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Issue#15 ◇結界の先に落ちてる謎の武器なんて強いに決まってる◆

 ◇ ◇ ◇


「いやー、参ったねえ……」


 宝箱をえいえいと小突きながら、むしとりしょうねんがぶつぶつ言う。


「あんまり参ってないでしょ」


「バレた?」


「バレるも何も、デレデレじゃん」


 噴水の縁に外向きに座るパインからはむしとりしょうねんの姿は見えないが(彼が詰んですぐは殊勝に水をかき出し続けていたのだが、どうも脱出の見込みがないぞと分かってからは諦めて外に出た)、声色から彼が楽しんでいることだけはわかった。


「そんなに?」


「そんなに」


 こんな事態が発生したということは、それはゲーム制作側の想定していなかった事象が起きている――起こせているということだ。むしとりしょうねんにとって、それは何より喜ばしいことであった。


「で、どうするの?」


「GMコールした」


 いい加減開く気配のない宝箱を小突くのにも飽きてきたむしとりしょうねんは、メニューをひゅひゅっといじってGMコールを行った。なお、ダメージを与えて宝箱を壊すのは中に影響が出たら悲しいことになるのでやめておいた。


「そーですか」


「いやー、仕事増やしちゃって申し訳ないなー」


「絶対そう思ってないだろ」


「うん」


「とはいえねー、時間かかるし、ログアウトしてもいいと思うけど」


 パインは以前、一度だけGMコールをしたことがあった。検証をしていたら悪意をもって仕込みを台無しにされたので容赦なく通報したのだが、その時もだいぶ待たされた。録画を提出したらきちんと処分してくれたのでそこはよかったのだけれど。


「そしたら水没するんじゃ?」


「水没したら死ねるよ?」


 ほんと、一度痛い目を見た方がいい――と思ったけど、GMに既に刺し殺されてるんだった。


「壁と扉あるから水通らないけどね」


「そしたら暗くなるだけか」


「別に今でも暗くできるんだよ?」


「ごめんせっかくだからまだ点けといて」


「よろしい」


 パインの使った光魔法・《リオース》はまだ有効であり、扉(水位が上がってまた出現した)と透明な壁の間のところになんとかはまったのでそこから小部屋を照らしている。


「ところで今何してるの?」


「踊ってる」


「おどってる」


「宝箱を焚き火に見立ててキャンプファイヤーの踊りを」


「なんで?」


「することないから」


 面白そうな現象を起こすための仕込みも済んでしまい、本格的にやることがないらしい。


「こっちの状態も考えてくれ……」


 壁穴開けに付き合わされた挙句、GM待機である。現実と違ってきれいな星空を眺めるくらいしかやることがない。いっそ彼をほっぽって狩りに行ってもいいのだけれど、ここまで首を突っ込んでおいてそれは何か違う気がする。結局、パインは噴水の縁で頭を抱えるしかなかった。


「――お待たせしました」


 そして。

 案外すぐに、GMはやってきた。


 ◆ ◆ ◆


「どうされましたか?」


 河北は、直接、噴水床下の小部屋にやってきた。桃子も後ろから恐る恐るついてきている。


「閉じ込められちゃったんです」


 もうついたのかはやい。

 縁に座っていたパインも、その声を聞きつけ立ち上がる。


「そもそもここには入れないはずですが」


「入れちゃったんですから仕方ないでしょう」


「……ですから、」


「入れたものは入れたんですよー……」


 このむしとりしょうねん、中々嫌な性格をしている。口を割ろうとしない。

 埒があかないとみた河北は、強硬策に出る。


「状況が分からないと、私どもとしても再発の恐れが否定できませんので」


 口を割るまで出してやらないぞ、と。そういう脅しの含みを入れる。


「割れたんですよ、さっきは。その透明な壁が」


 むしとりしょうねんも、嘘は言わず、でも核心には触れずにのらりくらりとかわす。


 これは、外堀から攻めた方が早そう。

 周囲の――半径5mほど、関係ないプレイヤーを巻き込まない範囲のオブジェクトを全て透明化し、遮音システムと視覚阻害システムをアクティブに。GMがセンシティブな話を聞いたり変なプレイする人にご理解いただく時に利用する、通称「お説教部屋」を展開する。

 これで、この場にいるもうひとりのプレイヤー――パインとも話ができるようになる。むしとりしょうねんに武器を<貸与>していたりと、何やら知っていそうなパインと。


「そちらのパインさんも。お話お聞かせいただけますか?」


 圧力に負けたパインが洗いざらいしゃべるまで、1分もかからなかった。


 ◇ ◇ ◇


「お説教部屋なんて、はじめてだったなあ……」


「他のゲームじゃ経験あるだろうに。今さら何を」


「だいたいむっしょのせいだよ!!!」


「それはそう」


 まともな攻略とか検証とかは今からやる気になれず、今日は解散にしようか、なんて言っていると。むしとりしょうねんの耳にティロンという通知音が聞こえ、メニューからメッセージがポップアップする。



<システムメール>

-------------------------

 お忘れ物です。


      河北

-------------------------

添付アイテム:初心者の銃×1



「くっそぅ……」


「? どうかした?」


「や、仕込みが……」


 噴水の下の小部屋、入り口から死角になるところに、少年は<初心者の銃>を置き忘れていた。わざとだけど。


 あの場所にはきっと、誰かそのうち正規ルートでプレイヤーがやってくる。その時に、なぜか<初心者の銃>が意味深に落ちていたら面白いことにならないか? 考察がめちゃくちゃになりそう。

 そんな発想のもと、落とした装備品の仕様も知らないけれど残ってくれれば儲けもの、とこっそり置いてきた<銃>を、きっちりGMに回収されてしまったのであった。

 部屋の方まではチェックされない方に賭けたのだが、どうも監視が厳しくなっているらしい。


「まーいいや。おつかれ~」


 パインがログアウトするのを尻目に、むしとりしょうねんはあのやり手のGMに再戦を誓う。


「いつか目に物見せてやる……」


 既に一度、特大のトラブルに巻き込んでいることはもう忘れてしまったようだ。

めちゃくちゃ手間取ってしまいました。遅くなりました。

次は掲示板回でもやろうかと思ってます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良さそう小説、ブクマさせていただきました。 いいですよねバグ。くだんない小ネタからゲーム崩壊級の大物まで、どうしてあんなにも私達をワクワクさせてくれるのでしょうか? 続きを楽しみにさせ…
[良い点] 主人公が説教部屋に連れ込まれてるの初めて見た この先一体何回お世話になるやら…
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