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毒蛇の男

 シスコ・ヴェンデッタ。


 盗賊や懸賞金付きの犯罪者などの()()()()()()を得意としていた元ハンターだ。


 ハンターとしての腕前は優秀極まりなく、驚くほど高い追跡能力と洞察力を持った男だ。


 そして戦闘においては巧みなナイフ捌きとその刃先に仕込まれた麻痺毒、時に人を殺傷するための劇毒を用いて対人戦においても無類の強さを誇っていた。


 頭皮に刻み込まれた蛇のタトゥーと合わせてつけられた二つ名は“毒蛇“。


 毒蛇ヴェンデッタ。


 その名を聞いただけで国の悪党どもは震え上がったらしい。


 しかし、ハンターとしての活動の中で数々の犯罪者を捕縛し、大規模な犯罪組織を壊滅させたこともある彼の名声はある疑惑と共に地に落ちることとなる。


 彼自身が犯罪組織と繋がりがあるのではないかという疑惑だ。


 その噂がどこから流れたものかは定かではない。彼をやっかんだ者たちが流した根も葉もない噂の可能性が高い。しかし彼は優秀すぎた、その優秀さの裏には彼自身が築いた犯罪者たちのネットワークの存在があるのではないか、そんな噂がまことしやかに囁かれた。


 彼の犯罪者に対してどこまでも容赦のない姿勢もその噂の信憑性を高めていた。


 捕まえた犯罪者に対する容赦のない取り調べ、尋問の際には平気で毒薬を使用するその姿は、彼が間接的もしくは直接的に救ったであろう人々すら嫌悪感と恐怖を抱いた。


 当然その疑惑が事実であるという証拠は見つからなかった。しかしそのことがかえって彼を狡猾で危険な男だと印象付けさせた。


 そしてとうとうギルドが動いた。これ以上の噂の流布はギルドの信用問題に関わる。


 ヴェンデッタに対する査問会議が開かれた。だがこれは彼の潔白をギルドが証明するための形式的なものに過ぎず、ようはギルドが調べましたが彼は無実ですよとアピールするためのものであった。


 2、3の簡単な質疑で終わるはずだった。


 しかしヴェンデッタはその査問会に出席せず、ギルドから姿を消した。


 彼がなぜそのような行動をとったのか。本当に何かやましいことがあったのか、ありもしない噂に振り回されるギルドに失望したのか。


 結果としてヴェンデッタはギルドから除名され、真相はわからないままとなった。




「ーーってのが、森の中であったあいつの情報だ」


 ギルドに併設された酒場、そこでハンター見習いのジンは妖精のアリアと魔術師のウィルの前で頭を抱えていた。


「毒蛇ヴェンデッタですか…………」

「対人戦のエキスパートで頭も切れる男だ」


 思っていた以上に厄介な相手だった。


「ハンター崩れどもをまとめ上げて、つい最近になってこの街に現れんたんだと」


 突如街にやってきたヴェンデッタにギルド側も警戒していたらしく、少年が情報を求めるとすでに資料がまとめられていた。


「その毒蛇の人がなんでこの街に?」

「さあな、だがーー」


 魔術師の青年を見据える。


「ウィル、十中八九お前さんと関わりがあるだろうよ」


 青年は俯き、目を合わせようとしなかった。


「最初から疑問に思ってた、なんでお前はわざわざ王都から離れたこの街まで来た? 王都のハンターに依頼して王都周辺で魔術を試せばいいじゃないか」

「…………。」

「それができない事情があるんだな? ウィル、一体お前は何を隠している」


 少年の言葉は少し強く、魔術師の青年を責めるものになっていた。


 ハンターとして依頼内容に直接関わる事情を隠されていたことが許せなかった。


 そしてそれ以上にここ数日一緒に過ごして究極の魔術を探究し、自身の記憶喪失の件まで話したというのに信頼されていなかったことが妙に悲しかった。


「彼らの目的はわかりません。ですが心当たりはあります、僕の研究です」

「……まあ、だとは思ったよ」

「彼らがもし誰かの依頼を受けているのだとしたら、その依頼相手にも心当たりがあります」

「誰だ?」

「魔術学院の学者の誰かでしょう」

「は?」


 ことも何気に言う青年の様子に目を丸くする。


「そ、それってウィルの同僚でしょ? なんで!?」

「別に同じ学者だからといって仲良しこよしというわけではありませんよ。いえ、むしろ同じ学者だからこそ敵同士になり得るのです」


 まるで自身の汚いところを見られたかのように、青年は気まずそうだった。


「学者なんてそんな高尚な存在じゃありません、常にお互いの腹の内を探り合い、足を引っ張り、隙を見せようものなら研究内容を横からかっさろうと考える連中ばかりなんですよ」

「マジかよ……おっかねえな」

「特に僕は敵が多い、魔術師にとって自身の魔術は宝そのものです。中には魔術は特別に選ばれた存在のみが扱うべきだと考えるような人もいます。そんな中で誰にでも扱える魔術を研究している僕は異端中の異端」


 そう言って自嘲するかのように笑う。


 笑ってこそいるが、その目は深く澱んでいるように見えた。自分には敵が多い、そう言った彼は魔術学院でどう過ごしていたのだろうか。


「ね、ねえ。これからどうするの?」


 空気を察したアリアが話題を変えようとする。


「正直に言ってどうしようもない、奴らはまだ何もしてないからな」

「でも、魔法を撃ってきたじゃん!」

「あいつが言ってただろ魔物と間違えたって、そう主張されたら手も足も出ねえよ。今は気をつけながら静観するしかない」


 だが、そんな悠長なことを言っていられるほど甘くなかったことをすぐさま思い知らされることとなる。

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