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試行錯誤

 青年が指名したのは物理攻撃が効きづらい魔物。


「なるほど、スライムですか」


 それを聞いて少年が案内したのは森の中。


 多くの魔物が生息しておりそれなりに危険な場所ではあるが、豊かな自然の恵みを目的とした依頼を何度も受けたことのあるジンにとっては、通い慣れた馴染みの狩場であった。


「ああ、あいつらの体はほとんど液体でできてるからな。討伐するにはコアとなる魔石を壊すか抜き取るかしないといけないんでなかなか厄介なんだ」


 丸いゼリーのような見た目の魔物、一見すると無害そうで可愛らしさすら感じるが、生き物の顔に張り付いて窒息させてから内部に取り込んで溶解させるというなかなかエグい捕食方法を取る危険な魔物だ。


「そうですか、ではこれを使ってください」


 そう言って青年が取り出したのは金属製の棒。


 片手で取り回せるその棒の表面には何やら幾何学的な模様が彫られている。


「これは?」

「僕の作った魔導具です。これには術式と僕の魔力が込められていて、インパクトの瞬間に魔術が発動します。これであのスライムを倒してください」

「なるほどね」


 軽く振ってみるが、まあなんてことのないただの棒だ。使い勝手は棍棒と同じようなものだろう。


「……下手すりゃ俺の剣より使いやすいな」

「ジンっ!!」


 妖精の抗議の声は軽く流してスライムへと近づく。


 表情がないため分かりづらいが、突然現れた人間に警戒しているのかぷるぷると震えている。


「よっこら……せっ!」


 少年は足元のスライムに対して棒を振り下ろす、鋭く振るわれたそれをスライムは避けることすらできなかった。


 そしてスライムに触れた瞬間、魔術が発動した。


 発動した魔術は電撃、閃光のように光り輝くその魔術はーー



 スライムと一緒に少年を焼いた。



「ぎゃあああああ!!!」


 全身に鋭く走る電撃、あまりの痛みに情けない悲鳴を上げる。


「せ、成功です! ほら、想定通りの魔術が発動しました!!」

「成功じゃねえ!! 大失敗じゃねえか!!」

「で、でもスライムは倒せましたよ?」

「たかがスライム一匹倒すのにいちいちこんなダメージ負ってられるか!」


 そもそも使用者を傷つけるような魔術なんてものが誰にでも使える究極の魔術になり得るはずもない。


「……わかりました、では次にこの火の術式が込められたーー」

「嫌だよ! 俺まで火だるまになるのが目に見えてるわ!!」




 次に青年が指名したのはできる限りタフで頑丈な魔物。


 それを聞いた少年は迷うことなくトロルと答えた。


 トロルは亜人型で、少年の倍以上ある巨体を持つ大型の魔物。


 でっぷりと太った体に地面に届きそうなほど長い腕、厚い脂肪と硬い皮膚に全身を覆われており魔法も物理攻撃も効きづらいかなりの強敵だ。


 そんなトロルと少年はーー


「おっらあああ!!」

「ブモオオオオオ!!」


 真正面から切り結んでいた。


 トロルの恐ろしさはその怪力にある。


 現在トロルは手に地面から引き抜いた木を持っている、それを軽々と片手で振り回し少年を襲っていた。


「おいウィル! まだか!?」


 今回の青年のリクエストは長文詠唱魔術の検証、その魔術が完成するまでの時間稼ぎを少年は行っているのだ。


 もしこの魔物を倒すというだけなら容易い、トロルの怪力は脅威だがその知能の低さゆえに単調な攻撃しかしてこない。


 分厚い脂肪も硬い皮膚も魔剣の前では無いに等しい、攻撃の隙を縫って切り裂くだけの楽な相手だ。


「ジン! あと5分だって!!」

「5分!!??」


 だが足止めとなると話は別だ、いくら単調な攻撃とはいえまともに喰らえば一撃で命を持っていかれるような攻撃をいなし続けるのは至難の技だった。


「くそっ、こんなことならトロルなんて馬鹿正直に答えるんじゃなかった」


 そう愚痴るがもう遅い、少年にできることはトロルを殺すことなくひたすら真正面からやりあうことのみ。


「“ーー形作るは大蛇、蠢き、地を這い、飲み込む……引き裂く牙、もたがる鎌首、締め上げる尾、原初の恐怖ーー“」


 青年が紡ぐ言葉は発動する魔術のイメージを極限まで言語化したものだ。


 そうすることでイメージの余地を無くす試みなのだが、それをトロルの猛攻を凌ぎながら待ち続けるこっちとしてはたまったものではない。


 攻撃を交わし、いなし、凌ぎ続けること数分、あと一歩で魔術が完成するというところでそれは起きた。


「ぐっ! ヤッベ!!」


 トロルの一撃を剣でまともに受けてしまったのだ、耐え切れるはずもなく少年は地面を転がる。


 慌てて立ち上がろうと脚に力を込めたところでトロルの追撃が襲う。

 

 振り下ろされる木の一撃。


「こなくそっ!!」


 迎え撃とうとやぶれかぶれの状態で大剣を振り上げる。


 するとその一撃は巨木を斬り伏せ、そのままトロルを切り裂いた。


「あ、あれ?」


 予想外の結果に少年は戸惑う、あくまで木の一撃を受け止めようとした適当な攻撃だった。


「……会心の一撃? なんでこんな時に」


 この感覚は初めてではなかった、ハンターとして魔物を討伐するなかで何度か経験したことがある。


 通常の攻撃を遥かにうわまわる威力を誇る一撃、それを少年は会心の一撃と呼んでいた。


 だがその発動条件がわからない。狙って出せるものではない、むしろ狙っていない時にでる一撃だった。


 今までもただなんとなしに振った攻撃や、特に力を込めずに振るったものが会心の一撃となって少年を戸惑わせた。


 そしてその一撃を受けたトロルはうめき声一つ挙げずに絶命していた。


「す、すまん! ウィル倒しちまった!!」


 青年には絶対に倒さないように厳命されていた。想定外の事態になってしまったことを謝罪する。


「“ーー焼き尽くせ、不死火のウワバミ“……え?」


 すると、魔術が完成したのか青年の前に巨大な火でできた蛇が生み出される。


 そしてその蛇が地を張い、少年めがけて大きな口を開けた。


「に、逃げてください!!」

「…………へ?」


 青年の慌てたような声。


「その魔術は目の前の敵を焼き尽くすまで消えないように術式を組んだんです!! トロルという敵が倒された以上、標的はジンさんあなたになります!!」

「う、嘘だろおおお!」


 あわてて逃げる。その背中を大蛇が猛スピードで追う。


「おい! ウィルなんとかしろ!!」


 背中に感じる熱量から逃れようと全力で駆けながら声を張り上げる。


「……うーん、やっぱり長文詠唱は発動までの時間がかかるのがネックですね。それに細かいところまで命令を事前に組む関係上、融通が効かなすぎるというのは想定外でした。これじゃあ使いづらくて仕方がない」

「てっめええ! 冷静に分析している場合か!!」


 命がけの鬼ごっこは、日が暮れるまで続いた。

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