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映画館にて

映画の時間が近くなり、飲み物を買おうと映画館のレジの列に並んでいる時だった。

外の空が、赤くなったのを視認した。


パッ


「消えた・・・・・・!」


これで立証された。他の町でも、夕方の現象は起こるのだ。

鬱陶しかった列が消えたので、静かになったレジの前に行く。ここでまた一つ問題が浮かんできた。いつもはコンビニや薬局など、その辺に品が陳列されている場所で買い物をしていた。

こういう、注文をして品が出てくるタイプの所へ、行ったことがなかったのだ。

もう映画が始まってしまう。慌てて映画館を出て、モールのスーパーで飲み物を買う。映画館のスクリーン受付の先へ行こうとして、謎の力で弾かれる。不器用な手先で映画の半券をちぎり、受付に置くと通れるようになった。


「五番、五番五番・・・・・・あった!」


誰もいないので全力で五番スクリーンの扉を開け、中に入る。短いスロープは壁で仕切られていて、この向こうに席があるが、しんと静まり返っている。スクリーンには映画の出だしが流れていて、足元に注意しながら薄暗い館内を見回した。

スクリーンが一際明るい光を放った時、中ぐらいの館内、席中央辺りに、それを発見する。

警戒した表情をしながら席を立ち、こちらの様子を伺う、同い歳ぐらいの男子が、そこにいた。同い歳ぐらいだと分かったのは、その男子が、私が転校する先の高校の制服を着ていたからだ。


「(どういうこと?今、夕方だよね?)」


周りの人達は全員消えている。いや、正確にはそこにいるのだが。なぜ彼は消えていないのだろう。

向こうも同じことを考えているらしく、お互いその場に立ち尽くし、事態の整理に数分かかった。スクリーンから流れる、五歳の男の子がとうちゃんを呼ぶ大声でハッとし、私の方から動き出す。

私が取った席は、たまたまその男子の隣の席だった。見栄を張るため、めちゃくちゃ余裕がある感じで、堂々と男子に話しかける。


「ここ、座っていい?」

「えぁっ、はい、ど、どうぞ」


変な声を出しながら、私と同じく席に座り直し、スクリーンに視線を向ける。今まさに四人と一匹の家族が、謎の組織に攫われている最中だ。


「「あのさ」」


隣の男子と声が重なる。どうやらあちらも、私に聞きたいことがあるようだ。お先にどうぞと言うと、男子の方から話し始めた。


「えっと・・・・・・俺は弥生っていいます、あなたは?」


お見合いか。そんなツッコミを心の中で入れつつ、自分の名前を名乗った。


「夏夜乃、よろしくね」

「よろしくお願いします・・・・・・」


私のことを、歳上だと思っているようだ。再び沈黙が流れ、弥生が話し出す気配がなかったので今度は私から話しかける。


「弥生くんは、いつから夕方にいるの?」


謎の口下手が発生し、『夕方にいる』などといった格好つけた質問をしてしまう。どうすんだこれ、弥生きっと困ってるぞ。

冷や汗を軽くかきながら隣を見ると、弥生は私の言い回しに目を丸くし、その表情からは感心の心が見て取れた。


「そう、ですね、一年前ぐらいから、夕方になると人が消えるようになりました」

「一年前!?」

「?、どうしてそんなに驚いてるんですか?夏夜乃さんは、俺より長く夕方にいるんじゃ?」


しまった、まぁいい。

私は、自分が夕方に居座り始めたのは半年前で、こうして同じく夕方にいる人間と出会うのは初めてだと、弥生に正直に打ち明けた。ついでに歳も。


「えっ、同い歳じゃん、なぁ〜んだよ〜!」


弥生も同じく高校二年生で、十七歳であることが判明した。お互い急に緊張が解け、映画を見ながら色々なことを話し始める。


「俺はさっき言った通り、一年前ぐらい前から夕方になると、自分以外の全員が消えた」


初めは混乱したけれど、学校からの帰り道に静かに帰れるから、案外すんなり受け入れられた。


「このモールが出来てからさ、こうして映画を見るようになったんだ。こういうの好きなんだけど、やっぱ恥ずかしいじゃん?」


夕方とは自由と共に、最も暇な時間。そこで映画を選べるようになったのは、弥生にとってもかなり大きなことだったようだ。

家が結構厳しくて、夜七時までには家に帰ってきなさいと言われていて、破るとこっ酷く叱られるらしい。


「高校生なのに過保護だよな」

「いいじゃん、うちと真反対」

「なにそれ、羨ましい」

「どこが」


気にしてくれるだけ有難いと思え。


「(・・・・・・って言いたいけど、家庭の事情なんて、誰が口出しして言い訳でもなし)」


弥生も察しているのか、それ以上突っかかって来なかった。隣の芝生は青いとは、まさにこの事だろう。


「ま、そんなんだから夕方にこうして居られるのは、なかなか優越感なわけ」

「それは分かる、自由な時間だよね」

「本当に、誰からも干渉されないって素晴らしい」


弥生は私よりずっと、あらゆる場所での買い物の仕方や、人の消える夕方の過ごし方を、しっかり理解していた。さすがは一年間も、夕方にいるだけのことはある。

映画もそこそこに、私もここに来た理由を説明した。他の町でも夕方に人が消えるかどうかの実験だったが、思わぬ副産物に出会えた。


「へぇ、こっちに引っ越してくるんだ」

「そ、一応転校先は、弥生と同じところの予定」

「そうなんだ、じゃあ待ってるわ」

「!」


予想外の返答に、思わず弥生の顔を見る。弥生は面白そうにニヤニヤ笑っていて、腹が立った。けれど改めて見ると、なかなかかっこよくて心臓が一瞬痛くなった。

一般的に見てもイケメンの部類に入るであろう彼は、髪を茶色に染めていて、デザイン性の高い茶色のブレザーを着こなす姿は、いかにも周りに馴染めている高校生らしいと思った。

私とは違う種類の人間なのだろうと、心の中で同人種であれと膨らませていた期待をかき消し、映画に視線を直した。

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