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42 農民ゲーム3

 聖華さんと阿久津が対峙して、10分が経過している。

 だがそれは、僕にとって1時間以上も長い闘いに感じていた。



 手にするカードを一枚出しては、新たなカードを一枚ひく。

 それだけの単純なゲームなのに、ターンを重ねるたびに聖華さんは、阿久津を圧倒的に引き離している。

 


 そして9ターンがやってきた。

 それぞれ、最後のカードを出すだけ。




【聖華】

 農民 12581

 農地 184912(二期作)

 農力(総合ポイント)36974514


【阿久津】

 農民 91

 農地 154

 農力(総合ポイント)238




 完全に勝負がついた。

 最後のターンを待つ必要もない。

 さらに聖華さんの陣営は下記のカードが、常用スキルとして毎ターン発動しているのだ。


『二期作』   …… 生産力2倍

『豊作祈願』  …… 常にクリティカルヒット

『鉄壁のかかし』…… 害虫による被害をゼロに抑える

『農地改革』  …… 穀物に付加価値が付き、値段高騰

『圧勝の鍬』  …… もし卑劣な年貢を要求されても、つっぱねることができる

『農民無双』  …… もし軍が襲ってきても、返り討ちにできる。




 どうひっくり返しても、これを覆すことなどできないだろう。



 今までハラハラドキドキしていた僕ではあったが、ようやく安堵の溜息をつくことができた。



「聖華さん! あと一手です!」



 だけど、どうしたというのだろうか。

 聖華さんは、固まっている。



「誠司さん。ごめんなさい。私、積んでしまいました」

「え、どうしてですか?」



 阿久津は黙ってこちらを見ている。

 その目は、まるで笑っているかのようだった。



「どうする? このゲームはジャンプはできねぇぜ。あんたが出さなければ、無駄に時間が過ぎるだけだ。あんたは俺に勝った後も、まだやるべき工程がつかえているんだろ? 判断は早く下した方が得策だ」



 聖華さんのカードは――

『雨ごい』

『一揆誘発』

『イナゴ大量発生』



「誠司さん。私は勝つためにカードを選択していたのではありません。使えないカードを避けていただけです。この現象は、たまたまの偶然です」



 それはどういう意味なんだ!?

 阿久津はニカリと笑った。



「ほぉ。鋭いじゃねぇか。なら、どうしてあんたは、負けることが分かっていたのに乗ってきたんだ?」


 

 聖華さんはカードを一枚選ぶ。

 それは『雨ごい』のカードだ。



 彼女の手は震えていた。



「農民ゲームのカードは、全部で100枚。

 肌感覚ではあったけど、大きく分類して、自軍の育成カードが約3割。

 敵陣を攻撃するカードが約3割。

 全体への状態変化が約3割。

 つまり6割ちょっとのカードが使えない……」


 

 それはどういう意味なんだ……!?

 


 僕はハッとした。

 阿久津の特記事項は、『俺の畑を荒らす奴は、如何なる者も許さない』である。

 阿久津陣の農地に影響するカードを使ってしまったら、おのずとその異能が発動してしまうということなのか!?



「そうなのです、誠司さん。

 逆を言えば3割程度のカードは使えます。

 そう、自軍に効果のあるカードのみ。

 このゲームは、全部で9回戦ある。

 その安全カードを引き続ける確率は、3の9乗。

 つまりこのゲームで勝てる確率は、19683分の1ということになってしまいます」

 



「負けることが分かっていて、勝負にでたのか!?」



「いいえ、最初から負けるつもりで勝負などしません。そして私なりに彼の弱点を探っていました。そして分かりました」



 聖華さんは僕の方を振り返ると、にっこり笑いました。



「ごめんなさい。誠司さんは誰も裏切らないから、私はその言葉に甘えてしまいました。この農民ゲーム。勝率は19683分の1です。阿久津さんが勝つためにだけ、構築されたゲームです。だからこそ、弱点があります。

 ――そう教えてくれたのです。

 あの人が……」



 ――あの人。



 聖華は雨ごいのカードをテーブルに置く。

 彼女の目じりから涙が散った。

 それと同時に、彼女の姿は桃へと変わった。そのまま地へ落下しようとしている。


 僕はそれを受け止めた。



 阿久津はニヤリと笑う。


「ククク。そうよ。これは俺が完全勝利するためだけのゲーム。

 どうする?

 勝ち目なんてゼロなんだぜ?

 逃げるか? それとも挑戦するか?

 俺を殺してもいいんだぜ? お前なら簡単だろ? 怒りに任せて殴りつけてくるだけで、俺は粉砕されちまうだろう。ただしお前の仲間は、果物になったままだけどな。果物なんてあっという間に腐っちまうぜ。

 ククク。

 とっとと決めな。

 絶対に裏切らない勇者君」

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― 新着の感想 ―
なんで雨乞いのカードが相手の畑を荒らすんだ? 相手にも利点のあるカードなんだから荒らしたことにはならないだろ つまり最後雨乞いのカードを出した時点で勝ち決定じゃないかな?
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