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脅迫、もしくはレベルの低い交渉

 活気あるガロックの市場。


 小さな街とはいえ昼時にもなれば立ち並んだ屋台の料理を目当てに町中の人々が集まっており、なかなかの賑わいを見せている。


 そんな中でお目当ての人物を見つけるのは一苦労だった、単純に人が多いだけでなくその人物は身長が低く、簡単に人の波に埋もれてしまう。


 それでも一度見つけてしまえばこちらのもの、その男が進む方向に人混み紛れて近づく。


 そしてさりげなく、あくまで自然に見えるように、その男に真正面からぶつかる。


「がっ!!」


 ぶつかった衝撃で男は後方に吹き飛ぶ。


 体格差だけでなく、ジンはぶつかったタイミングで足腰に基礎強化を施したのだ。


「おーすまないすまない、あれ今日は1人?」


 わざとぶつかっておいていけいけしゃあしゃあとのたまう。この男が他のハンター崩れたちと別行動をとっているのは承知の上での発言だ。


「て、てめえ! 妖精連れ!! どこ見て歩いてやがる」


 尻餅をついたまま憤る小男に対して、少年はとびっきりの笑みを浮かべて言い放つ。


「悪いな、あんまり()()()()()()()()見えなかったよ」

「て、て、てめえええ! 喧嘩売ってんのか!!」


 コンプレックスを刺激され真っ赤になった男は、ジンに向かってがむしゃらに殴りかかる。


 怒りのままに振われる拳は呆れるほど単調なもので、少年からすれば避けようと思えば簡単に避けられるものだ。


 だが少年はあえて避けることをせず、されるがまま何度も拳を受ける。


 一方的に殴られているにもかかわジンの顔は余裕そうだった。むしろ予想通りの展開になったことで笑みが溢れるのを我慢しなくてはならなかった。。


 男が息を切らし拳の威力がなくなってきたところで、その腕を掴み力を込める。


「イギっ! は、はなせ!!」


 放すわけがない。


「正当防衛!」

「へ?」


 そのまま小男の顔面目掛けて全力の拳を叩き込む。




「…………なんのつもりですか?」


 ヴェンデッタ率いるハンター崩れたちが根城としてるのは意外にも普通の酒場だった。


 彼らのことを知らないのか酒場には一般の客が普通におり、揉め事を起こすわけでもなく大人しく酒を飲んでいるヴェンデッタ達は随分と馴染んでいるようにも見えた。


 そんな普通の酒場でありながら無法者の溜まり場となっている場所にハンター見習いのジンは妖精のアリアと依頼主のウィルを伴い、真正面から乗り込んでいた。


 手土産に、縄で縛った彼らのお仲間を連れて。


「ヴェ、ヴェンデッタさん…………助けて」

「一体どういうつもりです? 彼はなぜ縛られているのですか?」


 さしもの毒蛇も拘束されている上明らかに顔が殴られ腫れ上がった自分の部下を見て戸惑っているように見えた。


 彼の取り巻き達も事態は飲み込めていないようではあるが、ただならぬ気配を感じたのか腰を浮かせ少年たちを睨みつける。


 少年の後ろの妖精と青年はその剣呑な空気に押され怖気付いている。しかしハンター見習いの少年は殺気にも近いそれをサラリを受け流す。


「どーもこーもねえよ、毒蛇さんよお。おたくは自分の部下にどういう教育施してるんだ? こいつは衆人環視の中いきなり殴りかかってきたんだぜ?」

「……なんですって?」

「仕方ないから反撃して取り押さえたってわけだ」


 あー痛かった。などとのたまう少年の顔は余裕そうだった。


「全くどうしてくれるんだ? 怪我でもして仕事に支障をきたしたら責任とれんのか?」


 完全にチンピラの言い分だった。怪我らしい怪我などしていないし、そもそも最初に挑発して喧嘩をふっかけたのは少年の方だった。なんなら縛られている小男の方が重症そうだ。


 だが分は少年側にあった。人々は少年が先に殴られていることを目撃している。


 そして何より少年は見習いとは言えハンターだ。ハンターという肩書きの信用度に加え、3ヶ月もの間街の人々の依頼をこなしてきた少年と、ある日いきなり街に現れた怪しげな連中を比べた時人々はどちらの言い分を信頼するかは火を見るよりも明らかだ。


「全くアンタらは碌でもねえな、街の外で仕事してる俺らの邪魔してきやがるしよぉ」

「…………別に邪魔をしているつもりはありませんが? たまたまこちらの仕事先とあなた方の仕事先が一緒になっただけでしょう」

「それが迷惑だつってんだよ。うちのウィルは繊細なんだ、アンタらみたいな柄の悪いのが近くにいると集中できないだよ。おーヨシヨシ可哀想なウィリアム、怖かったよなあ」

「…………ジンさん、頭撫でるのやめてもらえますか?」


 青年にやや邪険にされながらも、ジンは毒蛇の男から目を離さない。


「それで、私にどうしろと?」

「これ以上俺たちの邪魔をされたらたまったもんじゃないからな、俺たちが街の外に出ている間は街から出ない、そういう契約を交わしてもらいたい。これに署名してな」


 少年が懐から取り出した紙を見てヴェンデッタの眼の鋭さがます。


「それは……!」

「王国印付きの契約書だ、高かったぜ?」


 おそらくこの国で最も強い契約効果のある書状だ、一度結んだ契約を違えようものなら国に背くことと同義になるような代物。


 例え無法者でも簡単には無視できない。


「…………もし契約しないと言ったら?」

「この男を衛兵に突き出すさ、天下の往来で暴れ出すような男がつるんでいる連中にも事情を聞きに行くかもしれねえな」


 刃物のように鋭い視線を真正面から受ける。


 酒場にいる人々はジンとヴェンデッタを中心に空気が一気に冷え込んだように感じた。


「…………」

「…………」


 鉛のように重く冷たい空気の中、お互い無言。


 今にも自身の得物に手をかけ斬り合いになりそうな2人の男を、周囲は固唾を飲んで見守る。


 そして、折れたのは毒蛇だった。


「…………いいでしょう、契約します」

「そうこなくっちゃな」

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