第2章プロローグ
「ジン! 右!!」
「わかってる!!」
響く妖精の声。
それに合わせてしゃがむ、すると頭の上で空気を切り裂く轟音が響く。
大剣を振り反撃するが、すでに敵はいなかった。
少年の攻撃範囲の外へ出た敵は、こちらを油断なく見据えている。
その敵は、ウサギ型の魔物だった。
薄茶色でフワフワの体毛に長く上を向いた耳、潰れたように見える鼻先は、少年の知識にあるウサギそのものだ。
だが他は全くイメージと違う。その大きさは人間の子供ほどある上二足歩行している。
可愛げのかけらもないその鋭い眼は、こちらをギラリと睨んでいる。
そして何よりも特徴的なのはその後ろ脚、毛皮越しに見てもハッキリとわかるギッチリ詰まった筋肉の塊。
その足から繰り出される蹴りは重く、下手に受け止めれば人体など簡単にへし折られそうだ。
健脚ウサギ。
そう名付けられたこの魔物は、その名前からは想像もできないような危険性を秘めている。
たった数度の打ち合いで、少年はそのことをハッキリと認識した。
「ジンやっちゃえ!!」
妖精の声援に背中を押され、少年はウサギへと駆ける。
「おっらあああ!!」
気合と共に振り下ろされたその一撃は地面をえぐるほどの威力を誇ったが、ウサギには軽々とかわされた。
そしてそのまま飛び上がったウサギは少年に攻撃を仕掛ける。狙うは少年の首。
慌てて体をそらすとウサギの蹴りは空を切る。その余波で生じた風圧の威力に冷や汗が流れる。
へし折られるなんて考えは甘かった、まともに食らったら人間の体なんて千切れ飛ぶ。
「うおおお!!」
恐怖を振り払おうと大声を上げ、大剣を横薙ぎするがそれをウサギはひらりとかわす。
続け様の剣閃もかすりもしなかった。
絶え間なく繰り出した剣撃は、全て軽いフットワークでかわされ続けた。
「すばしっこい!」
体の軸がずれるほどの全力の一撃を繰り出す。
自分の攻撃が当たらないことに苛立ち、動きが少し雑になってしまった。
ウサギはその隙を見逃さず、少年へと跳躍する。
腹部を狙った飛び蹴り、弾丸のような勢いで向かってきたそれを、少年は体をひねることでなんとか回避する。
地面に降り立ったウサギは再度少年へと突撃し、空中で回転しながら蹴りを繰り出す。
攻守が完全に入れ替わった、ウサギの連続攻撃が少年を襲う。
「う、うおっ!!」
一撃で命を刈り取るその脚から必死で逃げる。
幸いなのはウサギの攻撃が単調なことだ、一撃必殺の大振りばかりで少年でもかわし続けることができた。
だがこちらも攻めきれない。少年の大剣もこのウサギには当たらないことをわかっているから、反撃を繰り出せない。
どうする?
焦りが募る。このままでは……。
「ジン! 足使って足っ! フットワークが足りないよ!!」
「うるせえ!!!」
妖精が飛ばしたヤジのおかげか、はからずも幾分かの冷静さを取り戻すことができた。
このまま避け続けるのは無理がある。このでかい剣は当たる気配すらない。
ならば…………。
「ならばこの剣を防御に使う」
大剣を左の逆手に持ち替える。
少年とウサギを阻む壁、いや盾として大剣を利用したのだ。
単純な考えではあったが、この場においては効果的だった。
大剣の面積は大きく攻撃を受け止めるには十分、さらに振り回すのではなくウサギの攻撃に合わせて添えるように動かすため、小回りの効く立ちまわりが可能となった。
ウサギの空中5連蹴り、大剣で防御すると轟音と共に大砲でも食らったかのような衝撃が訪れるが、耐え切る。
ウサギは先ほどまで以上に力を入れた蹴りを繰り出してくる、少年はその攻撃全てを受け切る。
攻めあぐねたウサギの攻撃は苛烈さを増す、少年が大剣での攻撃を捨てたことを理解したからだろう。
だが、
「俺の武器は、この剣だけじゃねえんだよ!!」
大剣ごと少年を吹き飛ばそうと跳躍しながら力をためていた、隙だらけのウサギ。
そのウサギに少年は腰元から引き抜いたナイフを突き立てる。
完全に虚をつかれたウサギは、抵抗することもできずにそのまま絶命する。
「はあ、はあ……危なかった」
ギリギリだった、だがなんとか勝てた。
「お疲れ、ジン」
「……おう」
村を出て3ヶ月。
ハンターとして過ごす日々は危なっかしくも、充実したものとなっていた。
本日はもう1話投稿します。




