若き魔術師
「はじめまして、王都の魔術学院から来ました魔術師のウィリアム・マーロックです」
昇級試験の受験資格を得てから数日、ジンはギルドの応接室に案内された。
部屋の中には、魔術師を名乗る青年がいた。
「は、はあどうもウィリアムさん」
「ウィルとお呼びください。年もそんなに変わらないようですし、敬語は不要です」
「……わかった」
年の頃はジンの一つか二つ上といったところ。(最も少年は自身の年齢を覚えていないのだが)
ヒョロリとした体躯にボサボサ髪、少しずり落ちた眼鏡のせいで魔術師っぽさを感じられない。
どちらかといえば研究者といった印象が強い。
「ハンター見習いのジンだ」
「私、そよ風のアリア!」
少年に続き妖精も挨拶をする。
すると魔術師の青年は目を輝かせてアリアを見た。
「うわあ、本物の妖精だ! まさか実在したなんて…………妖精連れのジンの噂は本当だったんだ!」
「おい待て、なんだ妖精連れって……まさか二つ名か?」
「ええ、結構有名ですよ。王都にも噂が届くくらいには」
「お、王都にまで!?」
二つ名。
腕のあるハンターが尊敬と畏怖の念と共につけられる別称。
多くの場合、そのハンターの武器であったり戦い方と言った特徴がそのまま二つ名となる。
例えばレイノルズ。彼の槍の一薙で魔物の群れを根こそぎ刈り取る豪快な戦いぶりから、豪槍の二つ名で知られている。
ジンの場合その実力よりも、妖精という幻の存在を連れていることが決め手となったのだろう。
だが二つ名は二つ名、付けられた経緯がどうであれそれだけ名が売れているということだ。
しかし、
「もっと……かっこいいのが良かった……!」
少年にとっては名が売れる売れないなど些末な問題でしかなかった。
二つ名の厄介な点は、そのほとんどが他称であり、本人の望むような呼ばれ方をしない点だ。
それに加え一度付けられた二つ名はなかなか覆せない。
広まってしまったイメージを簡単には払拭できないのと同じである。
「ねえねえ! 私のは? 王都で私の二つ名は広まってないの?」
「え? ごめんなさい、聞いたことないです」
「そんな! それじゃあ私がジンのおまけみたいじゃん!」
「うるせえぞ、マスコット枠! お前のせいで無駄にファンシーな二つ名がついちまったじゃねえか!」
「マスコット枠! 今マスコット枠って言った!?」
「ああ、なんだよ妖精連れって……漆黒の魔剣使いのジンとか、一瞬の閃光のジンとか憧れてたのに……!」
「…………本気でいってる? 正気を疑うダサさなんだけど」
「テメエ喧嘩売ってんのか!!」
魔術師の青年そっちのけのやいのやいのの大騒ぎ。
落ち着くまでしばらくかかった。
「……すまん、取り乱した」
「い、いえ大丈夫です」
恥ずかしい限りだ、見習いとはいえこっちもプロなのだ。
ショックは大きいがそんなことにいつまでも引きずられる訳にはいかない。
「……でもなー、ああくそ妖精連れかああ……マジかあああ……」
「あの、本当に大丈夫ですか?」
少年は心から悔しそうだった。
「まあいい……いやよくはないけど……アンタが依頼者で間違いないな?」
「はい、そうです」
うなずく青年。
ハンターの仕事は普段ギルドから斡旋される、基本的には依頼の内容もその報酬もギルド側が依頼者と交渉して取り決めるのだ。
ギルドは依頼内容に合わせて、見合った能力を持つハンターに仕事を回す。これが基本的な流れとなる。
しかし中には依頼者が特定のハンターを指名するケースがある。
そう言った場合、ハンターは依頼者と直接交渉しなければならない。
そして指名依頼は高位のハンターになればなるほど、腕前が認められ名が売れるほど増えていく。
そのため、一流のハンターになるためには交渉能力と対人能力が必須となるのだ。
今回ジンに課せられた昇級試験の内容は、直接交渉によって依頼内容と報酬を取り決め達成するというものだ。
「で、どんな依頼なんだ?」
単刀直入に尋ねる、すると青年はこちらをじっと見据えて答えた。
「ジンさん、あなたには僕の研究を手伝っていただきたいのです」
本日もう1話投稿します。
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