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暖かくて懐かしくて切ない

「か……勝った、やった……」


 倒れ込みそうになる体を剣で支える。


 機械仕掛けの獣は完全に破壊した。飛び散った歯車が動く気配はない。


「人間さん!!」


 遠くから、自分を呼ぶ声がする。


 顔を向けると、小さな妖精が何かを抱えて飛んでくる。


「も、持ってきたよ! シリン草!」

 

 そう、少年が獣と戦っている間に、アリアにはシリン草の採取を依頼していたのだ。


 もし少年が獣に負ければ、次はこの妖精が狙われただろう。


 その危険を承知の上で、アリアは引き受けてくれたのだ。


「め、めっちゃ重いんだけどこの草!」


 宙に浮かぶその小さな体は、草の重みでフラフラと揺れており危なっかしい。


 妖精からシリン草を受け取ると、少年が両手で抱えなければならないほど大きかった。


「ありがとう、本当に。おかげで助かった」

「い、いいよ……はあ、はあ……これくらい!」


 息も絶え絶えといった様子ながら、笑顔を見せてくれる妖精。


 彼女には感謝してもしきれない。


「あとは、このシリン草をイオナにーー」


 日は沈みかけている。


 山を降りるべく、痛む体に鞭打ち歩き出そうとした瞬間。


 

 少年の体は地面に崩れ落ちた。



「…………あれ?」


 受け身を取ることもできず、顔から着地する。


「…………あ……れ?」


 力が全然入らない。


「人間さん!!」


 疲労とか、怪我とか、失血によるものだけではなかった。


 体の内側にある、何か大切なものがすっぽりと抜け落ちてしまった感覚。


(あ……心の力を喰らう魔剣)


 少年が手にしていた剣がなんだったのかを思い出す。


 魔剣の力を振るった代償が、今になって襲ってきたのだ。


(ダメだ! まだ早い!!)


 ここで力尽きるわけにはいかない、このシリン草を届けなくてはならないのだ。


 渾身の力を全身に込める。


 立つ力はもう残されていない。


 少年は地面を張って進もうとする。


 だが、ほんの少しも進めないうちに、指先一つ動かせなくなった。


 あたりが暗くなり、何も見えなくなる。日が沈んだのではない、少年の目から光が消えたのだ。


(ダメだ! まずいまずいまずい!)


 意識が消えゆく中、かろうじて機能する少年の耳は、誰かが地面を踏み鳴らす音を捉えた。


「そ……こに、誰……か?」


 誰かはわからなかった。だが誰でもよかった。


 少年は最後の力を振り絞り、懇願する。


「この、草を……麓の村の……イオナに……届けて、くだ……さい……」


 意識が闇に沈んでいく。


「どうか……どう……か……」


 そして、消えていった。



 


 ほらここ! ここが紹介したかったお店!


 前にお世話になった人がやってるアクセサリーショップ、不思議な雰囲気でオシャレでしょ?


 …………そんな露骨に興味なさそうな顔しないでよ、今時男の子でもアクセサリーぐらいつけるよ。


 あ! じゃあ私が選んであげようか? 私、結構いいセンスしてると自負しています!


 んーとね、これはどう? って冗談冗談! ハートなんて柄じゃないよね!


 じゃあこれは? 石が太陽のエネルギーを取り込んで幸運を呼び寄せるんだって!


 ……またそうやって露骨に胡散臭そうな顔して、この店の商品は本当に効果あるって。


 それじゃあ、これは? ダメ? これも? 気に入らない?


 ……我がままだなあ。


 何がいいかな……ん? あっ! これなんかいいんじゃない? 


 このお店のシンボルがモチーフのーー






 ふと、目を覚ますと見慣れた天井。


 記憶を失ったジンが初めて目にした光景。それ以来何度も目を覚ますたびに見てきた天井だ。


 自分の体が柔らかい布団に包まれていることに気づく。


「…………。」


 何か夢を見ていた気がする。


 とても懐かしく、とても暖かい何かを。


 夢の内容は自分にとって大切なもののはずだ。でも目を覚ますと、夢の記憶は泡のように消え、幸せな感覚と胸にポッカリと穴が空いたような切なさだけが残った。


 この感覚は初めてではない、これまで何度も同じような感覚を味わってきた。

 

 その度に考える。自分は一体何者なのか?


 どうしてここにいるのか? 


 なぜ記憶がないのか?


 考えても考えても答えが見つからない、そのもどかしさをどう言葉にすればいいのだろうか?


 世界で自分だけが一人ぼっちになったような孤独感。


 孤独に押し潰されてしまいそうだった。


 だけど、その孤独から自分を救ってくれた少女がいた。



 その少女は、ベットに眠る自分の手を握りしめてくれていた。


 柔らかく、暖かい感触。


「お兄ちゃん」


 少女は優しく微笑む。


「ん?」


 よかった、と思う。


 その微笑みを見て、怪我も、体の痛みも、全て報われたと思った。


「おかえりなさい」

「…………ただいまイオナ」

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