表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/63

大宴会

「ほらほら! ジン! お前も飲め!」

「いや……俺酒飲めないです」

「ああん? 俺の酒が飲めないってか!?」


 めんどくせえ……そう思うが流石に口にはできない。


 村人総出のこの宴会は、初めて獲物を仕留めたこの少年のために開かれたものなのだから。


「しっかしあの大猪を仕留めるとは…………お前さんも狩人として一人前だな!」


 赤ら顔の中年に背中をバンバンと叩かれる。畑仕事で鍛えられている腕からの一撃はかなり痛いが、こう褒められると悪い気はしない。


「おいおい、そうやって調子に乗らせるな。そいつは私が追い詰めて御膳立てしてやった獲物を、村のガキでも外さないような距離で外したんだぞ?」


 少しいい気分になっていたところを師匠に邪魔される。


「そう言わないでくださいよ、最後はちゃんと仕留めたでしょう?」

「ああ、大猪の牙に突き殺される直前だったがな」


 そう言って師匠はクツクツと笑う。酒が入っているせいかいつもよりおしゃべりだ。


 このやりとりを見ていた別の席からヤジが飛ぶ。


「おいジン! また前の時みたいに解体でゲーゲー吐いてないだろうな?」

「ああ! あん時はユノさんがせっかく仕留めた獲物に引っ掛けてぶん殴られたんだっけか?」


 …………全くどいつもこいつも、余計なことばかり覚えていやがる。


「安心しろ、今日“は“吐いていない」


 師匠のわざわざ“は“を強調した言葉に笑い声が起こる。


「ホラ野郎ども! 追加を持って来たよ!」


 響き渡るような大声。


 村長の娘さんであり、イオナの母であるイベルタさんが村の女性陣たちと共にが大皿いっぱいの料理を持って来た。


「この肉はジンのおかげで食べられるんだ! お前たち感謝しな!」


 まだ年若いにもかかわらず村人たちから尊敬と畏怖の念を向けられている肝っ玉かあさんが手を叩くと、所々からジンありがとよ! と言う声が上がる。


「お兄ちゃん!」


 元気で可愛らしい声と共にイオナが隣の席にやってくる。


「はいこれプレゼント!」


 差し出されるナニかが乗った皿。


「……なにこれ?」

「串焼き!」

「…………。」


 どう控えめに表現しても串に刺さった炭だ。


「お兄ちゃんのためにイオナが作ったの!」

「…………。」


 キラキラと何かを期待した目でそう言われては食べないわけにはいかない。


 ボリっゴリっと、およそ食べ物を噛んだとは思えないような音がする。


「おいしい?」

「…………うん」


 かなり頑張ったと思う。


「ああそうだ、私からもお前に渡すものがある」


 バレないようにグラスの飲み物で口直しをしていると、思い出したかのように師匠から声をかけられる。


「ほら、お前が仕留めた大猪の魔石だ」


 渡された魔石は小さいが、鮮やかな紫色をしている。


「お前が初めて仕留めた獲物だからな、記念に取っておけ」

「師匠……」

「お前はまだまだ危なっかしいし、弓の腕は最悪だ。だがこれは間違いなくお前自身の手で勝ち取ったものだ。誇れよ」

「……はい!」


 この村で世話になって3ヶ月。


 身元もわからない怪しい男を受け入れてくれる村の人達にはとても感謝している。


 こうやってこの温かい人達の役に立てることが嬉しくて仕方がない。


「……俺はまだまだ半人前です。だけど師匠が結婚相手を見つけるよりも早く一人前になってみせますよ」

「……ほお、言ってくれるじゃないか」

 

 照れ臭さのあまりおどけたジンを笑顔で睨みつける。その様子に村人たちは笑い声を上げる。


「ははははっ! ならジン! 俺の酒を飲まないと一人前になれないぞ!」


 どういう理屈だこのおっさん。ジンは押しつけられたグラスを迷惑そうに突き返す。


 すると、ジンの隣でジュースを飲んでいたイオナが立ち上がる。


「大丈夫だよ! お兄ちゃんがイチニンマエにならなくても、イオナが養ってあげるもん!!」


 一瞬場がシンっと静まり返る。だが次の瞬間には村全体に響き渡るような大爆笑が巻き起こった。


「あははははっ! そいつはイイや! ジンしっかり養ってもらえ!」

「やるなジン! こんなべっぴんさん引っ掛けやがって! この色男が!」

「くくく、村長の孫娘を誑し込むとは、末恐ろしい奴だなお前は!」


 好き勝手言う人たちに羞恥心で顔が真っ赤になる。


 恥ずかしさをごまかすためにグラスの中を思いっきり煽る。


「おい、それ俺の酒」


 その後のことは記憶にない。ただ馬鹿みたいに騒いで、とんでもなく楽しかったことだけ覚えている。




 あー楽しかった! 私誰かとこんなに思いっきり遊ぶの初めて!


 ……うん、事情があって世界中旅しててさ、同じ場所にあんまり長いこといられないの。


 だからこうやって誰かと仲良くなって遊ぶなんてしたことなかった。


 ありがとう、私と仲良くしてくれて。おかげでいい思い出ができました!


 …………ねえ、約束してくれる? 私のーー




「…………。」


 目を覚ます。


 気がつけば自室のベットの上だった。


 二日酔いでズキズキと頭が痛む。飲めもしない酒を飲んだせいで記憶があやふやだ。


 どうやってここまで戻って来たのかもわからない。


 ……何か夢を見ていた気がする。何か、とても大切なーー


「…………約束ってなんだっけ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ