかって諦めている自分がいたんです。でも2人がいてくれたから、僕の夢を笑わず惜しみなく協力をしてくれた2人がいてくれたからここまで来れたんです」
そう言って深く頭を下げる。
ジンの心に言葉にできない暖かいものが流れた気がした。
ハンターとなって依頼人と直接やりとりをしたのは今回が初めてだ、自分のした仕事でここまで感謝されたことも初めて。
変な照れ臭さと達成感のようなものでいっぱいになった。
ハンターになってよかった、初めてそう思えた。
「それでですね……実はまたお願いがあるんです」
頭を上げた青年は少し困ったような顔をしていた。
「ジン、パーティ制度って知っていますか?」
「え? ああ、確かハンターが個人じゃなくてチームで仕事するためにギルドに申請するやつだろ?」
数人でパーティを組むことで個人の力量を上回る依頼をこなすためのものだったはずだ。
「ええ、実はそのパーティメンバーはハンターじゃなくていいんです。全く関係ない職種の人間でも外部協力者という形でパーティに参加できるんです」
「へー、ってそれがどうかしたのか?」
魔術師の青年はハンターの少年をじっと見つめる。
「ジン、僕をあなたのパーティに入れてくれませんか?」
「……へ?」
予想外の言葉に間抜けな声が出る。
「え? いやお前研究は? 学院に戻らなくていいのか?」
「研究なんて学院じゃなくてもできますよ。それに……学者の僕がこんなこと言うと笑われそうですが……あなた達と一緒にいることで究極の魔術は完成するんじゃないか、そんな予感がするんです」
「おいおい……」
「僕の魔術の腕前は知ってるでしょう? きっとお役に立ちますよ」
「お前なあ、そんなのーー」
「こっちからお願いしたいくらいだ」
そう言って右手を差し出す。
青年はそれを見て嬉しそうにその手を握り返す。
「よかった、本当によかった! 断られたらどうしようかと……!」
「ふふふ、ウィルったら大袈裟なんだから」
「全くだ」
思わず笑ってしまう。
「いえ、本当に死活問題だったんです。僕無一文なんで」
「…………へ?」
一瞬何を言っているのかわからなかった。
「ほら、依頼の報酬で今期の研究費丸々使っちゃったでしょう? それに加えて魔術師の手を作るのにとんでもないくらい出費が重なったもんで、貯金が底をついてもまだ足りなかったくらいですから」
「…………お前まさか借金こさえたんじゃないだろうな?」
「人聞きの悪い! ただ銀行から少し融資してもらっただけです!」
「借金じゃねえか!」
あまりのことに呆れ果てる。
「ね、ねえ。いくら借りたの?」
「えーっとですね、これくらいです」
それはジンが報酬で受け取った金額を軽く上回るものだった。
「…………おいアリア、こいつやべえぞ」
「うーん、まあ薄々そんな気はしてたけどね」
仲間にするのは早計だったかもしれない、そんなことを考えてるとはつゆ知らないウィリアムは2人に向かって笑顔を見せる。
「これからよろしくお願いします。ジン、アリア」




