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4話 練習試合VS福知山済美①

 ある日の練習が終わり、私は陽子先輩に呼び出された。


「今週末の練習試合のことなんだけど、当然青見ちゃんにも出てもらうから」


 今週の土曜日には練習試合が組まれていた。昨年の秋季京都県大会ベスト4、福知山済美ふくちやまさいびとの二連戦、一年生にとっては初めての対外試合となる。


「それで打順なんだけど、青見ちゃんが打ちたいところでいいよ」


「え、自分で決めていいんですか?」


「うん。あなたがやりたいようにやってくれるのが、チームにとっても一番だと思うから。先生も納得してくれたし」


 大した信頼である。ホントに大丈夫なんだろうか。


「じゃあ、七番あたりで――」


「ただし、一番から四番のどれかにしてね。あなたにはやっぱ上位打ってもらわないと」


「……一番でお願いします」


◇◇◇◇


 練習試合当日がやってきた。舞台は相手チーム、福知山済美のグラウンドで行われる。私たちは朝早くに集合し、公共交通機関を乗り継ぎ、隣の県まで遠征してきた。


 グラウンドは高校の校舎から離れた場所にあった。遠くには山々が連なり、見渡す限り緑に囲まれている。


 山々の背景には、雲一つない水色の空が見える。今日は絶好の野球日和だった。


 現在、グラウンド上では相手チームがシートノックを行っていた。私は三塁側のベンチ前で素振りをしながら、それを観察していた。


 福知山済美高校は私立の高校である。スポーツに力を入れており、いろいろな競技の全国大会でその名を聞いたりする。


 もちろん、女子野球部もその例に漏れていない。


 真っ黒な土が敷き詰められたこのグラウンドは、女子野球部専用とのことだった。


 グラウンドの横には室内練習場なる建物がある。他にも様々な設備が見受けられ、恵まれた環境にあることがうかがえた。


 もちろん、その選手たちのプレーも目を見張るものがある。シートノックを受ける選手たちは、強豪らしく、誰もがそつのない動きを見せていた。


 そしてその奥、一塁側ブルペンでは、相手の先発投手らしい人が投球練習をしている姿があった。


 テンポ良くボールを投げ込むその右投げの投手は、背が高く、ガッシリした体格をしている。遠目から見ても、好投手だとはっきりわかる。


「青見ちゃん、どう調子は?」


 試合用のユニフォームに身を包んだキャプテンが、私の元にやってきた。


 全体を白が覆う中、胸元にくっきりと浮かぶ、オレンジ色の“SENJO”の文字。アンダーシャツやソックスが黒色で、千庄のユニフォームはシンプルなデザインだった。青色に染まった相手チームのに比べるとなおさらである。


「ぼちぼちです」

 

 と、言うしかなかった。


「そっか。とにかく、あなたのデビュー戦だからね、絶対勝てるよう、私も頑張るから」


 私は「はい」と言ったけども、それは心からのものでなかったのかもしれない。


 なにかしっくりこない。自分を構成する歯車がずれてて、動き一つ一つが固くなっている感覚がある。


 期待。先輩たちがかけてくるそれは、ありがたい話ではあるけど、背中にある大きなカバンみたいに私の動きを制限してしまっている気がする。


 先輩との会話を終えた私は、ベンチに戻る。ひとまず腰を落ち着けると、隣には関長さんがいる。


「なんで横に来るのよ」


「いいじゃん、別に」


 相変わらずの当たりの強さが、なんでか擦れた心にちょうど良かった。


 そして、関長さんは意外なことを口にした。


「冴えない顔してるわね。お悩み事でもあるのかしら。もし試合に出たくないのなら代わってあげるけど」


 とても、嫌みったらしい口調だった。


「そう見える?」


「うん。いつも以上に情けない面してる」

 

 びっくりした。完全に馬鹿にしてきていることはわかっているけども、私の心の微妙な機微をわかってくれたことが嬉しかった。


「悩み事かあ。二つあるんだけど、一個は今解決した。もう一個は、あなたとのことかな」


 立ち上がる。体が軽く感じる。全身に血がめぐりはじめたような感じがした。


「意味わかんないんだけど」


 その時、主将の「集合!」という声が届いた。試合開始はもうすぐだった。


◇◇◇◇


 左打席に立つ。福知山済美高校との練習試合は、一回の表、一番、私の打席から試合が始まる。


「お願いします」


 ヘルメットのつばを触りながら、球審と捕手に軽く会釈する。

 

 足下のバッターボックスは、当然、綺麗にならされたまっさらな状態だった。スパイクで地面を削り、足場を作る。ザッザッと、土をえぐる。


 マウンド上には、青いユニフォームの右ピッチャー、焦点を数十メートル先の人物に置く。


 右手一本でバットを持ち、ピッチャーに向け掲げる。左手は胸の前に置いておく。前方のバット越しに投手を見据え、一度ゆっくり息を吐く。


 息を出し終わると、右手を左手のところまで持っていく。バットの先が半円を描くような軌道をとり、右手と左手が合流し、両手でグリップを持つ。


「プレイ!」


 審判の声が上がる。オープンスタンス――前にある右足を少し後ろに下げ、投手に対して少し開いた体勢、両手と右足は小刻みに動かす。


 投手がフォームへと移る。三塁方向に体の正面を向け、右足が高く上げられる。


 その右足が下ろされるとき、私は、ゆらゆらとした動きを止め、一気に右の太ももを腰の高さまで上げる。


 投手の手から今にもボールが放たれんというとき、右足を強く下ろす。下半身のためたエネルギーは、いつでも解放する準備ができている。


 ストレート狙い。

 

 投手が腕を振り、ボールが指先から離れる。予想に反して、ゆったりとした速度でやってきたボールは、こちらに向かってくるように軌道を変えながら、キャッチャーのミットに収まった。


 審判の右腕が上がる。


「ストライク」


 カーブだった。キャッチャーは立ち上がり、ピッチャーに返球する。


「……」


 完璧な見逃しだった。ストレート狙いだったけど、しっかりとカーブを呼び込むことができた。振っていれば、捉えることができたと思う。


 ピッチャーが同じようにノーワインドアップから二球目を投じてくる。


 今度は変化もせず一目散にやってくる速い球。たまった体の力を解放させ、一気に回転する。腰の回転のエネルギーがスイングの力へと変わる。


 手に心地良い感触が伝わり、快音が鳴った。一目散にバットを投げ走り出す。ライナー性の打球がライトとセンターの間へと飛んでいった。 


 一塁を回り、二塁にまで到達しそうなとき、センターがやっとボールを拾ったのを見た。


 強く二塁ベースを蹴る。足を全力で回し、次の塁――三塁に向かってスライディングを敢行した。


「セーフ!」

 

 三塁打、控えめだけど、ガッツポーズをした。ベンチを見ると、みんなが盛り上がってるのがわかる。それがまた、うれしかった。


 続く打者、二番セカンド、三年生、藤田ふじた美羽みう先輩が左打席に入る。美羽先輩はセカンドへのゴロを放つ。セカンドが一塁に送球する間に、私はホームを踏んだ。先制点が千庄に入った。

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