幻視(夜)→(朝)
夜風は宇宙からやってくる
神の静謐なる寝息
乙女は髪をなびかせ 地平線を汽車が滑りゆく
白銀に輝く月は湖面に映え
旅人は琴を手に朽ちた城壁の上で朗々と謡う
森の精は大気に融け 不可視光線となって天蓋へと駆ける
天使が捧ぐ杯から溢れた葡萄酒は 大地を細かな球体となって這い出した
地球の裏側で牧童が笛を勢いよく吹いた時
闇は光へと変わり 光は闇へと変わる
地球の片隅の地下へと続く螺旋階段で
黒く長い外套の男がゴホンと咳をした時
一つの命が消え 一つの命が生まれる
消えた命は宇宙へ還り
生まれた命は朝日に照らされる
風車の羽根が半周した時
世界は明日を迎える
少女の瞳が閉じ 薔薇の花弁が散ったとき
世界は昨日と別れを告げる
諏訪地 路峯