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妨害工作

「寝込みを襲われた!?」


 毒蛇のヴェンデッタとその取り巻きであるハンター崩れとの遭遇から一夜明けてのいきなりの出来事であった。


「お、大袈裟ですよ。借りてた宿の部屋に石を投げ込まれただけですから」

「投げ込まれただけって、それも結構な事件じゃねえか!」


 あまりに呑気な物言いに当事者でない少年の方が語気を強める。


「それで、怪我は?」

「おかげさまで無傷です。ただその……宿から追い出されてしまって」


 冷たいようだが当然の対応だろう、宿側からすれば石を投げ込まれるような訳ありの客を泊らせるメリットなどない。


「それに、そのことが()()()()()()()()()()()()()()()、僕を受け入れてくれる宿がないんです」

「っ! あいつらの仕業だな」


 思わず歯噛みする。まさかこんなにも早く、しかも街中で仕掛けてくるとは。


 甘かった、人間の悪意というものを舐めていた。


「ジーン! ウィル! 受付のおっちゃんがギルドの宿舎を使っていいて!」

「よし、よくやったアリア」


 受付から飛んできたアリアに賞賛の言葉を送る。


「ひとまずそこに泊まれ、それとしばらく1人にはなるな」


 ギルドの職員も利用する宿舎だ、いくらなんでもギルドに直接喧嘩売るような真似はしないだろう。


「ねえジン、これで終わりじゃないよね?」

「…………ああ」


 妖精の言う通り、これで終わりではないだろう。


 なんとかしなければ、しかしそんなことを考える間もなく悪意は次々と牙を剥いてくる。



「…………」

「…………」

「…………」


 それから数日、魔術の検証実験は全く上手く行っていなかった。


 原因は分かりきっている、あのハンター崩れどもの妨害だ。


 検証のために街の外に出れば奴らが待ち構えている。そしてニヤニヤと笑いながら少年たちの後を堂々とつけてくる。


 少年たちが魔物を狩る様子を集団でじっと見つめ、時に魔術の発動中に狙いの魔物を先に討伐してきた。


 当然抗議をした、だが横取りは魔物を狩る者にとって唾棄すべき重大なマナー違反だが、ルール違反ではない。


 お前たちが危なそうだったから助けてやったんだ。


 そう言われてしまっては何も言い返せなくなる。


 彼らを無視して魔物の相手をしようとしたが、そうするとこちら目掛けて魔法が飛んできた。


 奴らの巧妙なところはその魔法が当たっても大した怪我をしないであろうほど威力が低く、簡単に避けられる点だった。


 簡単に避けられるし当たってもダメージはほぼない、だが決して無視できないギリギリのラインをせめてくる魔法。


 そしてその言い訳もまた絶妙。

 

 魔法を撃ったら射線にお前らが飛び出してきた。


 クソみたいな言い訳だが、少年たち以外証言者がいない状況ではまかり通ってしまうのが現状だった。


 結局魔術の検証は思うように進まず、張り詰めていた緊張感により疲労だけが色濃く残る結果となった。


 魔術師の青年は椅子にもたれかかり、少年は机に突っ伏している。妖精の羽も心なしか輝きが落ちているように見える。


「…………どうしましょうか?」

「……ねえジン、これってどこかに訴えられないの? ギルドとか街の衛兵とかにさ」

「……無理だ、あいつらのやっていることは限りなく黒に近いグレーだが犯罪じゃないんだ。法律じゃ取り締まれねえ」


 顔を上げることなく答える。この辺りはギルド側に確認済みだ、現状では自力でなんとかするしかない。


「…………何がしてえんだあいつら? 実験の妨害にしては回りくどすぎる」

「……今のところ大成功だけどね」

「そうだが、もしあいつが受けた依頼が実験を失敗に追い込むことなら手っ取り早くウィルを殺しちまえばいい」

「こ、怖いこと言わないでくださいよ」

「毒蛇は対人戦のプロだ。その気になれば証拠も残さずあっという間にウィルを暗殺できるだろうよ」


 それをしないということはウィルを殺さないよう条件を出されているか、それとも別の理由があるのか。


「ウィル、実験辞めますって言えばあいつらも引いてくれるかもしれないぞ?」


 疲労のあまりやぶれかぶれな提案を半ば本気でするが、青年はすぐさま首を振る。


「ダメです、僕はこの研究に全てを賭けているんです」


 その眼は強い意志が宿っていた。


「…………わかんねえな、お前下手すりゃ命狙われてんだぞ? 今は嫌がらせ程度で済んでるが今後はどうなるか」


 全てを賭けている。


 その全てとは、自身の命も含まれているのだろうか?


「誰でも使える究極の魔術か……前にお前言ってたよな? 自分の考えは異端だって、俺も流石に魔術は選ばれし者だけが扱える、なんて過激な考え方にはなれねえが、魔術は魔術師の宝ってところはちょっと納得してるんだ。なんで誰でも使えることに拘るんだ?」

「それは……」

「いいじゃねえか自分だけが使える究極の魔術で。お前の魔術だ、誰も文句言わない」


 最初からずっと疑問に思っていたことだった。


 この数日で青年の魔術師としての腕前はかなりのものだと感じている、彼ならば大抵の魔術など造作もなく扱えるだろう。


 そんな彼がなぜ誰でも扱える魔術にこだわり続けるのだろうか?


「…………わかりました、なぜ僕が魔術師を志したのかお話しします」

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