懐かしの地
ゲートの先はフィリンの街だった。
「ここがバーンシュタイン王国?」
「いや、フィリア王国のフィリンっていう街だ。俺が六、七年暮らしていた。」
「何故直接バーンシュタイン王国では無くここに?」
「確かめたいことがあってな。」
そう言うと、ロキシスは歩き出した。それにエリナとサクラも着いていく。すると、こじんまりとした建物の前までやってきた。
「ここは?」
「昔世話になっていた食堂だよ。満腹亭っていうんだ。」
「ロキシス、お腹は空いてないわよ。」
「いや、飯を食いに来たんじゃ無いんだ。」
「誰だ、店の前でごちゃごちゃ言っているのは。」
と、後ろから声がして、振り向くとガルフが立っていた。
「久しぶりだな、マスター。」
「まさか…ラトリスか!?いったい何処へ行っていたんだ!?」
「ラトリス…?」
「以前話しただろう。人だった頃の俺の名前だ。」
「とりあえず中へ入ろう。」
ガルフにそう言われて、中へ入る。
「済みません、まだ準備中なんです…って、ラトリスさん!?」
「よう、カレン。元気そうで何よりだ。」
「心配してたんですよ、急にいなくなるから。あれ?そちらの方々は?」
「相違や、その子達は誰だ?」
「あぁ、俺の奥さんのエリナと、異世界から来たサクラだ。エリナ、サクラ。こちらはガルフとカレン。昔世話になっていた人達だ。」
「初めまして。」
「ほぅ、ラトリスが嫁を貰ったか。」
「おめでとう御座います、ラトリスさん。」
「有難う。」
「それで、今日はどうしたんだ?確かマリアとレイナの二人から、別の大陸に行ったって聞いていたんだが?」
「あぁ、実は…」
ロキシスは知っていることを全て話した。
「なるほど、ミドレン王国がな。」
「何か情報は無いか?」
「いや、お前の知っていることが全てだ。俺達も余り知らないんだ。宣戦布告してくるって話は確かにあったんだか、何の冗談かと…」
「そうか…」
「それで、どうするつもりだ、ラトリス。」
「とりあえずバーンシュタイン王国に向かう。」
「その異世界から来た人達とやり合うのか?」
「最悪そうなるだろうな。」
「そんな…」
サクラが心配な顔をする。そのサクラの手を、優しくエリナが握る。
「大丈夫。ロキシスなら何とかしてくれるわ。」
「…?ラトリス、ロキシスって誰だ?」
「俺のことだ。」
「偽名を使っているのか?」
「いや、ラトリスもロキシスも、俺の大切な人から貰った、大切な名前だ。でも今はロキシスが俺の名だ。」
「…そうか。じゃあロキシス、達者でな。」
「あぁ。マスターもカレンも元気で。」
「また食事に来て下さい。」
「全てが片付いたらな。」
そう告げて、3人は満腹亭を後にした。
次にロキシス達が向かったのは、ロキシスが長年住んでいた屋敷だった。
「ここに住んでいたの?」
「あぁ。人から譲り受けて、六年位住んでいたな。」
屋敷にはプロテクトの魔法がかけられていなかった。扉を開けて、中へ入ると、カビ臭い匂いと、埃が舞った。
「…2年ぐらい放置されていたようだ。」
「そんなことが解るんですか?」
サクラが尋ねるが、ロキシスはそれには答えず、屋敷の奥へと進んでいった。3階の奥の部屋に着くと、
「ここだけプロテクトがかけられているな。」
と言って、クリアの魔法を使って解除する。中へ入ると、金塊やドラゴンの骨はそのまま残されていた。
「あいつら…結局使わなかったのか…」
「凄い量…」
「これって…」
それを見て、ロキシスは再び扉を閉めて、改めてプロテクトの魔法をかける。そして、
「ゆっくりするのも終わりだ。急いでバーンシュタイン王国へ行こう。」
「ここから大分あるのよね?」
「なに、大丈夫だ。」
そういって外に出ると、ロキシスは詠唱を始めて、
「来い、フェンリル!」
と闇魔法を発動させる。フェンリルが獣の姿で現れた。
「お呼びでしょうか、ロキシス様。」
「フェンリル、俺達を乗せてバーンシュタイン王国へと向かってくれ。」
「解りました。ですが…」
「…?」
「エリナ様、耳をモフモフするのは止めて下さいね?」
フェンリルが恐る恐るエリナに言った。
「そんな場合じゃ無いのは解ってるわ。」
「そうですか。では背中へ。」
フェンリルは伏せて乗りやすくしてくれた。その背に3人が跨がると、勢いよく走り出した。
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