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妄想の帝国

妄想の帝国 その43 超変異種

作者: 天城冴

新型肺炎ウイルス蔓延もどこ吹く風で、三密の飲食パーティーをひらく、企業トップたち。ワクチン接種したから安心と思っていたが、そこには大きな落とし穴が…

新春とは名ばかりで、新型肺炎ウイルス感染爆発、失業率最高などの暗いニュースが続くニホン国首都。そのような話とは無縁とばかりに、高層マンションのパーティールームでは、連日連夜パーティが繰り広げられていた。

「やはり新年はシャンパンで祝わないと駄目ですな」

恰幅のよい男性が手にしたグラスを、上質の生地のドレスを身にまとった女性が受け取る。

「そうですわね、それにこの生ハム、おいしいですわ。でも、マスクが…」

品のいいドレスに不似合いなマスクを女性が嘆くと、男性は笑って

「奥さん、マスクなんぞ外していいんですよ。この部屋の感染対策は十分ですし、それに」

「ああ、あのアレ」

と、女性は剥き出しの腕をみやった。数日前に打った注射針の小さな跡がまだ残っている。

アレとは、新型肺炎ウイルスのワクチンだ。いまだニホン国では未承認だが、某国で開発され、しかも人種的にニホン人に近く、治験もある程度行われていることから、ひそかに出回っている。しかし、高価なうえに、大規模な宣伝など行わず、信頼できる人間に口コミで伝えられているため、一般の国民にはほとんど知られていない。

「そうですよ、我々が感染するはずがない、だから、こうして楽しめるし、いろいろな場所に出かけられるというわけですよ」

「まあ、そうですわね。主人も今日は地方で商談を済ませてから、こちらにくると、コホ。あら失礼」

「気にすることは、ありませんぞ。我々は接種済み。感染予防に資材は十分かけているのだから、貧乏人と違って、自粛なんぞする必要はないのです」

「そうですわね。わたくしもマスクはもうしないことにしようかしら」

「そうなさい、妻なんぞ、まったくしておりませんよ。唇が荒れると言って。今日も化粧を念入りにして、買い物にでてから参加するとか。皆さんにおいしいケーキを注文すると」

「まあ、それは楽しみですわね」

談笑する女性にパーティスタッフの一人が声をかけた。

「奥様、御主人からお電話のようで」

不意に差し出された受話器をとって

「もしもし、貴方?え…、こ、拘束!」

青ざめた女性に

「ど、どうされたんですか!」

「そ、その、主人の車が、警察に呼び止められて、防護服を着た人達に無理やり外に出されたって、…あ、貴方!」

ツーツー

切れた電話に呆然とする女性。

「い、一体何が。彼は一流企業の社長だぞ、政財界にもつながりがある。そんな人物がなんで…」

訝しがる男性のポケットでスマートフォンが震えた。

「何々、お前か、いつまで買い物…。なに!部屋に入れないだと!マンションの入り口に警官が。ど、どういう…。あ、アキエコ!お、おい!なんてことだ!妻も捕まったらしい、しかもマンションの入り口に武装した警官が」

「ど、どういうことしょう」

「な、何が」

「わ、我々はニホン国の上級だぞ、一般人とは違うはずだ」

「ひょ、ひょっとして、外で暴動が、だからその警護とか」

「それなら、誘導とか連絡が」

ざわつく客たちを前に部屋の主はなんとかなだめる言葉を言おうとしたがどうしても思いつかない。

(変だな、頭が回らない。こんな異常事態だからか。パーティを続けなければ…中止、それは駄目だ、何故なら…)

男性はおびえる人々を前に何度も首を振った。


『これで、あのワクチンを接種したほぼ全員を拘束できそうか』

ブロンドに茶色の目をした男が防護服越しに部下に外国語で話しかけた。

『はい。あの医者から押収した連絡先を割り出し、摂取した全員の氏名など個人情報を把握しました』

浅黒い肌の部下がリストと、部屋に仕掛けられたカメラに映る顔を確認しながら返事をする。

『この感染爆発のさなか、密室に集まり、飲食とは。なんて愚かな。政財界のトップ連中がやることとは思えんな。ワクチンを打ったところで効果は万能でないというのに』

『万能でないどころか、今回逆効果です。彼らが接種したワクチンは開発国では一定の効果をあげていますが、それもマスクや会食を避けるなどの対策をしたうえでです。こんな風なパーティ三昧ではかえって逆効果に』

『それで変異種ができたのか。しかし、味覚障害などの特徴はないようだが』

『その代わり脳の別の場所、思考力がやられたようです。感染などの危険に対する警戒心が働かなくなる』

『どこかの寄生虫のようだな。まさかウイルスが、そんなことを』

『彼らも生き残りに必死ですかね。ワクチンでできた抗体にも抵抗力のある変異種がさらに進化を遂げたということでしょう。現に先に拘束した男から、変異が見つかったとの報告です』

『まったく、我々A国軍基地がある町でよかった。そうでなければ、その男がニホン国の地方都市に変異種をまきちらしていたところだ』

『あのニホン国を実質バカにした元首相の地元ですか、息子のほうもロクでもないですが。では、あの町に感染が?』

『いや、幸いなことに元首相後援会に出席しただけで、他の人間とはほとんど接触がなかったからな。もちろん後援会関係者は拘束済みだ。しかし、感染を広めるために宿主を阿保にする変異を起こすとはな。ウイルスが賢いのか、あいつらがアホなのか。本当にこの国のトップ連中なのか』

『もともと、その程度の頭なのかもしれません。だいたいニホン国でウイルスが蔓延したのは政財界の場当たり的な対策が裏目にでたからですし。第一、ワクチンが万能と勘違いするぐらいです。ワクチン接種した仲間内だけとはいえ、感染を広げ超変異種を生み出してしまったんですから。あ、拘束が完了した模様です』

部下が指さす液晶画面にはパーティの主催者のぼんやりした顔が映っていた。その顔は大企業のトップとはとても思えない不安におびえ切った子犬のようだった。



どこぞの国では未承認のワクチンを秘密裏に金を払って接種している方々がいるようですが、ワクチンは万能ではありません。治験はやっていると思われますが、数年後思わぬ副反応がでるケースもあります。何より変異種が元のものとかけ離れた場合、効果があるのかかなり疑問ですな。まあ、安心をしたいという人もいますので接種は自己責任ということになるのと思われますが、本当にいいんですかねえ。

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