5日目、途中経過報告
「殺す気か!!」
ギルドの酒場で少年の悲鳴のような叫び声が轟く。
依頼を受けて5日目、ジンは本気で命の危機を感じ始めていた。
「お前なんだ今日の魔術!! 魔物と一緒に俺まで爆発に巻き込まれかけたぞ!?」
「いやー属性や形状といったものをあえて設定せず、魔力そのものを攻撃に転用するシンプルな魔術だったんですけどね、いやはや攻撃範囲と威力の設定をしなかったのは流石に不味かったですね」
「魔術のことよくわかんないけどさあ! それって一番最初に考慮すべきとこなんじゃねえの!?」
自身がハンターとして認められるかどうかという依頼だ、そう簡単なものではないと覚悟していた。
だがコレはない、魔物ではなく依頼者に恐怖を感じる日が来るとは思いもしなかった。
「お前まさかあれじゃねえよな? 依頼にかこつけて俺を殺しに来た刺客とかじゃねえよな?」
「いえいえ、そんなまさか」
荒唐無稽な話だと自覚しているが、ここ数日のことを思い返すとその可能性が捨てきれなくなってきた。
しかし少年の主張をケーキのクリームで口の周りをベタベタに汚した妖精が否定する。
「まーまー落ち着いてよジン、山の中の田舎から出てきたばかりのハンター見習いの命なんて、いったい誰が欲しいのさ?」
「……オメーの言う通りだけどよ、オメーのその言い方は腹たつな」
ため息を吐く。
流石にちょと感情的になりすぎた、プロのハンターを目指す身としてこれはいけない。
「……で、実際のところ今の進捗はどうなんだ? 究極の魔術の完成に繋がりそうな魔術はわかったのか?」
この5日間で様々な魔術を試してきた。
青年の目指す究極の魔術がどんな使い道を想定しているかは知らないが、これまでの傾向をみるに魔物との戦闘を意識したものだと思う。
少年からすれば毎度毎度巻き込まれて被害を受けているため印象が悪いが、その威力はどれも魔物に対して絶大な効力を発揮している。
そう考えると究極の魔術の完成はそう遠くないと思ったのだが、青年は首を横にふる。
「…………いえ、今まで使った魔術のどれもしっくりきません」
「なんでだ? 問題は山積みだが、威力だけならどれも申し分ないだろう?」
「ただ魔物を倒すという点だけを見ればそうです、しかしどの魔術も使いづらい。今まで使ったどの魔術も、僕というある程度魔術の扱いに慣れた魔術師が使って初めて効力を発揮するものばかりでした。…………これじゃあ足りない、僕の考える究極の魔術は魔術師でなくとも扱えなくちゃダメなんです」
「…………そうか」
正直、かなり厳しい道だと少年は思う。
自身の才能と素質で発動する魔法と違って、純粋な技量のみで発動する魔術はその敷居は低い。正しい手順を知っていれば誰でも扱える。
だがそれはあくまで一定レベルまでの話だ。魔物を一撃で葬り去るほどのレベルの魔術を発動させるにはかなり複雑な工程を必要とすることがこの数日で分かった。
高い技量を持つ魔術師でなければ発動できないような魔術を、誰でも発動できるようにすると言うのはどれほど困難なのか。
「誰でも扱える魔術か…………それは俺みたいに魔力を持たない人間でも扱えるのかね?」
ハンターとなってから3ヶ月…………いやそれ以前からも少年は様々な方法で魔法を使おうと試みてきた。
だがどうやっても魔法を使えなかった。どうやら自分はそもそも魔法を発動させるための魔力を持ち合わせていないらしい。
そう思っていたのだがーー
「何いってるんですか? この世界に魔力を持たない人間なんているわけないでしょう」
「…………へ?」
「第一、基礎強化魔法使ってるじゃないですか」
「基礎……強化魔法?」
聞き慣れない単語に呆然とする。いやそれ以前にこの青年は一体なんと言った?
「魔力がある? この俺に?」
「何言ってんのさジン、魔力があって基礎強化使わなきゃあんな馬鹿みたいに大きな剣振り回せるわけないじゃん」
妖精もさぞ当たり前のような口ぶりで少年を諭してくる。
「待てなんだ基礎強化魔法って!? そんなもん使ってた覚えはないぞ!」
「基礎強化魔法が何かって? それは…………ウィル説明お願い」
「え? あ、はい。基礎強化魔法とはその名の通り自身の身体能力を体内の魔力を循環させることで強化する魔法のことを言います。熟練者ともなると意識せずとも息をするように扱えるようになるみたいです」
「マジかよ、ってことはそれを俺は無意識に使っていたってことか?」
「…………魔物と戦う人間にとっては、基礎の基礎ですよ? それを知らなかったことの方が驚きです」
魔術師の青年は怪訝そうな目でジンを見つめる。
その目はまるで得体の知れないものを見るかのようだった。
「ジンさん…………あなた一体何者ですか? 基礎強化魔法のことを知らないのは百歩譲っても、自分に魔力がないなんて勘違いありえない。そんなの、自分の体には血液が流れていないと言っているのと一緒ですよ?」
息が詰まる。
咄嗟に言葉が出てこない。
なぜなら、自分が何者なのかと言う答えを、自分自身が持っていないのだから。
「……ジン、話してもいいんじゃない? ウィルなら力になってくれるかもよ」
妖精の優しい言葉に少年は我にかえる。
そうだ、その答えを探してハンターになったのだ。
「ウィル、実はーー」
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