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へたれショートとつんつんセカンド  作者: 夏を待つ人
四章 秋の近畿大会
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45話 王者

 二回戦の勝利の余韻はなかなか消えず、帰りのバスは大盛り上がりだった。これで春の選抜出場は確実となった。夏に選手権初出場してからの、二期連続の全国大会出場である。みんなが活躍できた良い試合内容だったし、チームがご機嫌になるのも当然だった。


「なんか静かだけど、どうかしたの?」


 私の隣、窓側の席に座る明日葉が問いかけてきた。盛り上がりの流れに乗ることが出来ず、私は物思いに耽っていた。


「なんかホームランを、打ったときの感触が離れなくて」


 自分の手のひらをじっと見つめみてる。ゴツリとしたマメが浮かぶ手のひらには、まだ、ホームランの心地よさが残っている。


「体がおかしくて気持ち悪い。あの感覚を、体がもう一回、味わいたがってる。でも、その後の打席で一回もバット振らせてくれなかったから、物足りないっていうか。欲求不満じゃないけど」


「ふーん」


「ねえどう思う? 良くない気がする。ホームランばっか狙って、バッティングおかしくなりそう」


「別にいいんじゃない。だって、実際打っちゃったんだから、そのうちポンポン打てるようになるかもしれないし」


 ホームランがポンポン打てるようになったら、さぞかし気持ちいいだろう。チームにとっても一番貢献ができるはず。でも、


「やっぱ怖い。ホームランのことは忘れる」


「あっそ」


 明日葉は、窓の外の風景を眺めて言った。


「だいたい贅沢な悩みよ。どんなに狙ったって本塁打打てない人がほとんどなのに。大きな体に産んでくれた親に感謝するべきね」


 そこで私は、最近ずっと感じていたことを言った。


「明日葉さ、最近背、伸びてない?」


「む」


 向き合ったときの明日葉の目線が、四月のころより高くなってきた気がする。


「うん、4センチぐらい」


「わ、成長期じゃん」


 明日葉は、ちらっと私の方を流し目で見て、言った。


「やっと、遅い思春期が来たから」


 なんだか意味深な言い方だった。ちなみに私の身長の大半は小6の間に伸びきって、中2以降はまったく変わってない。


「このペースでいくと、そのうち桜希を見下ろしちゃうかも」


「それは……」


 背が高くなった明日葉に見下ろされる光景を想像してみる。うーん、


「いいかも」


「“いい”ってなに?」


「いや別に」


◇◇◇◇


 兵庫にたどり着いた頃にはもう日が暮れていた。部品を片づけ、軽いミーティングを行った。


「今日はいい形で勝つことができました。ですが、まだまだ課題もあります。私たちは日本一という目標に向けて今日、ようやくスタートラインに立てました。

 準決勝の相手、大阪桐葉おおさかとうようは日本一の高校です。選抜が確実になったからといって、負けてもいいってわけじゃない。勝ちにいきます。今日はしっかり休んで、明日からまた頑張っていきましょう」


「ありがとうございました!」


 日菜子先輩キャプテンの言葉に、皆がしっかり応え、今日のところは解散となった。私と明日葉、それと乃愛は学校前の坂を歩いていた。私と乃愛は自転車を引いていた。


「明日葉ちゃん、今日のわたしのピッチング、百点満点中、何点?」


「30点」


「ちょっと低くない? ひどい」


 なんて二人のいつも通りの会話が繰り広げられているとき、私のスマホが鳴った。画面には、“上橋さん”の文字が浮かんでいる。二人は静かになり、私の様子をうかがっていた。とりあえずでてみると、テンションの高い、沙音璃の陽気な声が耳に入ってきた。


「久しぶり桜希! 元気にしてた?」


「うんまあ。そっちは……って、そっちは元気だよね」


「金蓮会に勝ったんだってね。これで選抜に一緒に行けるね」


「あ、海稜も勝ったってこと?」


「もちろん。負けてたら電話なんてしないよ」


 明日葉と乃愛を待たせているからなるべく早く切りたかったけど、沙音璃はどんどん話してくる。


「準決勝、こっちの相手が履彩社りさいしゃで、そっちが桐葉だから。どっちも大阪と兵庫の対決ね」


 そこで思い至った。沙音璃なら、桐葉の情報をなんか知っているかもしれない。


「ねえ桐葉と対戦したことある?」


「春に練習試合でね。まあ日本一だけあって強かったよ」


「なんか良い情報無い? あのバッターはあの球が弱いみたいな」


「わかんないけど、あたしが投げたときは、みんな、ストレートに弱かったなあ」


「……それ、あなたが投げたからでしょ」


「その通り」


「切っていい?」


「ごめん冗談。桐葉ね。対戦したときは前のチームだからあれだけど、今もいるメンバーだと、キャプテンでキャッチャーの恩田おんだ由乃よしのっていうのとエースのさと香織かおりってのがチームの核かな。ああ、あと乃梨子のりこ巻島まきしま乃梨子」


「まきしま……」


 今日ちらっと桐葉の試合を見たとき、投げていたピッチャーだ。沙音璃ほどじゃないけど、球が早く、すべての球がレベルの高い右ピッチャーだった。


「あたしたちの同級だけど、まああいつはいいや」


 なんだか沙音璃には、彼女との間にただならぬ関係がありそうだった。


「正直ね、うちがやったとしても分が悪いだろうし。厳しい戦いになると思うよ」


「それは、もちろんわかってる」


「うちに桜希がいたらたぶん勝てるだろうけど。監督に聞いたんだけど、桜希、うちからも推薦来てたんでしょ。なんで断ったの?」


「ごめん友達待たせてるから。もう切るね」


「えっ、ちょっ……じゃあね。また来週!」


 私の話に持って行かれそうだったので、急いで話を切り上げた。桐葉についての情報をもうちょっと聞きたかったけど。


 明日葉と乃愛はずっと静かに待っててくれた。


「上橋さんからだった。神戸海稜の」


 明日葉は、なぜか顔をぶすっとして、


「ずいぶん仲良さそうに見えたけど」


「ち、違う! あっちが一方的に話してくるだけで……対して仲良くないって」


 言いながら、なんで私はこんなに必死に弁明しているのだろうと思った。


「あっそ。帰る。おつかれ」


 明日葉はそう言い残し、駅の方へ消えていってしまった。私は「じゃあね、また明日」と、いつもと変わらない別れの言葉しか言えなかった。そんな私たちの様子を見ていた乃愛は、ニヤニヤしながら、


「明日葉ちゃん、可愛いね」


◇◇◇◇


 二回戦から三日たった水曜日の放課後。土曜日に準決勝を迎えるにあたって、放課後の練習は、実践形式のが多かった。


 フリーバッティングのとき、私と相対したピッチャーは奈桜先輩だった。二回戦のときの感じと変わらず、はっきりボールの軌道が見えてたし、打ち損じもほとんど無かった。ホームランは狙ってはいなかったけど、飛距離も十分に出た。


「あんなに打っちゃったらさ、奈桜が自信無くすじゃない」


 練習の合間に、日菜子先輩がそう言ってきた。


「そんなこと言われても」


「まあ、本番で打ってくれたらいけどさ。ところで、さっちゃんは、桐葉に勝てると思ってる?」


 突然の直球な質問で、私は答えに窮した。だから、逆に「先輩はどう思います?」って返してみた。


「私は勝つのは厳しいと思う。でもね、大差で負けたってここで日本一っていうのを体験できるのは良いことだと思うし。もし勝てたり、良い勝負できたなら、自信にもなるし。選抜に出れるってことも良かったけど、ここで桐葉と戦えるのもすごく良いことだと思うんだ」


「なんか先輩、キャプテンみたいですね」


「“みたい”って何よ。私は一応キャプテンなんだけど」


「ご、ごめんなさい。言い方間違えました」


「まったくもう」


 先輩は怒りながらも、少し笑っていた。


「でも、自分でもちゃんとキャプテン出来てるか不安だったし、とりあえず一つ結果が出せてよかった。私がキャプテンになった途端弱くなったとか言われたら嫌だったし」


「先輩はちゃんとキャプテンやってますよ」


「そう?」


 先輩は恥ずかしそうに頬を掻いた。ちょっと抜けているところもあるけども、優しい性格で、みんなを包み込むようにまとめてくれている。陽子先輩とはちょっと違う感じ。


「ところでさ。準決勝の先発、誰が良いと思う」


「えー。それは……」


 奈桜先輩、乃愛、舞香。三人の誰が桐葉相手の先発にふさわしいか。そんなの、


「直前に調子いい人」


「まあ、そうなるよね」


「だって、そんなのわかんないですよ」


 はっきりいってわからない。誰が通用するかわかんないし、みんな通用しないかもしれない。


「先生もなかなか決めかねているみたいだし、どうしたものか」


◇◇◇◇


 結局、金曜日まで誰が先発するか決まらなかった。その間、みんなで桐葉の対策をしまくった。なんせ相手は日本一の高校で、ネットにはたくさんの動画があったし、情報には事欠かさなかった。桐葉の上位打線には左バッターが多いこと、さらに直近の成績を考慮し、先発は舞香に決まった。


 出来ることはすべてやった。夏の王者、大阪桐葉との対戦、緊張よりもわくわくの方が強い。私の怖いぐらいのバッティングの好調はずっと続いたまま、試合当日を迎えた。

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