僕が魔術師になった理由
地面を揺らすほどの魔物たちの行進。
今まで見たことのない魔物の大群がこの森へ、ジン達の元へと押し寄せてくる。
「に、逃げるぞ!」
あんなもの流石に手に負えない。
「俺が先頭に立って道を切り開く! ウィル、サポートを頼む!」
おそらくだがあの魔物達が向かってくる先はヴェンデッタが投げた煙玉、ドランクパウダーが撒き散らかされた地点だろう。
魔物達の興味が自分たちに向く前にこの場所を離れれば逃げられる。
「ウィル、魔術を使うのは最低限にしろ。下手に刺激して狙いを定められたら終わりだぞ!」
「は、はい!」
魔物達はすぐそこまできている。
四方八方を囲まれた中、一点突破で活路を見出す。森の外へ、ガロックの街へと駆け出す。
しかし走り出した少年たちの背中を悲鳴に似た声が打つ。
「待ってくれ! 置いてかないでくれ!!」
「た、頼む……動けないんだ……」
「…………あっ、助け……て」
地面に倒れ伏す毒蛇に見捨てられた男達。
「ジ、ジン……」
「アリア、振り返るな……!」
ジンと戦い敗れた男達の中で致命傷を負っている者はいない、だがしばらく立ち上がれないほどのダメージを負わせた自覚がある。
彼らを助けることはできない、このままでは間違いなく魔物に食い殺されることをジンは理解していた。
その上で彼らを見殺しにすることを選んだ。
さらに言うなら、彼らを囮にすることで生存確率を上げようとする汚い打算もあった。
「でもジン! このままだとーー」
「言うな! わかっている!」
当然そんなことは少年にとって本意ではない。
自分たちに害をなしてきた敵だとはいえ、このまま見捨てることには罪悪感はある。
まして男達が動けないのは少年にやられたことが原因だ。
「あいつらを殺すのは、俺だ……」
口にした言葉が重くのしかかる。
だが少年にとって優先するべきは相棒のアリアと、依頼主であるウィルの命だ。
二つを天秤にかけ、一方を切り捨てる。
簡単に割り切れる話ではない、だが迷っている時間はない。
自分たちに助けを求める男達に背を向け少年は走る。
「頼む! お願いだ……」
懇願がまるで呪詛のようにのしかかる。だが少年は振り返らなかった。
魔物の大群が男達を飲み込む。
その瞬間。
「“火よ! 千の矢となり我が敵を穿て!!“」
魔術師が男達を取り囲む魔物目掛けて火の矢を放った。
「な……ッ!」
魔術は的確に魔物だけを薙ぎ払う。
そしてジンの後ろを走っていた青年は、男達の方向へと駆け出した。
「“堅牢なる城壁! 土造の守護者! 高く聳え立ち我らを守れ!!“」
詠唱と共に大地が隆起し大きな壁となった。
壁はとハンター崩れの男達と魔物と分断する。
大規模な魔術の発動。
異変を感じ取った魔物の群れはその行進をわずかな時間止める。
「おま……ば……!」
少年も呆気に取られ立ちすくむ。
全ての視線が魔術師の青年に注がれていた。
「馬っっ鹿野郎っっ!! 何を考えていやがる!!!」
男達を背に庇うように立つ青年を本気で怒鳴りつける。
「下手に魔術を使うなって言ったはずだ! そいつらを守るために死ぬつもりか!?」
全ての魔物の敵意が青年に集中する。もうこうなってしまってはウィルはどうやっても逃げることができない。
「ですが! このままだと彼らは死んでいました!」
「自業自得だ! お前を殺そうとした連中だぞ!」
「だけど、僕には彼らを見捨てることはできません!」
強い青年の声、ジンは思わずたじろいでしまうほどの迫力があった。
「もしここで彼らを見捨ててしまっては、僕が今の僕ではなくなるから……! 天才魔法使いと持て囃されていたくせに何もできなかったあの時の僕にまた戻ってしまうから!」
「お前……」
「あの時に誓った、その誓いを破ることは死んでしまうのと一緒なんです!」
「全ての人を救う! 僕はそのために魔術師になったんだ!!」
魔術師のその眼には一切の迷いがなかった。
「ジンさん僕はここに残ります。街に戻って救援を呼んできてください」
もうアレはダメだ、そのことがわかってしまう。あの青年はもうテコでも動かない。
揺るがない青年を見た少年は肩を震わせ地団駄を踏む。
「くそっくそっ! クソッタレ! 英雄気取りの死にたがりが!!」
少年は怒声と共に進んでいた方向と逆に走り出す。
そして大剣を振り、壁を乗り越えてきた魔物達を斬り伏せる。
魔物の敵意がハンター見習いの少年にも向けられる。これでもう逃げられない。
「何か策はあるんだろうな!? 何も考えずに突っ込みましたなんてぬかしたらぶっ殺すぞ!!」
「ジンさん!」
「ここで依頼人置いて逃げたらハンターの名折れだ……!」
覚悟を決め大剣を構える。
「アリア! ウィルとついでにこの馬鹿どもを防御魔法で守り切れ!」
「無理無理! こんな大人数を守り切るほどの魔法使えないよ!」
「気合いでなんとかしろ!」
「めちゃくちゃだ!」
そう言いつつも気合を入れた妖精は大きな防御膜を張る。これで少しは持つだろう。
「これで死んじゃったら2人のせいだからね!」
妖精は半泣きだ。
「ジンさん、10分持たせてください。僕が発動する魔術で一掃してみせます」
「はっ、結局いつも通りかよ」
ならば余裕だ。
「いくぞ」
本日もう1話投稿します。




