女の子
ロキシスは不思議な夢を見ていた。今まで出会ってきた様々な人、その人達との出来事が過ぎっていく。
(これは…走馬灯か?)
ただその中に、一人だけ顔も姿も映らない人がいた。
(君は…誰なんだ?)
(ロキシス。やっと、やっと見つけてくれたね。)
その人がそう言ってくる。
(あぁ…そうか…俺は…この人に会うために…)
手を伸ばして、その人に触れようとする。しかし、届かない。その人は首を振って、
(今はまだ…)
そう言った。そして光りが溢れだし、記憶が鮮明になっていく。
(ロ…キ…!)
意識の奥底から溢れ出るその思いのたぎりを込めて、ロキシスはそう叫んだ。
「ロキ!」
いきなり現実に戻ってきた。突然大声を上げてしまったが、冷静さを取り戻していく。右手で顔に触り、今まで見ていた夢のことを思い出す。
(参ったな…何故ロキの事を忘れかけていたんだ?)
中途半端に覚醒していた頭が冴え渡る頃、左手に柔らかい感触を覚えた。ふと見ると、女の子がロキシスの手を握りしめて、ロキシスの左太股を枕代わりにして、椅子に座って眠っていた。
(この子は…あの時の?)
ロキシスは思い出していた。新大陸に着いたこと、ドラゴンの肉を調理していて、サーベルウルフに襲われそうになっていた女の子を助けたことを。
(そうか…無事だったか。)
そう考えていると、女の子が身じろぎした。ロキシスは右手一本で自身にかけられていた毛布を女の子の肩にかける。そうしてから周りを見渡す。小さいながらもしっかりとした部屋で、ベッドが1つ、クローゼットのような物が2つある。机が1つと椅子が2つあった。
(…ここは何処なんだろうな。)
ロキシスは考えても仕方が無かったが、女の子に左手を握られていて、身動きが取れなかった。と、不意に女の子が目を覚まし、ロキシスと目が合った。
「…」
「…」
お互い固まってしまうが、女の子は何も言わずに手を見て、ロキシスの手をずっと握っていたことを思い出して、赤面しながらその手を離した。
「そう驚かれると、困るんだがな。」
ロキシスはそう言うが、女の子は喋らない。
「なぁ、ここは何処なんだ?」
そう質問してみても、女の子は答えない。ただ赤面しているだけだった。ふと、ロキシスの頭の中に浮かんだのは、
「もしかして、話せないのか?」
そう質問すると、女の子はコクンと頷いた。そして、ロキシスの左手を取ると、手のひらに文字を書き始めた。しかし、その文字はロキシスの知らない文字だった。
「済まない、知らない文字だ。」
そう告げると、女の子は悲しそうな顔をした。
「誰か話せる人を呼んできてくれないか?」
ロキシスがそう言うと、パッと明るい笑顔を見せて、女の子は部屋を出ていった。ロキシスは先ほどまで握られていた左手を見つめて、
「…ロキの感じがした。」
そうポツリと言った。
読んでくださっている方々、有難う御座います。