6 勇者アルディーンの戦い6
宍井の特記事項である『この世界のルールは俺』
それは、生み出した世界内のルールを構築できるものだった。
そして形式上ではあるが、自分だけが優位なルールを作成できない。
ルールブックを読むと、宍井自身にも相当な負荷をかけていることが分かった。
ポーカーフェイスを決め込んでいた奴だったが、大きく勝負にでていたことがうかがえる。ルールを開示しないつもりだったからできる荒業だ。
【絶対ルール】
『もし誠司がゴールをすれば、人質はすべて解放する。ただし参加拒否をすれば、人質を即座に溶かす。
もし誠司が参加を拒否すれば、宍井和也の寿命は半分になる』
『ゲーム開始と同時に、宍井和也と誠司は特記事項を賭けて勝負をし、勝者は敗者の特記事項を覗くことができ、必要な一文を自分の特記事項に記すことができる』
上記の絶対ルールなんて、僕が確実に参加すると読んだ上で書いたに違いない。その付近には色々と書かれており、一方的なルールには二重取り消し線が引かれている。ガイドブックに記された落書きの数々が、僕だけに不利な条件を作れないってことを如実に証明している。
ルールブックを熟読し、敵の舞台へと足を踏み込む。
スタート地点に立った瞬間、周りの景色が変わった。
まるでここは、元いた現代の世界。
アスファルトの道の両サイドには、一定間隔に電柱が立っており、見渡せば青や赤の瓦の住宅街が続いている。
目の前の空間に『通学路』と表示されている。
宍井は、
「病んだ人生ゲームへようこそ」とほくそ笑む。
宍井は学生服へと変わっており、先程より血色は良くなり、随分と若返っているように見える。
僕は自分を見た。
――なんだ、これは!?
「どうだ? 若返った気分は。
今、みんな14歳ってことになっている。これからもう一度、花の中二時代を楽しんでもらうよ。俺はリアル志向でね。みんなにも、その頃の姿に戻ってもらった」
途端、玲亜さんは、「わー! こっちを見るな!」と騒ぎ出した。
聖華さんも、「こちらを見ないでください」と続く。
見るなと言われたが、玲亜さんはすでに視界に入っている。
想像していたが、バリバリのヤンキーだ。
時代遅れのセーラー服に地面スレスレのロングスカート、何故か片手にはけん玉。
そのけん玉は、もしかして当時のあなた様の武器ですか?
玲亜さんは僕をギロリと睨み、「笑ったな?」と唇を尖らせる。
「い、いえ……」
「それよりも、誠司さん、なんなんだ、その恰好?」
学ランを雑に着こなした僕。
胸を晒しており、『勇者番長』とマジックで書いてある。
「い、いや、弱い者イジメをする悪い輩は、この勇者番長が……。若気の至りってヤツです」
思いっきり笑われた。
聖華さんはどんな学生だったんだろう。
真っ青になってうつむいている。
彼女は私服姿。
ここに来た時から座っている車いすに腰を預けたままだが、なんら変わっていない。
ちょっぴりだけ若く……というより幼く見えるが、いつもの聖華さんのようだ。
「どうしてそんなに真っ青なんですか? 別に何もおかしくはありませんが?」と、僕。
「え? あ。そっか。特記事項にお願いを書いたんだっけ。あれっ、動けるみたい」と、手をパタパタさせる。
――お願い?
過去に何かあったのか。
邪推することではないから、そっとしておこう。
彼女の行動でひとつ分かった事がある。
特記事項は絶対優先だからこれは想像していた範疇なのだが、特記事項に書いた能力がゲーム内に持ち越せている。
聖華さんのスタン状態だけが解けたってことか。
こちらは三人で連係プレーをするという条件を呑んでもらい、代わりに宍井には先制権を許した。
まずは宍井のターン。
宍井の目の前にルーレットが現れ、そいつを回す。
遂に決戦の幕は切って落とされたのだ。
宍井を見た。
奴は僕の視線に気づいたのか、こちらに横目を流して微笑を浮かべる。
僕は宍井の特記事項の弱点を見破ったのだ。
それなのに『ルール』で勝負を挑んでくる。
これは確固たる自信の表れなのだろうか?
それとも奴には、まだ秘策があるというのか?
だが、僕にとっては好都合なのだ。
このゲームに課せられた絶対ルールに『もし誠司がゴールをすれば、人質はすべて解放する』とある。
僕は神を救うことができる唯一の手段を手に入れたのだ。
それはこのゲームで勝利すること。