ハンターではない者たち
「なんだテメエら?」
ジンたちを取り囲むように出てきた男たちは総勢10名ほど。全員が武装しており明らかに堅気じゃない空気を醸し出している。
「さっきの魔法、どういうつもりだ?」
依頼者であるウィルを背中に庇いながら剣に手をかける。
あの魔法は明らかにウィルを狙ったものだった。ジンが突き飛ばさなければ直撃していただろう。
男たちは武器を構えることなく無言だった。だが油断できない、ニヤニヤと下品た視線を向けられる。
そんな中、1人の男が前へ歩み出る。
スキンヘッドの男、その頭皮にはうねる蛇が彫り込まれていた。
男は細身だった、だが弱そうな印象は一切受けない。抜き身の刃物のような鋭さを感じさせる。
男は一歩、また一歩と近づき口を開いた。
「怪我はありませんでしたか?」
「…………は?」
予想外の言葉に面食らう。
「いやはや申し訳ない、我々は魔物を狩りにこの森に入ったのですが、土地勘がない森に焦ってしまったようです」
「……つまり何か、俺たちを魔物と間違えた。そう言いたいのか?」
「ええ、よくある事でしょう?」
「…………ああ」
こういった視界の悪い場所で人間を魔物と見間違えて攻撃してしまったという事故はよくある話だ。
そして、それを言い訳に人間を襲う碌でもない連中の話もよく聞く。
「魔物を狩りに来たと言ったな、あんたらがハンターには見えねえんだが」
「ハンターでなくとも魔物を狩ることもありますよ。魔石はいい稼ぎになりますから」
男の言葉遣いは思いのほか丁寧だった、見た目に反して物腰も低い。
だからといって警戒心を解くことはできなかった。先ほどの魔法からは明確な悪意を感じた。
そして目の前の男の眼には見覚えがあった。油断なくこちらを見定め値踏みするかのような視線。
獲物を見据える捕食者の眼だった。
「怪我がなくてよかった、ではこれで失礼します」
「……ああ」
「またお会いしましょう、妖精連れのジン」
そういって男たちは去っていった。
「……本当に魔物と間違えただけなのかな?」
「…………なわけねえだろ」
男の眼が脳裏から離れない。
知らず知らずの内に握りしめていた拳の中は、汗でびっしょりだった。
「妙なのに目ぇ付けられちまったな」
今日あったことをギルドに報告すると、受付のおっさんはタバコの煙を吐き出しながらため息をついた。
「あいつら何もんです?」
「ここ最近街にやってきたハンター崩れどもだ」
「ハンター崩れ?」
聞いたことのない単語に眉を顰める。あまりいい意味ではなさそうだ。
「その名の通りだ、ハンターを辞めたやつ、ハンターになることを諦めたやつ、そういった連中のことだ」
「正式なハンターじゃない?」
「そうだ、そのくせやっていることはハンターの真似事だ。依頼を受けて報酬を得る」
「待ってください、同じことならハンターになればいいじゃないですか。なんでハンターを諦めちまうんですか?」
ハンター崩れなんて怪しげな物にならず、正式なハンターになればいい。そう思っての発言だったが深々とため息を吐かれた。
「……ジン、お前は自覚してないようだからはっきり言っておくが、ハンターってのはそう簡単になれるもんじゃない」
「そりゃわかってますが」
「いいや、わかってない。ハンターに求められる実力のハードルはお前が思っているよりもずっと高いんだ。高い技量と才能、そして不屈の精神力、全て揃って初めてハンターとして認められるんだ」
それは当然のことであった。
ハンターの仕事の本質は魔物狩り、危険な魔物を日常的に相手するハンターが生半可な実力を持っているわけがない。
「あまり調子づかせたくないから言わなかったがな、お前さんの才能は別格だ。あのレイノルズの推薦があったとはいえわずか3ヶ月で昇級試験を受けられるようになるなんて異例もいいところだ」
「ど、どうも……」
予想外のタイミングで褒められてしまいたじろぐ。
「わかるな? ずっとハンター見習いのままで燻ってる連中はごまんといるんだ。その中で特にねじくれちまった奴がハンター崩れなんてもんになるんだ」
「……じゃあハンターを辞めた奴ってのは? 一度ハンターになって辞める奴なんているんですか?」
ハンターは基本的に高給取りだ、社会的信用もある。だからこそハンターを辞める人間の気持ちがわからなかった。
「いいか、ハンターには高い実力とともに人格も求められる、なにせハンターが得られる特権は絶大だ。禁止区域の立入許可、禁書指定の魔導書の閲覧、緊急時になれば国境越えが顔パスなんてこともある。悪用しようと思えばえらいことができるんだ、実力があっても素行と性格に問題があればハンターを辞めさせれることもある」
「…………わかんねえ、なんでそんな奴らの集まりであるハンター崩れなんてのに依頼を出す人間がいるんですか?」
「そんなの決まってんだろ」
たっぷりと紫煙を吐き出し、告げる。
「その依頼が人には言えない後ろめたいものだからだ」
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