エリナ
とりあえずロキシスは体の調子を確認してみた。元より動いている両手はともかく、体全体に倦怠感があったからだ。立ち上がると、少しふらついた。
(どうやら、長い間眠っていたようだな。)
そう感じて、少しずつ体を動かす。
(そうだ、カグラは何処だ?)
カグラを探すが、近くには無かった。しかし、意識の中で会話できることを思い出して、
(カグラ、何処だ?)
と、呼びかけてみた。すると、
(隣の部屋にいますよ。)
そう返事が来た。ロキシスは部屋の扉を開けて、隣の部屋に移動する。大事そうに壁にカグラはかけられていた。
(もう大丈夫なんですか?)
(あぁ、俺はどれくらい寝ていたんだ?)
(1週間程です。)
カグラにそう言われて、自分が何をしたのか思い出した。かなりの長距離を魔法で移動し、飲まず食わずの状態だったなら仕方ないことだと思った。
(それで、ここは何処だ?)
(あの女の子の家みたいです。何人かの人があなたをここへ運び込んで、女の子が世話をしてくれていましたよ?)
(そうだったのか…)
と、ロキシスがいた部屋では無く、玄関らしい扉が開かれて、女の子と、一人の男性が入って来た。
「おや、もう起き上がって大丈夫なのですかな?」
男性がそう聞いてきた。
「あぁ。どうやら世話になったようだな。」
「まぁ、殆どこの子が世話をしていたのだがね。とりあえず座らないかい?」
そう言って、椅子に座る男性。女の子も、席をロキシスに指差して、座るように促していた。それを受けて、ロキシスは椅子に座った。と、不意にロキシスのお腹がぐ~と鳴った。
「おや、お腹が空いているのかい?」
「長い間寝ていたようなんでね。」
「そうだな。1週間は寝過ぎだと思うが。」
「そういや、自己紹介がまだだったな。俺はロキシスという。助けてくれて有難う。」
「ロキシスか。私はルード。こちらの子はエリナという。」
「済まないが、そこのコンロを貸してくれないか?」
そう告げると、エリナはコクコクと頷いた。ロキシスはコンロの前に立つと、ドラゴンの肉を異空間から取り出し、焼き始めた。
「まさか…収納魔法か!?」
「あぁ。」
「それ程までの魔法を使えるとは。ロキシス、君は一体?」
「まぁ、食事のついでに話そうか。」
ドラゴンの肉を焼きながら、ロキシスは今までの人生を語った。ただし、ロキの話と、自身が神であることは伏せておいた。
「それで、この大陸に着いたんだ。」
「なる程、にわかには信じられないが、このロッキーナ大陸に来た理由は解った。」
ドラゴンの肉をたらふく食べて、落ち着いたのか、ロキシスは眠気に襲われていた。
「もう暫く休養したいんだが、何処か空いている家は無いか?」
「ふむ、この家の隣に空き家がある。そこを使うか?」
「そうか…それはありがたい。」
そこまで言うと、エリナがロキシスの手をとって、首を横に振った。
「どうやらエリナはこの家にいて欲しいらしい。」
「しかし、俺がいるとベッドで寝られないんじゃ無いか?」
そう言うと、エリナは残念そうに項垂れてしまった。ロキシスはエリナの頭を撫でて、
「解った、ここで厄介になるよ。」
と伝えた。すると、エリナの表情がパッと明るくなった。
「しかし、エリナは喋れないのか?」
「…数年前、両親を亡くしてから一言も発していないのだ。会話は理解しているが、我々は文字でやり取りしている。」
「そうか、済まない。」
「何を謝る必要がある。」
そう言って、ルードは立ち上がり、
「今暫くゆっくりと休むが良い。」
そう言って出て行ってしまった。後に残されたロキシスとエリナは顔を見合わせて、
「…とりあえず、眠らせてくれるか?」
そうロキシスがエリナに言うと、エリナがコクンと頷いた。食事をした部屋にソファーがあったので、ロキシスはそこに横になる。エリナが近づいて来て、心配そうな顔をする。
「流石にベッドは君が使うべきだ。大丈夫、何かあったら直ぐに伝えるさ。」
「…」
エリナは納得して、奥に下がり、毛布を持って再び戻ってきた。そしてロキシスに優しくかけた。
「有難う。」
ロキシスが礼を言うと、エリナはニコリと笑って、再び部屋へと戻っていった。
(ロキの雰囲気はあるが…)
そこまで考えたが、直ぐに寝入ってしまい、思考はそこまでで途絶えた。
再び目を覚ましたのは夜中だった。喉が渇いたので、アクセスを使って水でも飲もうかとすると、体の上が少し重いことに気が付いた。目を開けて見てみると、エリナがお腹の上で、抱きついて眠っていた。よく見ると、目頭に涙が浮かんでいる。
(…一人で寂しかったのか?しかし、一応大人に近い体つきなんだから…)
そう考えてから、ロキシスは起こさないように気をつけながらソファーを抜け出して、エリナを抱き抱えてベッドへ連れて行く。穏やかな顔をして眠る女の子に、自然とロキシスは笑顔になる。
「ロキ…本当に転生したんだな。でも…俺のことは覚えていないようだ。それが1番寂しいよ…」
ロキシスはベッドに運ぶと、手を握りしめて、一人愚痴った。
読んでくださっている方々、有難う御座います。