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ただ不思議な話が書きたくて書きました。

この現象が始まったのは、半年前の冬の日。

いつもは二階の部屋から出ない私も、流石に母親が出かけている最中は自由に動き回る。このまま帰ってこなければ良いのにと、仲の良くない母親の不幸を願いながら、家から出た。

田舎町の夕方、やけに夕陽が赤かったのを覚えている。

さらに、違和感も覚えた。

普段なら近くの公園で、私の部屋まで聞こえるほど、子供がやかましく遊んでいるのに、その子供の姿が見えなかった。公園を通り過ぎ、田舎町唯一の商店街に行って、違和感は確信に変わる。

いつも夕方は賑わっているのに、商店街には人っ子一人見つけられなかった。

私は体力のない体を必死に動かした。本当に誰もいないのかと、商店街や街中を走り回った。なぜ誰もいないのか分からない、犬や猫さえ見つからない。

いじめを受けて中学から高校二年生の今まで、ずっと引きこもっていた体には、かなりきつい運動と現象だったが、反面嬉しい気持ちが私を支配した。

人と顔を合わせるのが苦手で、両親とすらあまり話さない。いっその事、自分か相手が消えれば良いのにと、常日頃思っていた。

あまりに非現実的な事態だけど、世界に一人だけだと思うと心が踊った。

しばらく誰もいない町をふらふらしていると、日が暮れて街灯に電気がついた。その瞬間にポンッと、何事も無かったかのように町の人達が現れた。

私は驚く暇もなく、前方から突進してくる子供と衝突し、泣かせてしまった。


それから半年経って現在、色々実験して分かったことがある。

町の人達が消えるのは、太陽が出ている日の一時間ちょっとの夕暮れ時だけ。空が曇っていて太陽が出ていない時は、町の人達は消えない。

町の人達が消えたのを部屋の窓から確認すると、私は意気揚々と外へ出る。夕方になると人や生き物は消えるが、無機物は消えない。運転手のいない車は道路を走っているし、誰かが乗っているであろう自転車も、運転手を除いて普通にそこにある。

田舎町に数件だけあるコンビニの自動ドアも、時々開いたり閉じたりする。もちろん私が通っても、普通に動作する。


買い物をする時は店員さんがいないので、レジに税込価格を計算して置いておく。お釣りはいつの間にか手の中にある。

お金を払わずに出ようとすると、謎の力で扉が開かない。


「あら、あんた、いつの間に外に出てたの?」


夕方が終わって、町の人達が復活してから家に帰ると、酒に酔うと感情的になり、暴力を振るう母親に、不審な視線を向けられる。

いつも部屋に引きこもっている一人娘が、夕方に動いていることは知らないらしい。例え知っていても、母親は私に関心がないので、どうでもいい事柄として処理されているだろう。再婚した父親との間も冷えきっていて、いつ離婚してもおかしくないなと待ち望んでいる。

引きこもりの原因の一つに、家の構造も関係していて、二階の自室から玄関へ行くにはリビングを必ず横切らなければならないのだ。

こちらも顔を合わせる事すら煩わしいので、なるべく完全に日が暮れる前に、自分の部屋に帰るようにしている。

だが、時々驚かせてやりたくなって、復活する前にリビングのソファに座って、反応を楽しむ日もある。


「夏夜乃、少しいいか」

「なに?」


夏夜乃(かやの)、それが私の名前。夏の夜に生まれたから。

不思議な現象が起こって半年、私の誕生日が近いある日。リビングで一人で寛いでいた私を、仕事から帰ってきた父親が呼んだ。

いつの間に夕方が終わったのかと、一瞬不思議に思い、よく時計を見れば、随分前に夕方は終わっていた。


「あの人は?」

「その事なんだ」


どうやら今日二人は、市役所に離婚届を出てきたらしい。詳しくいうと、母親は昨日の晩のうちに出ていったようで、父親が提出しに行ったようだ。

苗字が変わること以外、心底どうでも良かった。いや、気分的にはかなり良い気分だ。これで部屋に引きこもることを止められるし、父親も肩身の狭い思いをしなくて済む。


「夏夜乃は、俺が引き取ることになった・・・・・・それで大丈夫か?」


私は、母親の連れ子だった。今目の前にいる父親は再婚相手だ。色々と負い目を感じているのか、恐る恐る聞いてくる父親に、「大丈夫だよ」と伝える。心底安心したような表情をしていた。


「家事はこれから私がやるね」

「ありがとう、助かる」

「こちらこそ」


幸い父親とは、仲がいいわけでもなく、悪くもなかった。これから母親に怯えず、平穏な日々が訪れると実感すると、夕方じゃないのに外に出かけたくなった。


「近々、隣街に引越ししようと思うんだ」

「引越し?」

「夏夜乃がこの町に居づらいんじゃないかと思って、転校先も決めてある、行けるかどうか、考えておいて欲しい」


夕方以外に外へ出ると、私をいじめたいじめっ子達と、出くわす可能性があるのだ。この父親は、それを心配してくれている。

引越しは三ヶ月後に決行するという。自分の部屋に戻り、引越しする先の情報をスマホで調べる。少なくともここよりは色々ああって、なかなかいい街っぽい。高校の制服も可愛い。

しかし心配もある。夕方の現象が、この町以外で起こるのかどうかということだ。両親の離婚より、苗字が変わるより、引越しよりそっちの方が気になって仕方ない。

きっと私が嫌だと言えば、今なら引越しは取り消せるだろう。だがこの町は、母親と父親が出会い、別れた町。思うところもあるだろう。父親の気持ちも考えると、折角の決断を無下にも出来なかった。

どうにかしてこの現象が、他の場所でも起こりうることを、証明出来ないだろうか。


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