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基礎強化と妖精の魔法

 ふう、買った買った買っちゃった!


 いやーやっぱダメだねこういうとこ来ちゃうと。あれもこれも魅力的なんだもん。


 …………ごめんて、私ばっかり楽しんじゃって。そうすねた顔しないでよ。


 ほら、あそこでジュース奢ってあげるから、ね?


 うんうん素直でよろしい。行こ、あそこのベンチにでも座ろっか。


 よいしょ……え? 持ってくれるの? 


 あ、ありがとう、でも重いよ? 持てる?


 お? おーー!


 ふふふ、さっすが男の子!!





「ふんっ!!」


 町外れの森の中、少年はそこで剣を構えていた。 


 大剣を握る両手に力を込める。ずっしりとした重さを感じる。今までこの重さに散々振り回されてきた。


「ジンさん、いいですか? 基礎強化魔法の基本は魔力の循環です。自身の体を流れる魔力を感じてください、そしてその魔力を強化したい部位に流して回転させるイメージです」


 目を閉じ感覚を研ぎ澄ませる。外ではなく、中の感覚。


 今まで全く意識していなかった、存在すら知らなかった。だが呼吸とともに、体の中を流れる血潮とはまた別の暖かさを感じることができた。


 イメージする。


 その暖かな感覚を自身の腕に移動させ、グルグルと回す。


 するとーー


「お、おお!! 軽い、軽いぞ!!」


 あんなに重かった剣が嘘みたいに軽い、今なら片手で振り回せそうだ。


「すげー! マジかよ、なんだこれ!?」


 語彙力が無くなるほど興奮する。


 少年にとっては劇的な変化だった、魔力を持たず魔法なんて使えないと思い込んでいた彼にとっては世界が丸々ひっくり返ったかのような衝撃。


「さすがですね、今まで無意識に使っていたとはいえまさか一発でコツを掴むとは」


 感嘆する青年の声も、少年には嬉しかった。


「基礎魔法強化は魔力を回す速度が早ければ早いほど、循環する魔力が精密であればあるほどその効力は高くなります」

「ん? 速度はわかるが、精密って?」

「体に流れる魔力、それは血の流れと似ています。その流れを意識して速くするのが基礎強化です。その速く流れる魔力をどこまで体に巡らせることができるかが精密な操作、と言うわけです。ジンさん、今流している魔力はどれくらいの精度かわかりますか?」

「そうだな、なんとなくだが……肩から手のひらまでってとこだな」

「基礎強化魔法に長けた人たちは、腕だけではなく全身余すことなく基礎強化をかけられるそうです。それも指先に至るまで精密に」

「ま、まじで?」


 今腕にかけている基礎強化、それだけでもかなりの集中力を持ってかれている。


 それを全身にかけようとするとどうにもつっかえるような、何か抵抗されるような感覚がありうまくいかない。


 指先まで精密にかけようとするともう意味がわからなくなる。抵抗とか以前に流し方の感覚が掴めない。


「基礎強化魔法に大切なのは速さと精度、ですがこの二つの両立はとても難しい。これはわかりますか?」

「ああ。魔力を速く流そうとするとコントロールが難しくなる。逆に精密さを求めると慎重になりすぎてスピードが出ない」


 だからこそ、今腕の強化と同じだけのものを全身にかけるのは難しい。


「実際にやってみてわかったが、今までの俺は無意識に全身に基礎強化をかけていたんだと思う。ただそれができたのは流す速度がそこまで速くなかったからだ」


 多分それは基礎強化魔法と呼ぶにはおこがましいレベルのものだったのだろう。


「ひとまずは全身への基礎強化を目標にするのがいいでしょう」

「どうすればいい?」

「こればっかりは慣れるしかありませんね」

「ま、そらそうだわな」


 スピードとコントロールを両立させるバランスを見極めなければならない。もちろん、そのどちらも極限まで高められたらベストなのだが。


「しばらくは腕の基礎強化から上半身の基礎強化まで広げられるようにしていく。これだけでもかなり変わるはずだ」


 剣を握る手に自然と力が入る。


 まだまだ強くなれる、そう思うと気合が入った。


「ねーねー、これでジンのパワーアップ計画は完了?」

「パワーアップ計画って…………まあ方向性は決まったけどよ」

「ふっふっふ、じゃあ次は私の番だね」


 そう言って妖精は誇らしげに胸を張る。


「なんと、このそよ風のアリアもパワーアップしたのです!!」

「おーー、お?」


 妖精のパワーアップ?


「なんだ? お前も基礎強化使うつもりか?」

「違うよ! このか弱い私が肉弾戦なんてするわけないじゃん! 脳筋はジンの役目でしょ!」

「誰が脳筋だ」

「魔法だよ魔法! 新しい魔法を覚えたの!」

「魔法?」


 そういえばこの妖精が魔法を使うところを見たことがなかった。


 彼女の飛ぶ力も魔物を見つける能力も、妖精族固有の能力で魔法ではないらしい。


「いくよー、見ててー…………むっ!!」


 胸の前で両手をぐっと握り、気合を入れる。


 すると妖精の周りをうっすらと光り輝く膜のようなものが覆う。


「じいちゃんがよく使ってた防御魔法の一つだよ。これでどんな魔物の攻撃もへっちゃらだね!」

「ほーー」


 少し触ってみると硬質なガラスのような感触がする、なかなか頑丈そうだ。


 それを見ていたウィルは目を輝かせる。


「すごい! 妖精族の魔法をこの目で見られるなんて!」

「へへー、すごいでしょ? もっと広げられるよ」


 むっ、と再度気合を入れ直すと妖精を覆っていた膜が広がり、人間1人を包み込めるほどの大きさとなった。


「これは……! アリアさん、ちょっとこの魔法の強度を試していいですか?」

「いいよー! けっこー頑丈だからね、多少の攻撃じゃびくともしないよ?」

「よし、では。“火よ、10の矢となれ“」


 青年がアリアの防御魔法目掛けて(当然妖精にあたらないように気をつけて)魔術を放つ。


 火の矢は勢いよく飛んでいくが光り輝く膜に当たると、ポンっという軽い音とともに消え去った。


「すごい……それなりの威力で放ったのに揺るぎもしないだなんて……妖精の魔法は侮れませんね」


 ここ数日で彼の魔術の威力は身に染みてわかっている。それを完全に防ぎ切るとは。


 こうなると少年もその防御力を試したくなる。


「なあ、俺もやっていいか?」

「いいよ、ジンのへなちょこな攻撃なんて簡単に防いじゃうんだから」

「よし、言ったな」


 基礎強化で上がった腕力を試すにはもってこいだ。


 少年は肩をぐりぐり回し、右腕に魔力を集中させる。


「……ぐるぐる回すイメージ……ぐるぐる回すイメージ」


 スピードをどんどん上げる、まだ慣れていないが右腕だけに意識を集中させることで一点特化の強化をかける。


 そして少年はその強化された右手で…………防御魔法を思いっきり殴りつけた。


「…………いったぁ」


 拳が砕けるかと思った。


「…………当たり前じゃん、馬鹿なの?」

「……なんで剣を使わなかったんですか?」


 ものすごい呆れた二つの視線。


「いや……今の俺ならいける気がして」


 基礎強化が使えるようになって浮かれすぎていた。初めて魔法が使えたことによる全能感が痛みによってスーッと冷めていく。


「よし、じゃあそろそろ仕事に取り掛かろうか」


 冷静になったぶん、自分の行動がいかに馬鹿げたものであるかを理解し恥ずかしくなってきた。


 羞恥心を誤魔化す少年をアリアとウィルはジト目で見つめていたが、ツッコんであげないことにした。


「わかりました、今日はですねーー」



 直後、少年の首筋をチリチリとした感覚が襲う。


 今まで幾度か感じたことのある、死の気配。


「危ねえ!!」


 ほぼ反射的に青年を突き飛ばし、そのまま地面に倒れ込む。


 するとその頭上を巨大な火球が通り過ぎていった。


「え、え?」

「立て! 敵だ!」


 木々の間から、怪しげな男たちがぬらりと現れた。

 



 

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