エミル村
翌日、エリナが目を覚ますまでロキシスは傍にいた。エリナは目を覚ますと、驚いたような顔をした。
「寝間に忍び込むのは感心しないよ。」
ロキシスはエリナにそう告げた。すると、恥ずかしそうな顔をした。
「さて…」
ロキシスは手を離して立ち上がり、外に出るべく踵を返した。すると、エリナがコートの裾を掴んだ。
「大丈夫、外の様子を見に行くだけだ。」
そう告げるが、エリナが心配そうな顔をして、コートの裾を離そうとしない。
「…じゃあ一緒に行くか?」
そう告げると、パアッと明るい顔になった。二人で一緒に外に出ると、明るい日差しが2人を包み込んだ。
「くっ、1週間ぶりの日光は目にくるな。」
余りの眩しさに、態勢があるとはいえ目がくらむロキシス。それを見て、エリナは笑顔になった。外を見てみると、何軒かの家が建っていて、その横には畑のようなものも見て取れた。ロキシスとエリナは2人で歩いていると、
「おや、エリナ。そっちの方は…あぁ、目が覚めたんだね。」
そう声をかけられた。
「初めまして、俺はロキシスと言う。」
「初めまして、私はフィオーレ。エリナとは家が隣通しなの。体は大丈夫?」
「あぁ。しかしここが何処なのか解らなくてな。」
「ここはロッキーナ大陸の南端の、エミル村よ。私達エミルのみが住んでいるの。」
「エミル?エルフじゃ無いのか?」
「うーん、エルフと言われた事は無いわね。あなたはヒューミルでしょ?」
「聞いたこと無い種族名だな。俺が住んでいたところとは名称が違うんだな。」
「北の方にはデミール族が住んでいるけど。そうね、余り友好的じゃ無いわね。」
「ある意味遭ってみたいが…今は体を治すことに専念するよ。」
「それで、あなたたちは何処へ行くの?」
「この村を見せて貰おうと思ってな。」
「へぇ、じゃあ私も一緒に行くわ。」
「良いのか?」
「えぇ。まだ仕事には時間が早いし、エリナじゃ説明出来ないでしょう?」
「なる程。」
確かに喋れないエリナでは、説明出来ないだろう。そう考えてロキシスは、フィオーレに案内を頼むことにした。村はそんなに活気付いている訳では無いようだったが、穏やかな雰囲気が気持ちのよい村だった。色々案内してもらっているうちに、ロキシスは男性がいないこと、歳が若い人が多いことをフィオーレに指摘した。すると、
「私達エミルはある一定の年齢に達すると、外見が変わらなくなるの。寿命は長い人で700年位かしらね?ヒューミルは大体70年位じゃなかったっけ?」
「俺達は…そうだな。」
「因みに男がいないのは、仕事に出ているからよ。森で木材を集めたり、魚を採りに行っているわ。」
そう告げられて、森の方へと3人で向かう。なる程、確かに男達が大勢いて、今は巨大な樹を倒している所だった。
「ようフィオーレ、エリナ。それと…?」
「ロキシスよ、ティル。」
「そうか、今聞いたとおり、俺はティル。宜しくな、ロキシス。」
「あぁ。で、今はその樹を倒しているのか?」
「そうだ。だけど、中々倒れなくてな。斧もかなり痛んでいるし、どうしようかと悩んでいるんだ。」
錆び付いた斧を見せながらティルはそう言う。
「このままじゃ樹も可愛そうだしな。どうしたものか…」
「…俺がやろうか?」
ロキシスがそう伝える。
「え?何とか出来るのか?」
「やってみなけりゃ解らんがな。とりあえず皆を退けてくれ。」
そう言うとロキシスは樹に近づいていく。ティルとフィオーレ、エリナは樹の周りにいた人達に退くように説得する。
「じゃあいくぞ?ウィンドスラスト!」
初級風魔法ウィンドスラストをエミルの皆がつけていた場所に叩き込むと、大樹はスッパリと切れて倒れてしまった。
「そうか、風の魔法なら切れるのか!?いや、盲点だったな。」
「魔法が使えるなら、今度からそうすべきだ。樹も可愛そうだしな。」
「ははは、そうするよ。しかし、助かったよ、ロキシス。」
そういって、ティルは笑顔で握手を求めてきた。その手を握り返し、ロキシスも笑顔になる。
その後、ロキシスとエリナは一度、エリナの家に戻ってきた。すると、ロキシスのお腹がぐ~となる。
「昨日結構食べた筈なんだがな。」
そう言うと、エリナがロキシスのコートの裾をクイクイと引っ張った。そして自分自身を指差す。
「ん?食事の準備をしてくれるのか?」
そう言うとエリナがコクンと頷いた。そして、台所に立って何かを作り始める。それを見ていたが、何もすることが無さそうなので、椅子に座って待つことにした。エリナが調理していたのは、オートミールのような穀物だった。直ぐに香ばしい匂いが立ち篭める。料理は直ぐに出来て、2人で食卓を囲む。
「いただきます。」
ロキシスがそう言うと、エリナはニコリと笑う。いただきますの代わりなのだろう。一口食べると、塩コショウで味付けされていて、とても美味しかった。エリナは口に合うのか心配そうな顔をしていたので、
「美味いよ、エリナ。」
ロキシスはそう伝える。またエリナは笑顔になる。あっという間に2人とも完食し、一息つく。
「初めて食べたけど、香ばしくて美味しかったよ。」
更にそう伝えると、照れたような顔をした。その顔は、ロキシスの記憶にあるロキが見せていた表情によく似ていて、思わず、
「ロキ…」
と、呟いてしまう程だった。しかし、何も解らないエリナはただただ首を傾げるだけだった。
読んでくださっている方々、有難う御座います。