プロローグ
ここはアスメニア王国の東方にある冒険者の集う街『商業都市ミュール』
大き過ぎず、小さ過ぎないこの街から冒険者としての第一歩を踏み出す人も少なくはない
そんな冒険者を迎え入れ、手助けし、仕事を斡旋する
それがギルドである
些細な日常の手伝いから素材の採取、調合、要人の護衛や荷物の運搬などをはじめとし、モンスター討伐などの依頼を冒険者達は引き受け、仕事をこなし、報酬を受け取る
多種多様な仕事の依頼が毎日たくさん舞い込むこの街のギルドには
1人の『元』令嬢が受付嬢をしておりました
「ようこそ、ギルド『ヤドリギ』へ。本日はどのようなご要件でしょうか?」
冒険者登録はいつでも大歓迎ですよ
私、リディメリア・ロアはグランディオール王国の侯爵令嬢である
ロア家といえばこの国の王の宰相を務める父を当主とする侯爵家でかなりの権力を保持している
そんなロア家の長女として生を受けた私は、侯爵令嬢としての立ち振る舞いを完璧にこなせる様に厳しい教育を受けた
その教育のたわものか、10歳の時にこの国の王太子であるレグルス・イレ・グランディオール様と親同士の決定による婚約が決まった
フェリクス国王と王妃の間に生まれた第1王子のレグルス様との婚約、王位継承第一位の彼との婚約で私の将来は未来の王妃になるレール引きに変わっていった
さらに厳しくなった教育
私を取り巻く待望や嫉妬の視線
息苦しいだけの毎日
私は笑顔の仮面を貼り付けて薄暗い毎日をやり過ごしていった
親同士が勝手に決めた婚約の為、私に興味も示さないレグルス王太子とはまともに会話もしたことが無い
せいぜい夜会のエスコートのみである
目線すら合わせてもらえない、ダンスも1度踊るのみ
どこから見ても冷めた関係の私達
レグルス様の周りには私の"座"を狙う令嬢達が色を纏って囲んでいる
幸せな結婚なんて出来ないと、
最初から分かっていた
15歳から貴族のみが通うことが出来る学園
そこでは3年間に渡り一般教養をはじめ、魔術の授業も教わる
何故貴族しか入れないかというと、学費もそうだが魔術が使えるの有無が関わってくる
血によって遺伝する関係で魔力を持って生まれてくるのは貴族が圧倒的に多い。その為学園の生徒のほとんどが貴族というわけである
ごく稀に平民生まれにも魔力を持つものが現れるが、彼らは貴族の養子に入り学園に通うことが出来る
もちろん貴族の中にも魔力を持たない者もいる。そんな生徒は魔術の授業がない代わりに剣術や調合などを学ぶことが出来る
リディメリアはもちろん魔力持ちである
成績は常に上位をキープしている事はもちろん、魔術にいたっても幼少の頃から練習している為魔力操作は抜群の腕前
同じく常に成績1位を取り続けているレグルス様の隣に並んでも謙遜のない様にと日々精進していた
事態が一変したのは2学年に入ってからだった
平民からの編入生が入ってきた
珍しい平民での魔力持ち、もちろん貴族の養子になってからの編入ではあるが『彼女』は一気に注目の的となった
この国では珍しい漆黒のサラサラな髪、真っ黒の瞳、明るい性格で周りにいる人もつられてしまう笑顔
そんな彼女にレグルス様は惹かれてしまった
私には見せたことの無い笑顔で彼女に笑いかけ
私には差し伸べたことの無い手を彼女には差し伸べる
レグルス様との関係はもう終わるんだなと思った
悲しくはない
悔しさはある
未来の王妃として厳しい教育をされていたのに無意味になってしまったんだという虚無感
レグルス様に恋愛感情は無かったけれども、未来の王を支えたいという願望はあった
けれどもこの婚約はきっと破棄されるのだろう
そして彼女が選ばれるのだ
1年も経てば平民上がりは珍しさからレッテルへと変わっていく
出る杭は打たれるの言葉通りに彼女は最近イジメにあっているようだった
ノートが捨てられる程度から始まりこの前は階段から突き落とされたという酷いものまで
そしてそのイジメを指示したのがリディメリアだという噂が広がっていた
婚約者の立場を奪われそうになっているが故の嫉妬に駆られて、そんな謳い文句と共に
もちろんリディメリアはそんな事をしていない
しかし噂の一人歩きは進んでいき、リディメリアは学園でもどんどん孤立していった
そして
「リディメリア・ロアよ、俺は今ここで貴女との婚約破棄を宣言する」
会場が一気にざわめいた
皆の視線を一同に浴びて尻込みしまいと背筋を伸ばした
「そしてアイリに対しての嫌がらせの数々をここで断罪させてもらう」
学園の卒業パーティーの日、私は無実の罪で濡れ衣を着せられて婚約破棄され断罪もされました
超スローペースでの連載になります。内容の関係上最初は薄暗い話ですが、ほのぼのスローライフ目指して書き進める予定です!よろしくお願いします。