エリナの叫び
ロキシスがエリナを治療して数日後、ロキシスはティルや他の男達と共に森に狩りに出掛けた。その間、エリナとフィオーレは村にある畑で作物を収穫していた。
「ふぅ、今年も良い出来ね。」
フィオーレがそう言うと、エリナもコクンと頷いた。
「エリナ、やっぱり話せそうに無い?」
フィオーレがそう聞くと、エリナは申し訳なさそうな顔をする。
「う~ん、ロキシスの見立では、心の傷だからなぁ。まあ、ゆっくりと話せるようになるわよ。」
「…」
エリナはまた残念そうな顔をする。数日間、エリクサーの効果を浸透させても、エリナの声は戻っていなかった。それでもロキシスは諦めてはいない。その事がエリナにとってとても心苦しい事であった。
「…?」
と、村の入り口の方からざわざわと声がする。
「何かしら?エリナ、行ってみましょう。」
エリナはコクンと頷いて、フィオーレの後に続いて、村の入り口の方へと向かった。村の入り口では、村長が見知らぬ誰かと話をしていた。
「それは困る。」
「そう言うなよ、我々デミールの配下になったら、もっと良い暮らしが出来るんだぜ?」
どうやらデミール族の連中が3人、村に来たようだった。
「私の一存で、それを決めることは不可能だ。悪いが帰って貰いたい。」
「クックックッ、俺達もガキの使いで来た訳じゃねぇ。なぁ、村にいるのはあんたらだけか?」
「だとしたらどうだというのだ?」
「ヘッ、丁度良い。おい、後ろの女2人、お前達を可愛がってやるからこっちに来い。」
「なっ!?」
そう言うと、男の一人がエリナとフィオーレに近付こうとする。
「止めろ!」
「うるせぇ!」
バキッと音をたてて、ルードが殴られ、吹き飛ばされた。
「そ、村長!」
「…!」
「に、逃げろ2人とも!」
ルードがそう言うが、エリナとフィオーレは足が竦んで動けない。
「まあ、大人しくしとけや。直ぐに気持ち良くしてやるからよ。」
下品な笑い声を立てて、男達が2人に近付く。と、そこでエリナは思い出した。ロキシスから笛を渡されていた事を。慌てて笛を取り出し、力一杯吹く。
「なんだ?何の音も鳴らねえ笛なんざ吹くよりも、俺と楽しい事をしようや。」
更に男達が近付いてくる。
「エリナ、逃げて!」
フィオーレが男達に殴りかかる。が、
「大人しくしてなって!」
雷系の魔法を男が使い、電撃に打たれてフィオーレが倒れた。エリナはフィオーレに近付いて抱き起こす。
「ばっ、バカ!はっ、早く逃げ…て!」
「暫くまともに動けねえよ。しかし面白くねえな。よし、お前等にその女はくれてやる。俺はまだ元気なその女とやるからよ。」
ヘっへっへっと、3人の男達が近付いてくる。エリナは恐ろしく感じて、
「ロキシス…」
と、小さな声を上げる。
「は?なんだって?」
「ロキシスー!」
今度は大きな声でその名を呼んだ。
「へっ、誰が来たって同じ事だ。」
「俺達に勝てる奴らなんざ、エミルにはいねぇよ。」
そう言って、エリナに触れようと手を伸ばした瞬間、横からの衝撃で3人共吹き飛ばされた。
「がは!」
「ぐへ!」
「げふ!」
大木や壁に叩きつけられて、男達が息を吐く。エリナが見たものは、ロキシスの背中だった。
「ロキシス!」
「よう、エリナ。思った通り綺麗な声だな。無事に声が出て良かった。」
「ロキシス、フィオーレが…村長が…」
「大丈夫だ。」
そう言うと、ロキシスは高速で移動し、倒れていたルードを抱えてエリナの元へと近付く。そして、ルードとフィオーレを寝転がして、ヒールの魔法をかけた。
「ぐ…てめえ…!」
そこで男達が目を覚ましたらしく、こちらへ向かって来た。
「やれやれ、もう少しで治療が終わるのに…」
「てめえ、何者だ!?」
「エリナ、奴らを片付けてくる。2人の事を頼むよ。」
「ロキシス、気を付けて。」
「大丈夫だ。」
ロキシスは笑顔でエリナの頬を撫でると、男達に向き直った。
「質問に答えろ、てめえは…」
「五月蠅い!俺は今、無性に腹が立っているんだ!」
ロキシスが男達を睨む。
「エリナが初めて喋ってくれた。でも、それを悲鳴にしやがって!てめえ等、覚悟は出来てんだろうな?」
「やっちまえ!」
男達3人が同時にロキシスに襲いかかってきた。だがそこは百戦練磨のロキシス。最初の一人にボディーブローを叩きこみ、次の男をアッパーカットで顎を砕き、最後の男にはローリングソバットを叩き込んで沈黙させてしまった。しかも一瞬で。
「やれやれ、サーベルウルフの方が強いよな、やっぱり。」
そう言うと、ロキシスはローリングソバットを叩きこんだ男の髪の毛を掴んで持ち上げ、腹に拳を叩き込んで起こした。
「ぐはっ!」
「てめえ等、この村になんのようなんだ?」
「…」
「言いたくない…か?なら死ぬか?」
ロキシスは髪の毛を掴んだまま投擲の態勢を取り、力一杯壁に投げつけた。グシャと嫌な音を立てて、男の頭が壁に対してつけられて潰れる。
「さて次は…お前だな。」
顎を砕かれた男の髪の毛をまた掴んで持ち上げて、ロキシスは同じように質問する。今度は答えようとするが、顎が潰れて声が出せないようだ。仕方なくヒールで最低限顎を治してやると、
「お、俺達は…ただ…安息の地が…欲しかった…だけなんだ…」
「安息の地?」
「そっ、そうだ!俺達は…ならず者で…デミール族からも疎まれて…なあ、た、頼むよ。見逃して…くれ…」
「…」
掴んでいた髪の毛を離して地面に降ろし、ロキシスは男に対して、
「2度とこの村にくるな。約束を違えたら、さっきの奴の二の舞にしてやる。」
と、いった。男はもう1人の男を抱えて村から出て行った。それを見届けて、ロキシスは再びルードとフィオーレの治療を続けた。
「ねえ、ロキシス。2人は大丈夫なの?」
「勿論だ。直ぐに目を覚ますよ。」
「…良かった、本当に良かった。有難う、ロキシス。」
「…」
「…?どうしたの、ロキシス?」
「いや、話せるようになる前から、エリナってこういう子かと思っていたんだ。想像通りの声だったし、話せるようになって良かった。」
「…!ご免なさい。」
「何を謝る?」
「私のせいで、2人が傷ついて…」
エリナは泣きそうな顔をした。
「エリナ、別に君のせいじゃないだろう?悪いのはあいつらだ。」
「でも…」
「それに、2人もこうして無事だった。だから大丈夫だ。」
「うぅ…」
エリナはロキシスの胸の中に顔を埋めて泣き出した。それを、優しく抱きしめて受け止めるロキシスだった。
呼んでくださっている方々、有難う御座います。




