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5 勇者アルディーンの戦い5

 懐中時計を開く。

 時刻は午前6時15分。

 僕達三人は、オフィス地下のコロシアムにいる。


 そして中央のステージには、白いスーツ姿の宍井和也が腕を組んでいる。

 部屋が暗いせいだろうか。

 顔の彫りが一段と強調されており、不気味なくらい痩せこけて見える。

 白く染めた長髪で、シャープなメガネをしている。


「ようこそ。誠司会長。それとお供の方」


 奴の声が不気味に木霊する。


 僕は「仲間と再会させてくれるんじゃなかったのか?」と問うた。


 宍井はひとつ笑う。


「俺は手紙に、『どうぞ感動の再開を果たしてください』と書いたが? 感動をするには、それなりの苦労が必要だろ?」


「くだらない御託を並べやがって。どうして僕達を狙った?」


「俺は梶田を倒した君達に注目していた。

 梶田とは『オルドヌング・スピア』という名の裏組織のパーティーで出会ったことがあった。

 梶田は、人は嘘をつくので信用できんとかぬかすちっぽけな男だった。

 人は嘘をつくことなんて至極当然だ。

 だから嘘をつくことを前提でルールを構築すればいいだけの事なのに、それに気づいていないなんて、なんて哀れな……

 だが、梶田は驚異的な特記事項と魔獣部隊を持つ。

 それを破った者がどういう人物が気になって調査したんだ。

 どうも弱者を守るために、人材派遣会社を設立するそうではないか。

 なんと愚かな考えだ。

 弱者など助けてどうなるのだ?

 もし君達が力を持てば、この世界は大変な世の中になる。

 折角、力こそすべての世界が構築出来ているのに、弱者を守るなんて滑稽ではないか?

 この世界は嘘と欲望で満ち溢れている。力があるものが好き勝手できる。

 この世界も、元いた世界のように福祉国家にされちゃぁたまったもんじゃない」


 宍井は飄々と非常な事を言い放った。

 心底そう思っているのか!?

 こいつの言動に、憤りすら通り越す。


「力ある者が弱い者を守ることは当然じゃないか! そして弱い者達はいつまでも弱者ではない。何か出来る事を見つけて頑張り、力を身に着け、そして弱者を守る側の人間へとなる。そうやって人は助け合って生きていくんだ」


「あはははは!

 それ、マジで言ってんの?

 馬鹿じゃねぇのか?

 笑いしかでねぇよ。

 弱者なんて守ってどうすんの? 大抵の弱者は、知恵すらない社会のゴミなんだぜ? 一旦弱者保護の社会が出来上がっちまうと、そいつらは得た権利を主張しだす。さらには弱者のふりをして甘い汁を吸っているだけの金食い虫まで出てくる。

 歴史を見れば明らかじゃないか?

 どうしてそれを学ばなかった?」


「違う! 人は誰かの役に立つ喜びを知り、そして成長していく。お前が言うのは自分勝手なエゴだ」



「ふん、偽善者が。

 まぁいいか。

 軽く自己紹介しておくよ。

 俺は宍井和也。

 俺は『ルール』を構築できる。

 つまり世界の創造主になれる男だ。

 そして俺は梶田の命を狙っていた。

 厳密に言うと、梶田の特記事項を、だが。

 梶田は、嘘をついた者からステータスの吸収ができる。

 それは、かなりチートなスキルだ。


 だがそんな梶田にも特記事項の吸収まではできない。


 ふふふ、実は俺にはできるのさ。特記事項の略奪が。

 厳密に言うと、若干違うが。


 俺には、ルールに『特記事項を賭けて戦う』という設定を組み込むことができる。


 ただし、ステータスやボーナスポイントを賭けることはできなかった。

 特記事項の奪い合いは、意外と使えないんだ。

 大抵の奴の特記事項は愚痴だし、強い奴は、単に負荷をかけているだけだ。そんなのを手に入れても仕方ない。

 だから梶田の特記事項を合わせ持つことができれば、俺は最強となる

 ステータスと特記事項が略奪できるようになるのだ。

 だが残念なことに、君達の手によって俺の思惑は崩れ去った」



 なんて野郎だ。

 その『ルール』って特記事項は、そのような事までできるのか!?

 それに奴は知っていた。


 僕が梶田を倒した、と。

 奴は僕の正体を知っている……


 更に奴は言った。

 特記事項を奪える、と。

 それをわざわざ告げると言う事は、つまり――


「お前の目的は、僕の命だけじゃないってことか……」


「ご名答。

 梶田を倒した者達が持つ特記事項には興味があってね。俺の特記事項と反発する力も気になる。あと、神に聞いたのだが、君は邪属性に対してかなり強いみたいだな。この世界には邪悪な人間だらけだ。その力はかなり使えそうだ。どうだろう? その力、俺にくれないか?」



 ――神!?

 あの白い仮面の女か。

 あの女からは、やばい臭いがプンプンする。

 とにかく全身が熱い。

 嫌な汗が僕の頬を伝っている。



 宍井はクスリと笑う。



「そんなに構えるなよ。

 これは君にとっても悪い話しではない。

 互いの特記事項を賭けて勝負しようと言っているだけだ。

 もし君が勝てば、俺の『ルール』もしくは『裏切り者は異次元送り』は君のものだ。

 いらなければ、破棄すればいい。

 それに安心してくれ。

 俺は梶田と違い、嘘が嫌いでね。

 あいつは他人の嘘が許せないくせに、自分は嘘ばかりついている。

 俺は公平なルールの元、君と戦いたい。

 どうだい? ここはひとつゲームをしないか?

 お互い賭けるものは、特記事項」



 やはり誘ってきたか。


 

 施設内を見渡す。

 宍井の立っている特設リングに『スタート』と書かれたのぼりが立っている円状のタイルがある。

 そこから道が派生しており、このコロシアムを散々回って、リングの端に『ゴール』と書かれたタイルへとたどり着く構図のようだ。



「もし断ったら?」


「君にその選択肢はない。参加への拒否は、仲間の死を意味する」


 宍井は親指を下に向けて、ニヤリと笑う。



 奴がどう答えるかなど、知っていたさ。

 だからもう一つ問う。

 これは忠告だ。


「お前は嘘をつかないと言ったな。信じていいのか?」


「あぁ、これから行うゲームにおいて一切の虚偽をしない。約束する」



 最強に思える特記事項『ルール』。

 だが、それが同時に奴の弱点でもあると推測している。

 自在に『ルール』が構築できるのなら、こんな手の凝った勝負などする必要などない。

 その自慢の能力を使って、僕を殺して特記事項を略奪すればいいだけなのだから。

 だから僕は聞き逃さなかった。

 先程、奴自身が致命的な弱点を口走ったのを。


 ・ボーナスポイントやステータスを賭けて戦えない。

 ・特記事項なら賭けることができる。



 つまり――



「お前は嘘をつかないのではない。今は嘘をつけないだけ。

 そしていずれ、ゲームの最中、お前は嘘をつくだろう。

 なぜなら、その『ルール』という能力は、自分だけに有利な条件を作り出すことができないからだ。ルール作成にはバランスが必要である。

 YesかNoで答えろ!」



「ふ、Noだ。そんな訳ないだろ?」



 宍井はすました顔でそう言っているが、紛れもなく虚偽。


 なぜなら――

 ステータスは完全たる数字だ。

 だから同率の賭けが成立しにくい。

 同一のレベルでも、腕力、守備力、スキル、すべて異なる。


 だが特記事項なら、どうだろう。

 内容こそ異なるが、基本プラスマイナスゼロ。

 それを証拠に、僕は裏切らないという縛りを入れる事により、如何なる邪悪をも貫ける拳を手に入れた。

 プラマイゼロとプラマイゼロなら、同一条件で成立する。



 つまり、成立するのは平等な条件の賭けのみ。



 そして試合前にあらかじめ『条件』を提示してきた。

 自在に特記事項を狙えるのなら、そのような条件提示などせずにさっさと奪えばいい。

 僕ならそうする。

 本気で相手を倒す気があるのなら、無駄な自己紹介などせず、登場と同時に特記事項略奪。これがベストである。

 わざわざこのような舞台まで作ってまで、勝利に固執するなら、尚の事。


 つまり僕の推測は間違っていない。


 指をパチンと鳴らした。

 これは、第一の合図。

 ここに来る前、こちらの神に筆談で計画を伝えておいた。


「どうだ? 動けないだろ?」


「なっ!? どうしたというのだ?」



 宍井は完全静止。

 引きつった表情で、頬だけをブルブルと微動させている。



「我々の神は、お前をいつでも麻痺させることができる。そして僕の拳は如何なる悪をも貫く。これは警告だ。僕はいつでもお前を消滅させることができる。

 だが。

 敢えてお前の土俵に上がってやる。

 言っておくが、もし卑怯な真似をしたら、即座にお前を狩る!

 つまりお前の生殺与奪権は、こちら側にあるということだ。

 もう一度問う。

 そのルールはどちらか一方だけに対して有利な条件を作れない。

 特記事項にはプラスマイナスのバランスが必要だ。

 つまり『ルール』自体はフェアーである。

 そのような能力で戦うのなら、お前は偽計を使うしかない」



 宍井は背を反らし、天井に向かって大笑いを始めた。



「ぐふ、……ふふふ、はははははっ! さすが梶田を倒しただけはある。面白い。それでなくては、戦いがつまらないものになってしまう!

 そうだ。

 俺の『ルール』は、一方的な決まり事を作れない。

 あくまで形式上だが、双方に同格のメリット・デメリットを用意する必要がある。

 それにあの豚……。

 さすが神だ。

 異空間にぶち込んだのに、この俺を完全静止させるとは……

 次元の狭間に飛ばした後、特記事項を交換しようと試みたが……あまりにも恐ろしい内容だった。それにすべてボーナスポイントと化していた……。危なくデメリットだけを手にするところだった……」

 


 こいつは、神の特記事項を見たのか!?

 恐ろしい内容だと言った。それは驚異的な負荷なのだろうか。

 ということは、神はかつて人だったということか?

 どれくらいの負荷をかければ、人は神になれるというのだ?

 だが、今はそれを勘ぐる時ではない。



「宍井和也。これから行うゲームのルールの開示を要求する」



 宍井は赤い手帳を投げてきた。

 それを受け取り、目を通す。


 釘を刺した上で、もう一度問う。


「これはすべて本当か?」


「そのルールブックに書かれていることがすべてだ。嘘偽りはない」


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