素晴らしきハンターライフ
ハンターとしての仕事は多岐にわたる。
ジンがハンター(正確には見習いだが)になって3ヶ月、様々な仕事をこなしてきた。
迷子のペット探し、下水道のドブさらい、古い家屋の解体の手伝い。
ハンターは何でも屋、かつて師に説明された通りハンターの仕事はなんでもありだ。
だがこれらの仕事はハンターでなくとも可能だ。あくまでジンが駆り出された理由は人手不足によるところが大きい。
他に代わりなどなどいない、ハンターにしかこなすことが出来ない仕事。
この3ヶ月で最も多く受けたその依頼は、ある意味でハンターの本質に近い。
魔物狩りだ。
「おらああ!!」
気合と共に振るったその大剣でゴブリン数匹をまとめて切り裂く。
一匹一匹は大した力を持たないが、こいつらの厄介なところは群れをなすその習性にある。
繁殖力が高く狩っても狩っても湧いてくるこの魔物は、戦う力を持たない人々にとって……いや、戦い慣れているハンターからしても十分な脅威となりうる。
「キッシャアアアアア!!」
甲高い奇声を上げながら突進してくるゴブリンを前蹴りで吹き飛ばす。
倒れ込んだ個体の頭を思いっきり踏み潰す。
グシャリと水っぽい感触をブーツ越しに感じる。不快だが、眉を潜める暇もない。
「ジン! 次が来るよ!」
「ああ、わかってる」
これで終わりじゃない、こいつらはまだまだいる。
ジンは大剣を構え、目の前の敵を見据える。
一瞬でも油断したら死ぬ。
ハンターの仕事は常に危険と隣り合わせだ。
「これで……終わり!」
最後の一匹、残りが自分だけだと理解し逃げ出そうとした個体を背中から切り裂き、やっと一息つく。
こう言った群れをなす魔物を全滅させるときはスピードが勝負だ。
相手が戦意を喪失して逃げ出す前に全て仕留める。ハンターとして学んだことの一つだ。
あたりにはゴブリン死骸で埋め尽くされている。流れた血の臭いが鼻につくが、もう慣れっこになってしまった。
魔物狩りにも随分と慣れた。ハンターとしてこの3ヶ月で山ほどの魔物を葬ってきた。
「お疲れ、ジン」
「ああ、アリア。今日も助かった」
魔物を狩る上で役に立ったのは、意外にもこの小さな妖精の能力だった。
アリアには妖精特有の感覚なのか、なんとなくで魔物がいる場所とその強さがわかる力を持っていた。
その感覚を頼りにターゲットとなる魔物を素早く見つけ、効率的に狩りを行うことが出来ていた。
そして魔物を狩る上で欠かせないのが、少年の持つ魔剣ギアイーターだ。
心の力を喰らい機械仕掛けの獣ギアビーストに絶大な効力を発揮するこの魔剣は、通常の魔物相手でも猛威を奮っていた。
歯車を寄せ集めて固めたようなその大剣は頑強で、とてつもない切れ味を誇っていた。
その重量で振るわれる一撃は、当たりさえすればどんな魔物でも真っ二つにできる。
少年は自身の相棒である剣を見つめ、しみじみと呟く。
「…………やっぱ使いづれえな、この剣」
「なんてこと言うのさ!!」
少年のあんまりな物言いに、魔剣を代々守護してきた妖精族のアリアは抗議の声を上げる。
「いやだってよ、重いんだよこの剣。デカくて振り回しづらいし」
「命がけで手に入れておいてその言い方はないでしょ!? あの時の覚悟を思い出してよ!」
しかし、実際にこの大剣は使いづらいのだ。重さゆえにどうしても剣速が遅くなる上、重量のバランスを取るのが難しくどうやっても剣に振り回される感覚がついてまわる。
もしこの巨大な剣ではなく普通サイズの剣を使っていれば、今日のゴブリンがりももっとスムーズに進んだだろう。
「別の買うかな……街に戻ればもうちょい使いやすくて切れ味のいい剣売ってるだろ」
「だ、ダメだよ! それを捨てるなんてとんでもない!!」
「…………こいつ、いくらで売れっかな?」
「売るつもりなの!?」
割と真剣に売り飛ばすことを検討していると、妖精は全力で止めにかかる。
「その剣がなかったらあのギアビーストは倒せてなかったでしょ!? いわばこの剣はジンの恩人なんだよ!」
「まあ……そうだけどよ」
「それに普通の剣じゃ真似できない強みがあるじゃない! 剣を巨大化させて敵を押しつぶつあれ! マウントギアーーって!!」
「ああ、あれか」
魔剣の持つ不思議な力。
心の力を使い、どういう仕組みなのかこの剣は変形して巨大化するのだ。それこそ、山を両断できそうなほど。
「あれも使いづらいんだよな、心の力ってのを喰われると滅茶苦茶疲れるし、そもそも攻撃力はデカくしなくても十分あるんだよ。デカくて重いことが問題なのに、さらにデカく重くしてどうすんだよ」
「ぐ、グヌヌヌヌーー!」
悔しそうに歯軋りするアリア、意外と少年よりもこの剣に対する愛着があるようだ。
「どれもこれもジンの実力不足が原因でしょ! 腕力がないから振り回すのに苦労するんだし、心が弱いから簡単にへばっちゃうんだよ!! 自分が弱い理由を剣のせいにするなんてちゃんちゃらおかしいよ!!」
「……いやまあ、それを言われると返す言葉もないけど」
「もう怒った! この際ジンに対して言いたかったこと全部言わせてもらうからね!!」
結局ゴブリンの魔石を採取し、街のギルドに帰るまで延々と妖精の説教を聞かされる羽目になった。
「おう、お疲れジン……ってなんだ? 妙に疲れた顔して。ゴブリン相手がそんなにしんどかったか?」
「いえ……ゴブリンは楽勝だったんですけどね。あ、これゴブリンの魔石です」
「お、おう。そうか」
袋に入れた魔石を受付のおっさんに渡す。
受け取った袋から魔石を取り出し、その数を数えると、おっさんは満足げにうなずく。
「よし、規定数以上の魔石を確認した。よくやったジン、これで昇級試験の受験条件の達成だ」
「…………お?」